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見失われた企業経営

「変化を妨げる」性質を持つ従来の組織論は放棄されるべきだ。そのためには、この組織論が具体的にどのような悪影響を及ぼしているのかを徹底的に分析し、一つずつ排除していく必要がある。

世に数多く存在する企業の「組織論」や「管理論」(マネジメント論)をひもとくと、企業組織とは「企業目標を達成するための体制とその運営」を目的としたものである、という趣旨の記述が必ずと言っていいほど総論部分に現れる。

しかし、この「うたい文句」は、それ以降いくら目を凝らして何度読み返しても、その具体的な中身や実践については全く記されていない。つまり、これらの組織論者たちは、そもそも企業経営そのものに対して微塵の興味すら持っていないということに他ならない。

そこにあるのは、「企業の目的は利潤の追求である」という誤った前提に基づいた誤解だらけの観念――つまり、「企業は利益を最大化するように行動する」という程度の薄っぺらい主張に過ぎない。

では、その間違いを認めた上で、「利潤追求のためにはどうすればよいのか」という基本的な問いに答えているかと言えば、それすらも一切触れられていない。まるで核心から目を背けているかのようだ。一体どういうつもりなのだろうか。

組織論者たちの関心が向けられているのは明らかに「日常の繰り返し業務」だ。日常業務を効率的に管理できさえすれば、それが優れた事業経営だと言わんばかりだ。この考え方こそ、典型的な官僚的発想に他ならない。決まりきった業務を、決まりきった手順と過去の前例に従って処理していくことを是とする姿勢そのものだ。

その結果、階層や職制がどうだ、職務や職能がどうだ、ラインとスタッフがどうだといった話に始まり、責任だ権限だ、指令系統だ、統制だ、手続きだといった具合に、全くくだらないうえに静的(スタティック)な理論というよりも、雑多な議論が次から次へと繰り返されるだけだ。

最後に持ち出されるのは「人間」というテーマだ。生き甲斐だ、やる気だ、人間関係だといった、的外れで薄っぺらい理論が並べ立てられる。そして結局、「人材育成」や「人格の陶冶」といった曖昧な結論にたどり着き、無理やり幕引きを図るというのがオチだ。すべてが実証的な根拠に欠ける観念論と、表面的な人間論の寄せ集めに過ぎない。

これらの理論が企業組織の中に実際に導入され、その結果がどうなるのかについて考えた形跡は全くない。結局、それは無責任な人々による、美辞麗句を並べた理論遊びに過ぎない。現実の成果や影響に目を向けることのない、空虚な議論の積み重ねだ。

これが理論遊戯に過ぎないという事実は、私自身が十五年以上にわたる会社勤めの中で、嫌というほど実感させられてきたことだ。現場の現実とは乖離し、何の役にも立たない空虚な理論ばかりが横行している状況に、辟易させられる日々だった。

何も分からないなりに、私は自分の仕事に真剣に取り組み、自分なりの真実を求めて必死にもがき続けた。それは、汗と油と泥にまみれた戦いの日々だった。その戦いの中で、私が唯一頼ることができたのは、マネジメントの理論だった。

しかし、それらの理論を実践すればするほど現実との乖離が明らかになり、結果はいつも私の意図とは逆方向へと進んでいった。何十回となく壁にぶつかり、そのたびに自信を失い、挫折を味わったことは数え切れない。

そのような経験を重ねる中で、次第に理解できるようになったのは、マネジメント理論そのものの誤りだった。実際に優れた結果を生み出した考え方や行動は、常にマネジメント理論とは異なるものだったからだ。理論に縛られるほど現実とのズレが大きくなり、むしろ理論から離れたときにこそ成果が得られた。

コンサルタントとして数多くの会社を訪れる中で、マネジメント理論を部分的にでも忠実に実行しようとしている企業ほど、その部分に起因する数々の不都合が生じている現実を目の当たりにした。それだけでなく、そうした企業の業績は決して良いものとは言えず、理論の適用がむしろ足かせになっていることがはっきりと分かった。

さらに、優れた会社ほどマネジメント論など全く問題にしていないことも明らかだった。これを通じて、どこから見てもマネジメント論が誤りであることは疑いようがない。その誤りの根本は、伝統的な組織論やマネジメント論が「事業の経営」という本質的な認識を完全に欠いている点にある。理論は抽象的な構造や管理の話に終始し、実際の事業運営や現場の実態には何の関心も示していないのだ。

事業の本質を理解していないがゆえに、会社内の人々の日常業務にばかり焦点を当て、それさえうまく運べば事業経営も自然とうまくいくと安易に思い込んでしまっているのだ。この誤解が、現場から遊離した机上の空論を生み出し、現実との乖離を深めている根本原因である。

こうした発想に基づいて生まれた理論だから、顧客へのサービスという視点は微塵も存在しない。社内の都合が優先され、顧客の要求は平然と無視されるのが常だ。さらに、競争に関する理論など皆無であり、その代わりに、まるで春の野でのピクニックのような呑気な話題で終始している。この無責任さが、現実とのズレをさらに広げる結果を招いている。

「事業の経営」という本来の目的はどこかへ吹き飛び、焦点は専ら日常業務のやり方や社内の人々の気持ちにだけ当てられてしまっている。しかし、事業の経営とは本来、顧客の要求を満たすことに他ならない。顧客を中心に据えた視点が欠けたままでは、経営そのものが成立しない。

そもそも、顧客の要求とは相手の都合に合わせて発せられるものではなく、自分自身の都合に基づいてなされるものだ。数多くの顧客が、それぞれ勝手な要求を会社に突きつけてくる。その結果、会社の都合と顧客の要求が一致することなどあり得ない。ここにこそ、事業経営の本質的な課題が存在する。

顧客の要求と対立する自社の都合を、顧客の都合に合わせて調整しなければならない。これは事業運営の当然の課題だが、その過程で混乱が生じるのもまた避けられない現実だ。この混乱を乗り越え、顧客の要求を満たすことができるかどうかが、事業経営の成否を分ける鍵となる。

例えば、J社のような企業では、顧客の要求に応じて1日に2回も3回も生産予定を変更することが珍しくない。この柔軟な対応が顧客に喜ばれ、結果として優れた業績を上げている。顧客中心の経営姿勢が、混乱を乗り越える力を生み出し、競争力を高めている好例と言えるだろう。

ここには「仕事を効率的に流す」といった内向きの発想は存在しない。あるのは、「顧客の要求を満たす」という正しい姿勢だけだ。個々の業務の円滑化や効率性は二の次とされ、顧客の満足こそが事業経営の正しい方向性であることを示している。これが、真に成功する企業の本質であり、経営のあるべき姿だ。

しかし、顧客の要求を満たそうとしているのは自社だけではない。多くの企業が同じ顧客に殺到し、それぞれが自分たちのサービスや製品を提供しようと競い合っている。顧客を中心に据えた市場は、常にこのような熾烈な競争の場となるのだ。

K社の社長はこう語ったことがある。
「一倉さん、私が社員に求めることのほとんどが無理難題だと自覚しています。しかし、これは事業が求める必然であり、やらなければ競争に負けてしまいます。」
この言葉に象徴されるように、これこそが企業戦争の現実だ。競争に勝ち抜くためには、無理と思われる要求にも立ち向かわざるを得ない。この厳しい現実が、企業の存続と成長を支える原動力となるのだ。

「ムリ・ムダ・ムラを排除する」という考え方は、一見もっともらしく聞こえるが、実際の現場では通用しないのが現実だ。この理想論は、現場の混乱や顧客の複雑な要求に応える柔軟性を欠いた机上の空論に過ぎない。このように、従来の組織論やマネジメント論が、その根本において事業経営の本質から逸脱していることを、私たちはまず明確に認識する必要がある。事業経営とは、現実に即し、顧客の要求に応える中で形作られるものだからだ。

見失われた企業経営:顧客重視の視点を取り戻す

現代における企業経営論やマネジメント理論の多くは、企業組織の目的として「企業目標達成のための体制整備と運営」と掲げている。しかし、こうした「うたい文句」は表面的であり、多くの理論は企業経営や実務に関心を寄せることなく、企業を「利益追求の場」としてしか見ていない。実際に、こうした組織論や管理論は日常業務の円滑化に重点を置き、顧客ニーズへの対応や、事業経営の本質から離れてしまっているのだ。

伝統的なマネジメント論は、企業の運営を「日常の繰り返し作業」と捉え、それがうまく管理されれば事業は成功すると考えがちだ。しかし、この発想は官僚的なものであり、前例に基づききまりきった作業を管理することで、企業の発展が図れるという錯覚に陥っている。このため、組織論には階層や職務の分担、権限の設定、人間関係といった静態的な要素ばかりが並び、顧客の要求に柔軟に対応するための実質的な指針が欠けている。

本来の企業経営とは:顧客の要求を満たすこと

真の事業経営とは、顧客の要求を満たすことに他ならない。顧客は自らの都合で要求をしてくるため、企業にとっては時に困難であり、日常業務に混乱をもたらすこともある。しかし、こうした困難を顧客に合わせて対応することこそが、企業の使命であり、事業経営の本質である。例えば、ある企業では、顧客の要望に応じて一日に何度も生産スケジュールを変更している。この柔軟な対応が顧客の満足を生み、結果的に優れた業績へと繋がっているのだ。

多くの競合他社も同様に顧客の要求に応えようと競争に参入している。顧客の要求は日々刻々と変化するため、企業はこの競争の中で変化に応じた柔軟な対応が求められる。円滑な仕事の流れを保つことだけを重視するのではなく、顧客ニーズを満たすためにどう動くべきかという視点を持つことが、今後の企業の競争力を高めるための重要な要素だ。

組織論の再構築:顧客中心の事業経営を支える組織づくり

組織論やマネジメント理論は、日常業務の管理に偏重するのではなく、企業が顧客の要求に応えるための体制を整えることに焦点を置くべきである。企業は組織論を見直し、顧客ニーズに基づく経営の本質を見失わないようにしなければならない。組織が顧客への対応を第一に考え、事業経営の本来の目的を果たすことで、企業は変化し続ける市場環境の中で成長と競争力を保つことができる。

このような「顧客重視の事業経営」を支える組織づくりこそが、真の経営成功の鍵であり、企業が持続的に発展していくために必要不可欠である。

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