現代の経済環境は複雑で変動しやすく、企業の成功には長期的なビジョンと計画が不可欠です。
企業目標の設定は、将来への指針を示し、組織全体の方向性を定める重要なステップです。
その際、目標の本質を理解し、長期的な視野を持つことが極めて重要です。
まず、企業目標の本質は、生存と成長の条件を明らかにすることです。この条件は、経営者や経営トップ層によって客観的に検討され、企業の生存に不可欠な要因として位置づけられます。
内部の意見や過去の実績は重要ですが、客観的な現実に基づいて設定されるべきです。
長期的なビジョンを持つことは、企業目標設定の鍵です。企業は将来の変化に適応し、競争力を維持するために、数年先、10年、20年先を見越した計画を策定する必要があります。
景気変動や市場の変化に柔軟に対応するための戦略が求められます。
量的な予測も不可欠です。
世界経済や国内経済、業界の成長率、物価上昇率、賃金上昇率など、数字をもとに計画を立てることは、目標の達成に向けた具体的な道筋を描く手段です。
過去の実績だけでなく、将来の需要と供給、市場トレンドを考慮することが重要です。
長期経営計画を策定することは、企業の成功に向けた大きな一歩です。机上論に終始せず、計画を実行に移す覚悟と行動力が必要です。変化に適応し、将来を築くための明確な指針を持つことは、競争の激しいビジネス環境で生き残るために不可欠な要素です。
企業目標の決定の再確認
「企業目標の設定はどのようにして行ったらいいか」という問いに対しては、目標の本質が答えてくれる。
それは、「まず、わが社の生き残る条件を明らかにせよ、これを土台としトップの意図をこれに上のせせよ」ということである。
だから企業目標は、「トップおよびトップ層だけで検討し、決定しなければならない」ということを、ここで再確認しておきたい。
客観情勢に基づいて、これに対応して生き残る条件を検討するときに、内部のものの意見はむしろじゃまになる。
内部のものの意見をきくと、「過去の実績からみて、実現可能な目標」に傾いて、生き残る条件が忘れられてしまうおそれがある。こうなったら、企業はおしまいである。
とはいえ、心しなければならないのは、内部の者の意見をやたらと、とりあげるのがいけないのであって、逆に客観情勢のきびしさやトップの立場を認識させるために、トップの会議に出席させるのも手である。
長期的なビジョン
目標は、まず長期的なビジョンに立たなければならない。
企業というものは、ある決定が下されてから、それが実際に業績に影響をおよぼすまでに、短くとも二~三年、長きは一〇年、二〇年かかる場合もあるのだ。
手を打って、すぐ効果のあらわれるのは、企業の運命にはたいして関係のない戦術的な決定である。
だから、企業が危険に直面してからでは、どのような対策をとろうと、その効果は知れたものであり、企業を救う力はないのである。
だからこそ、企業は将来を見越して早く手を打たなければいけないのである。
こう考えてくると、景気の変動というのは、長期的な計画においては、意志決定のためには、そのサイクルが短すぎる。
設備投資にしても、三~四年先だけ考えればいい、というわけにはいかないからだ。設備投資にみられるように、企業の長期目標は、景気変動を超越して設定されなければならないのである。
景気変動は、あくまでも短期的な施策について勘案するものなのである。
長期的な見通しといっても、一〇年はおろか三年先さえ、だれにもわからない。しかし、わからないといっても、大きな流れの見当ぐらいはつくはずである。
たとえば、一〇年後のオートバイ業界を考えてみたら、とにかくそれはバラ色のものでないことはわかるし、労働集約的な産業や中下級の商品は次第に後進国にその分野を浸されてゆくことは間違いない。
反対に、重化学工業、電子産業の比重は大きくなってゆくであろう。道路や住宅、そしてわれわれの生活がどのように変わってゆくか、などについては、たんなる予想や夢物語だけでなく、相当な調査や根拠に基づく未来像などが発表されている。
それらはいずれも、あくまでも推測であるとしても、多くの示唆をわれわれに与えてくれるのである。
示唆から方向づけ
その示唆は、わが社の業種・業態・製品に結びつけて検討され、いまの業種のまま進むのか、それとも転換を必要とするのか、いまの製品の将来はどうなのか、という「わが社の将来の方向づけ」がなされるのである。
この方向づけいかんで、企業の将来はまったく違ったものになってゆく。
日東化学の悲劇は、硫安の斜陽化を見抜けなかったことにあり(*1)、東洋レーヨンや帝人は、レーヨンの前途にいち早く見切りをつけて高収益を誇っている。
フランスベッドは下請企業の運命を見越して自社製品を開拓して、業界に独占的な占拠率を獲得したのである。
化学合成技術の前進は、つぎつぎに合成原料をつくり出しているのをみれば、天然原料に頼っている企業は安閑としてはいられないのだ。
客観情勢の変化があるかぎり、わが社の製品に対する顧客の要求も変わり続けるのだ。
だから、たとえ現在の事業を続けるにしても、そこにどのような革新が必要なのかを、たえず考えてみなければならないのである。
大きな転換はいうまでもなく、現在の事業の中での革新でさえも、長い時間がかかる。ということは、早く出発しなければならないことを意味している。
ローマは一日には成らないのだ。以上が、客観情勢の推測という質的な領域である。
質的な領域は意味がわかるだけで数量化できない。しかし、長期的な予測には、量的な領域がある。予測を数字であらわすことができる要因である。
その主なものをあげてみると、一世界経済ならびに国別の成長率二国民経済の成長率三業界の成長率四物価の上昇率五賃金の上昇率六人口動態と年齢構成などであり、これから絶対量が算出できるわけである。
- 人口動態
- 経済成長率などの要素
- 起業率・廃業率
- 物価
など
企業は、世界経済・国民経済の一環として存在するものであり、その中での斜陽化・限界化は、企業の存続を危くすることはすでに述べた。
物価上昇率は、原価をつりあげるし、賃金上昇を無視して経営はできないのである。量的な予測は、必要な売上げと利益を少なくとも三~五年先までたててみるのである。
そしてその売上げと利益をあげるための条件としての、必要な売上げ、外部費用、付加価値、内部費用、人員のわくなどを計算してみる。
そこには、おそらく、思いもかけなかったような数字があらわれるであろう。
一方、過去の実績をそのまま延長したらどうなるかを試算してみる。三年後に赤字にならぬ企業はあまりないと思われるのである。
以上の二つの数字を比較してみると、そこに大きな差がある。この差こそ、「なんとしても埋めなければならないもの」なのである。
それを、VA、能率向上、経費節約などの合理化で、どれだけ埋められるかを検討してみると、それは問題にならない少額であって、合理化で埋めることなど不可能であることが、実感としてわかるのである。
ここに、事態の容易ならざることが判明する。これが長期計画の、まず第一の効用なのであり、ここまで検討しなければダメなのである。
たんに、希望的な数字をならべるだけではなんにもならないのだ。ここに新たな覚悟をもって、革新に取り組むことになる。もはや合理化は頼みにならないことを思い知らされる。
どうしても、経営の構造的な変革をはからなければならず、しかも、いますぐ出発しなければならないのだ。
「明日では遅すぎる」ことを悟るのである。〝決定的瞬間〟がここにあるのだ。これだけではまだたりない。
景気変動
それは、景気の変動である。
過去の経験からでいいから、不況によって、必要利益をあげる数字がどのような影響を受けるかをみるのである。
五年のうち不況が二年あれば、それによってどれだけの収益低下があるか、三年だったらどうか、を算出してみる。
不況に耐え、企業が発展するために必要な利益を、好況時に生み出さなければならないとしたならば、好況時の数字は、不況時とは別の意味で、きびしいものなのである。
そして、それを実現してゆくための新事業やその規模と収益、必要な革新についての目標などが、簡単な数字と要約した文章によって具体的に表現され、決定されてゆく。
これが長期経営計画である。
この段階で、それを実現するむずかしさと苦しさをヒシヒシと身に感ずるのである。
このようにして、「生きるための条件」が企業の内部事情とは無関係に、机の上で検討され、決定されてゆく。
目標は本質的に机上論なのである。
この机上論を実現させてゆかなければならないのが、企業の任務なのである。
私が長期経営計画の樹立をお手伝いした某社の社長は、「長期経営計画をたててみて、私がいままで頭の中で考えていたことが、いかにあまいものであったかということを思い知らされた。私はもう、社内のことをあれこれいうことはやめます。社内のことは、目標を与えて、いっさいを常務に任せ、私は新事業の開拓に専念することにきめました。いや、そうせざるをえないことが、わかったのです……」と筆者に語った。
また、別の会社の社長は「現在の賃金上昇率が続くかぎり、うちの会社では最低限度、年率一五%の成長率が絶対必要だ。この調子でいったら、一〇年後はどえらい売上げを必要とする。その売上げを達成する製品をどこからもってくるか、まったくのところ見当もつかない……」といっていた。
一〇年後を考えているこれらの社長は、経営を誤ることはないであろう。
以上二つの例をみてもわかるように、長期目標は、「将来どうするか」ということを決定するためではなく、「将来を築くために、現在どのようなことをしなければならないか」という現在の決定のためなのである。
長期的な見通しに立たない現在の決定は、「思いつき決定」になってしまうものである。
長期経営計画作成時に加味するポイント
- 産業および業界情報:
- 業界の成長率とトレンド
- 主要競合他社の動向と市場シェア
- 技術の進歩とイノベーション
- 政府規制や法律の変更
- 顧客および市場情報:
- ターゲット市場の特性と嗜好
- 顧客のフィードバックと要望
- 新興市場や国際市場への展望
- 競合他社との競争状況
- 財務情報:
- 現在の財務状況(収益、利益、資産、負債)
- 資金調達の可能性とコスト
- 資本予算と投資プラン
- 人的資源:
- 従業員のスキルセットとトレーニングニーズ
- 人材の採用と維持
- 従業員のモチベーションと労働力の状況
- 技術とシステム:
- 現在のテクノロジーインフラとアプリケーション
- 技術の進化と導入の可能性
- サプライチェーン管理の効率性
- リスク評価:
- 産業や市場のリスク要因
- 金融リスク(通貨、金利など)
- 災害や危機への対応計画
- 環境と社会への影響:
- 環境への持続可能性の取り組み
- CSR(企業の社会的責任)プログラム
- 法的および倫理的義務
- マーケティングと広告戦略:
- マーケティング計画とブランド戦略
- 広告予算とメディア戦略
- 顧客獲得と維持戦略
- 成長戦略:
- 新規事業開発と市場進出戦略
- 合併・買収計画
- パートナーシップおよび提携の検討
- 規模と期間:
- 長期計画の期間(例:5年、10年)
- 目標達成に必要な成長率や指標
まとめ
長期的なビジョンを持つことは、企業目標の設定において不可欠です。企業目標は、まず経営者と経営トップ層によって検討され、設定されるべきです。外部の意見や客観情勢は重要ですが、企業の生存条件とトップ層の意向が優先されるべきです。
目標は単なる数値目標ではなく、長期的なビジョンに基づいて設定されるべきです。企業は将来の変化に備えて戦略を立てなければならず、そのためには数年先、さらには10年や20年先を見越した計画が必要です。特に、不況などの景気変動にも対応できる柔軟性が求められます。
量的な予測も重要です。世界経済や国内経済、業界の成長率、物価上昇率、賃金上昇率など、数字を元に計画を策定することは不可欠です。過去の実績を延長しただけでは将来への対応は難しく、変化に対応するための新たな戦略と目標が必要です。
このような数字をもとに、企業の生存条件と将来のビジョンに合致した目標を設定することが長期経営計画の目的です。机上論にとどまらず、計画を実行に移す覚悟と行動力が求められます。現在の経営構造や戦術を見直し、必要な革新を推進することが、企業の成功と成長につながります。長期計画を策定することで、「生きるための条件」を明確にし、将来を築くための方針を打ち立てることができます。
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