孔子は、人が人として生きていくうえで何よりも大切なものについて、こう語った。
「人が生きていけるのは、“直(なお)さ”、つまり素直さ・誠実さを持っているからだ。
これを欠いたまま生きているように見える人は、たまたま運よく災いを免れているだけに過ぎない。」
ここで言う「直」とは、頑なさではなく、自分の心に正直であり、他人と真っ直ぐに向き合う素朴な誠実さ、自然な人情のあらわれを指している。
孔子の言葉には、人間関係も社会生活も、すべてはこの“直さ”によって成立しているという洞察が込められている。
たとえ一時的に成功しているように見えても、誠実さを欠いた生き方は、やがて信頼を失い、破綻してしまう。
一方で、素直で、まっすぐに人と向き合う姿勢は、シンプルでありながらも、最も強く、確かな生き方である。
それは運に頼らず、人生の土台そのものを安定させる力となる。
ふりがな付き原文
子(し)曰(いわ)く、
人(ひと)の生(い)くるや直(なお)し。
之(これ)を罔(な)くして生くるや、
幸(さいわ)いにして免(まぬが)るるなり。
注釈
- 直(なお)し:素直さ、まっすぐさ、誠実な心の在り方。人情の自然さとも言える。
- 之を罔くして:これ(=素直さ)を持たずに。
- 免るる(まぬがるる)なり:一時的に災いを免れているに過ぎないこと。長続きしない状態を示す。
1. 原文
子曰、人之生也直。罔之生也、幸而免。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、
人(ひと)の生(い)くるや直(なお)し。
之(これ)を罔(あざむ)きて生くるや、幸(さいわ)いにして免(まぬが)るるなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子曰く、人の生くるや直し。
→ 孔子は言った。「人はまっすぐ(=正直・誠実)に生きるべきものである。」 - 之を罔きて生くるや、幸いにして免るるなり。
→ 「もしそれを欺いて(=不正・不誠実に)生きるような者がいれば、それはたまたま災いを免れているにすぎない。」
4. 用語解説
- 直(なお)し:正直、誠実、公明正大であること。孔子の理想的人格。
- 罔(あざむく):欺く、誤魔化す、不正をする。
- 免るる(まぬがるる):災いを避けて無事でいること。
- 幸いにして(さいわいにして):偶然・たまたまの意。努力や徳の結果ではない。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう語った:
「人というものは、本来まっすぐに、正直に生きるべきである。
それを欺いて不正に生きている者がいたとしても、それはただ幸運にも災いを免れているだけにすぎない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「正直であることが人としての本来の生き方である」**という、孔子の倫理観を端的に示しています。
- 不正・不誠実に生きている人が一時的に無事でいても、それは**“運がいいだけ”であって本質的には不安定**。
- つまり、「誠実は損だ」とする短期的な功利主義への批判でもある。
- 孔子は、道徳は“確率”ではなく“必然”であるべきだという信念をこの言葉で語っています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
● 「正直・誠実は“生存戦略”である」
- 不正やごまかしでしのいでいる者がいても、それは「運よく炎上していない」だけ。
本質的に信頼も長期的成果も築けない。 - “正直に生きて損をすることはあっても、誠実を貫けない組織に未来はない”。
● 「正直者が報われる仕組みを、組織に持たせよ」
- 組織やリーダーは、誠実な行動・正しい手続き・隠しごとのない対応を**“損な選択”にしない評価制度と文化**を構築すべき。
● 「“たまたま無事”な組織運営に安心するな」
- グレーゾーンに依存した経営や、内情がブラックな体質で「今はうまく回っている」場合こそ、
“幸いにして免るる”状態であることを自覚し、早急に是正すべき。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「まっすぐこそ道──誠実を“運”にしない組織づくり」
この章句は、誠実さの価値と、誤魔化しがもたらす本質的な危うさをシンプルに、しかし深く語っています。
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