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■引用原文(日本語訳)
現世を望まず、
来世をも望まず、
欲求がなく、とらわれのない人――
その人を、私は〈バラモン〉と呼ぶ。
(『ダンマパダ』第410偈|第二六章「バラモン」)
■逐語訳
- Yo idaṃ ca paraṃ ca na kāṅkhati:現世(今)と来世(未来)のいずれにも欲望を抱かず
- Nihīnakamyānaṃ asaññato:欲望に駆られず、安穏な心を保ち
- Nikkāmo:欲望(カーマ)から離れ
- Akin̄cano:何ものにも執着せず(所有感がない)
- Tam ahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ:そのような人を、私は〈バラモン〉と呼ぶ
■用語解説
- 現世(idaṃ):現在の生活・世俗的な快楽・成功・地位など
- 来世(paraṃ):死後の報い・来たるべき報酬・天国的願望など
- 欲望(kāma):五欲(食・色・名・睡・財)に代表される執着心
- 執着のなさ(akin̄cano):あらゆるものに「私のもの」という感覚を持たない心の自由
■全体の現代語訳(まとめ)
今の世界にも、未来の世界にも、
欲しいものは何もない――
そう語る人は、もはや
どこにも執着を抱かず、
欲望の火も消え去っている。
そのような人こそ、
仏陀は〈バラモン〉と呼ぶ。
■解釈と現代的意義
この偈は、「現世的な成功」や「来世の報い」ですら、
もはや求めることのない心の境地を説いています。
目の前の快楽や将来の幸福といった**”結果への執着”**を断ち切ることこそ、
心の自由への鍵であるという教えです。
現代に生きる私たちも、
「結果を得るために行動する」という考えに縛られがちです。
しかしこの偈は、「結果を得るためではなく、ただ善いことだからやる」という、
究極の無私の姿勢を示してくれます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
成果主義との距離感 | 昇進・報酬・名誉を目的に行動するのではなく、組織や社会のために行動できる人は、かえって信頼と成果を得やすい。 |
執着のないリーダーシップ | 自分の地位や成果にとらわれず、他者の成長や全体最適を優先するリーダーは組織に長く必要とされる。 |
長期視点での持続可能な判断 | 「今うまくいくか」より「正しいかどうか」に重きを置く姿勢が、長期的な信頼とブランド価値を築く。 |
ストレスマネジメント | 未来への不安・期待への執着を手放すことで、現在の行動に集中し、心を安定させる。 |
■心得まとめ
「いまにも未来にも縛られぬとき、心は最も自由である」
「これが欲しい」「もっとこうなりたい」――
そうした欲望がある限り、
私たちの心はいつもどこかへ引きずられている。
だが、今にも未来にも「何も求めない」ことができたなら、
その瞬間、心は何にもとらわれず、
ただ善をなし、静かに微笑むことができる。
それこそが、成熟の証であり、
行為そのものに意味を見出す〈バラモン〉の姿なのです。
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