若いうちは、家庭にあっては親に孝行し、外では年長者や目上の者に礼を尽くすことが基本である。
人と接するときには言動を慎み、約束や義理を大切にし、信を裏切らぬよう心がけること。広く多くの人と良い関係を築くのはよいが、とりわけ仁のある誠実な人と親しくつき合うようにしたい。
こうした日々の実践ができたうえで、なお余力があるならば、詩や書、礼や楽といった教養を深めるのがよい。
基本を疎かにして知識を求めても、それは根なき木に等しい。まずは人としての土台を固めることこそ、真の教養への道である。
目次
原文
子曰、弟子入則孝、出則弟、謹而信、汎愛衆而親仁、行有餘力、則以學 、
書き下し文
「弟子(ていし)入りては則(すなわ)ち孝(こう)、出(い)でては則ち弟(てい)、謹(つつし)みて信(しん)あり、汎(ひろ)く衆(しゅう)を愛(あい)して仁(じん)に親(した)しみ、行(おこな)って余力(よりょく)あれば則ち以(もっ)て文(ぶん)を学(まな)べ」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「弟子、入りては則ち孝」
→ 学ぶ者は、家にいるときは親に孝行し、 - 「出でては則ち弟」
→ 家の外では年長者や目上の人を敬う。 - 「謹みて信あり」
→ 慎み深く行動し、誠実で信頼される態度を取る。 - 「汎く衆を愛して仁に親しみ」
→ 広く人々を思いやり、「仁(人間愛・思いやり)」を大切にする。 - 「行って余力あれば、則ち以て文を学べ」
→ こうした行動を実践して、それでも余力があれば学問に励むべきである。
※注:
- 弟子(ていし):学ぶ者、学生、修養を志す人。
- 孝(こう):親への孝行。儒教の最重要徳の一つ。
- 弟(てい):兄弟関係での敬愛や、年長者への従順・礼儀。
- 謹(つつし)み:慎重さ、真面目な態度、礼儀正しさ。
- 信(しん):誠実で信用されること。
- 汎(ひろ)く衆を愛す:人々を広く分け隔てなく思いやること。
- 仁(じん):儒教における中心概念。愛、思いやり、慈しみ。
- 文(ぶん):書物による学問・知識・文化的教養。
解釈と現代的意義:
この一節は、「人としての基本行動(実践)」と「知識の習得(文)」の優先順位を説いています。
- 知識よりもまず行動・人格形成が先。
- 親や他人との関係、社会に対する態度が整ってこそ、学問や知識に意味が生まれる。
- 本当に学ぶべきは、人間としての振る舞いであり、それができてはじめて知識が活きる。
これは現代における「人間力と専門性のバランス」の大切さを説いているとも言えます。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「入りては孝、出でては弟」=家庭・職場における礼儀と配慮
- 社会人としての基本は、身近な人への敬意から始まる。家族や上司・先輩との関係性の丁寧さが、職場でも信頼を生む。
- 敬意のある態度は、企業文化やチーム内の安心感につながる。
- 「謹みて信あり」=誠実さと慎重さが信頼を築く
- 軽率な発言・行動を避ける慎重さが、信頼性を高める。
- 社内の調整・取引先対応でも、一貫した誠実な姿勢が長期的な関係につながる。
- 「汎く衆を愛して仁に親しむ」=利他の視点を持つリーダーシップ
- 特定の人間だけでなく、社内外の関係者を公平に思いやる姿勢。
- 「仁」は、社内外の信頼と尊敬を得る人格の基礎である。
- 「行って余力あれば文を学べ」=実践の上に知識を積む
- 座学よりも現場での行動や経験を重視し、そこで得た疑問や課題をもとに学ぶ。
- 忙しい中での自己研鑽は「余力」であり、それでも続ける者がリーダーに成長する。
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