赤字経営に苦しむ多くの企業では、決算書の勘定科目を精査すると、製造経費や一般管理費、販売費といった固定費に対する関心が突出していることが明らかになります。
この現象は、多くの経営者が固定費の削減を赤字脱出の主要な手段と捉えていることを示しています。
しかしながら、こうした固定費削減に執着するあまり、収益を増やす具体的な手立てが講じられないままでは、企業の経営は改善しません。
結果として、赤字からの脱却は他力本願となり、会社の存続は外部環境の好転に依存するしかなくなってしまいます。
固定費削減の「定石」とその限界
赤字企業の再建を託された経営者が最初に取り組むのは、固定費の削減、特に「減量策」です。これ自体は効果的な手段であり、経営改善の「定石」として広く認識されています。
特に、過剰な人員や無駄な支出の削減によって、財務体質の改善を図ることは、再建初期において欠かせないプロセスです。
しかし、固定費削減には明確な限界が存在します。一度大幅なコスト削減が行われると、余剰な固定費はほぼ排除され、さらに削減できる余地は極めて限定的になります。
特に、販売促進費や商品開発費といった、将来の成長を支える重要な費用に手をつけてしまうことは、企業の競争力を低下させ、さらなる経営悪化を招く危険性があります。
固定費削減に固執するリスク
固定費削減への過度な依存は、経営判断を誤らせる大きな要因となります。この問題は特に、会計士や税理士、さらには経理部門の担当者が主導する場合に顕著です。
これらの専門家や担当者は、収益増加策の提案においては「音痴」である場合が多く、もっぱら固定費削減にばかり目を向ける傾向があります。
その結果、削減すべきではない費用――たとえば広告宣伝費や研究開発費――にまで手をつけてしまうことがあります。
こうした無理な削減は、企業の将来的な競争力や収益基盤を損なうことにつながり、経営をさらに困難な状況へと追い込む要因となります。
固定費削減後に必要な収益増大策
一度固定費削減が限界に達すると、経営改善の焦点は「収益をいかにして増大させるか」という課題へと移ります。固定費が一定である以上、利益を拡大するには収益を増やす以外に方法はありません。
そのためには、まず「収益」の本質を正確に理解することが重要です。
- 収益とは何か
収益とは、商品やサービスを販売することで得られる会社の収入です。ただし、売上そのものが収益のすべてではありません。売上から、外部からの仕入れや原材料費を差し引いたものが、本当の意味での収益に該当します。- 流通業では「粗利益」
- 製造業では「加工高」または「付加価値」
これらが企業の収益性を示す重要な指標です。
- 限界利益との関連
「限界利益」という用語も本質的にはこれらと同じ概念を指し、売上から変動費を差し引いたものです。つまり、企業の利益を生み出す原資となる部分を示しています。
収益増大のための具体的アプローチ
固定費削減に代わり、収益を増やすためには次のような施策が必要です。
- 販売促進の強化
売上を拡大するために、広告やプロモーションに戦略的に投資します。これにより、既存顧客の購入頻度を高め、新規顧客を獲得することが可能となります。 - 商品やサービスの付加価値向上
価格競争に巻き込まれないためには、商品の品質や独自性を高め、付加価値を提供することが重要です。これにより、販売単価を引き上げることができます。 - 新規市場の開拓
既存の市場に依存せず、新たなターゲット層や地域に進出することで売上の拡大を図ります。 - コスト構造の見直し
変動費の効率化や仕入れコストの削減により、加工高や粗利益を増加させる努力も欠かせません。
固定費削減から収益増大へ:転換が必要な理由
企業が赤字脱却を目指す際、固定費削減はあくまで第一歩に過ぎません。真に持続可能な経営改善には、収益の増大を目指す施策が不可欠です。そのためには、販売促進や商品開発、顧客基盤の拡大に重点を置き、成長のための投資を惜しまないことが重要です。
削減すべきものと投資すべきものを適切に見極め、収益を持続的に拡大する戦略を構築することこそが、企業を成功に導く鍵と言えるでしょう。
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