道(道徳)は、特別な誰かのものではなく、万人が共有すべき人生の指針である。
だからこそ、他者に合わせてそれを分かち合い、導いていく姿勢が求められる。
また、学びとは、日々の食事と同じように、生きるうえで不可欠なものである。
そのため、どんな時にも学びを怠らず、自らを戒め、慎み深くあらねばならない。
佐藤一斎は「少にして学べば壮にして為すあり、老いて学べば死して朽ちず」と説き、
孔子は「学んで時にこれを習う。亦たよろこばしからずや」と学びの喜びを語った。
人生は常に学びの道中であり、学びがある限り、人は常に成長し続けられる。
原文(ふりがな付き)
「道(みち)は是(こ)れ一重(いちじゅう)の公衆(こうしゅう)の物事(ぶつじ)なり、
当に人(ひと)に随(したが)いて接引(せついん)すべし。
学(がく)は是(こ)れ一個(いっこ)の尋常(じんじょう)の家飯(かはん)なり、
当に事(こと)に随(したが)いて警惕(けいてき)すべし。」
注釈
- 道(みち):道徳的な生き方。万人が共有すべき倫理や人の道。
- 一重(いちじゅう):一つの、一種類の。
- 公衆の物事(こうしゅうのぶつじ):万人のための共有財産。誰もが持つべき価値。
- 接引(せついん):他者を導くこと。手を引いて善に導く姿勢。
- 尋常の家飯(じんじょうのかはん):日常的な家庭の食事。つまり、当たり前に必要なもの。
- 警惕(けいてき):心を戒めて油断しないこと。慎み深くあり続ける姿勢。
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(一生涯の学び)learning-as-daily-meal
(学びは日々の食事のごとし)virtue-shared-by-all
(徳は万人に共有される)
この条は、現代の教育観にも深くつながります。学びは「特別な場」で起こるものではなく、「日常」の中にこそ根ざすべきであり、それを一生続けることが人間の成熟を支えるのだというメッセージです。
1. 原文
道是一重公衆物事、當隨人而接引。
學是一個尋常家飯、當隨事而警惕。
2. 書き下し文
道(みち)は是(これ)一重(いちじゅう)の公衆(こうしゅう)の物事(ものごと)なり。当に人に随(したが)いて接引(せついん)すべし。
学(がく)は是れ一個(いっこ)の尋常(じんじょう)の家飯(かはん)なり。当に事に随いて警惕(けいてき)すべし。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「道は是れ一重の公衆の物事なり」
→ 「道(=道理・真理)」というものは、特定の個人の所有物ではなく、万人に共有される公共的なものだ。 - 「当に人に随いて接引すべし」
→ したがって、その“道”を人に合わせて柔軟に導き伝えるべきである。 - 「学は是れ一個の尋常の家飯なり」
→ 学びとは、特別なものではなく、日々の食事のように当たり前に続けるべき平凡な営みである。 - 「当に事に随いて警惕すべし」
→ よって、常に具体的な事象に即して、油断なく気を引き締めて学び続けるべきである。
4. 用語解説
- 道(みち):道理・真理・倫理・自然法則。儒仏道に通じる根本原理。
- 一重(いちじゅう):層、一つの階層や領域。ここでは「一つの世界」「一体のもの」という意。
- 公衆の物事:万人に開かれた、共有されるべきもの。公共財に近い概念。
- 接引(せついん):導き入れること、案内すること。相手に応じて真理を伝える仏教的表現。
- 学(がく):知識を得る営みだけでなく、人間性を高める日常的修養。
- 尋常家飯(じんじょうかはん):日々の家庭での食事。ごく普通で継続的なことの喩え。
- 警惕(けいてき):注意を怠らず警戒し、心を引き締めること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
「道」とは、一部の人が占有するものではなく、すべての人に開かれた普遍的な原理である。それゆえ、伝える際には相手の状況に応じて柔軟に導くことが求められる。
一方、「学び」とは特別な儀式ではなく、日々の食事のように継続されるべき平凡な営みである。だからこそ、日常の中のあらゆる出来事に注意を払い、油断なく取り組むことが大切である。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「道(理念)」と「学(日々の修養)」のあり方の本質を対比的に説いています。
◎「道」は柔軟に人へ伝えるべき
- 理念や原理は、変えずとも“伝え方”は相手によって変えるべきである。
- 教条的ではなく、相手の理解・背景に合わせた“接引”こそが真の導きである。
◎「学び」は日常の繰り返しに宿る
- 学びはイベントではなく、日々の行動の積み重ねの中にある。
- 平凡な中の非凡――それを見落とさず、警戒心をもって継続する姿勢が大切。
このように、理念の伝達は柔軟さを、学びには継続性と警戒心を求めるという、修養と指導の両面を含んだ句です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「理念を伝えるには、“接引力”が必要」
- 経営理念・ビジョンを押しつけではなく、社員の背景や感性に応じて伝える柔軟さが求められる。
- 例:「共感を生むストーリー」で伝える/「立場に応じた言葉に翻訳する」など。
●「学びは研修だけでなく、日々の習慣に宿る」
- 一過性のセミナーよりも、日報や朝会、振り返りなど日常業務に“学びの型”を組み込むことが重要。
- “尋常家飯”としての学び=一日一日の気づきが、個人と組織の成長を支える。
●「経験に即して警惕する態度」
- 惰性で業務をこなすのではなく、日々の現場で「なぜこうしたのか」「改善の余地は?」と問い直す習慣。
- OJTや内省的対話(リフレクション)によって、表面的でない深い学びが生まれる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「理念は人に応じて導け、学びは日々の飯に如し──柔軟な伝え方と継続の警戒を忘るな」
この章句は、**リーダーの「伝える力」と、自己修養としての「学びの姿勢」**の両方に対して、深い洞察を与えてくれます。
「理念の共有」と「日常的な学び」──これらは現代の組織づくりや人材育成に不可欠な要素です。
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