市場競争には明確なライフステージが存在し、特に多量生産品においては、市場が形成される初期段階からその成長、成熟、そして淘汰に至るまでのプロセスがはっきりと見て取れます。各ステージに応じた戦略的な対応が、企業の生存と成長を決定づける要因となります。
発生期:潜在市場への注力と小規模競争
市場の発生期は、新しい商品が市場に登場し、その可能性が模索される段階です。この時期の特徴は、市場規模が小さく、参入業者の多くが小規模企業である点です。競争はそれほど激しくなく、むしろ潜在市場の開拓に焦点が当てられるべき段階です。
この時期における成功の鍵は、同業他社との競争よりも、未開拓の需要を見つけることにあります。市場全体が成長する余地が大きいため、各企業は努力次第で業績を伸ばすことが可能です。ただし、潜在的な市場の魅力が大きい場合、大企業が早期から参入してくることもあり、発生期の市場構造は必ずしも一様ではありません。VTR市場がその典型例です。
成長期:競争の激化と市場の急拡大
発生期を抜け、成長期に入ると、業界全体の成長率が急上昇します。この時期には、消費者の関心が一気に高まり、大規模な企業の参入が相次ぎます。市場が広がる一方で競争も激化し、各企業は市場占有率を巡る本格的な戦いを繰り広げます。
この時期の企業戦略は、規模の大きい新規参入者に対抗する力を持つことが不可欠です。例えば、松下電器の「二番手商法」のように、大企業は市場シェアを迅速に奪取するために強大なブランド力や販売網、生産力を活用します。このような競争環境の中で生き残るためには、高い資金力、多様化した商品ライン、高機能化への対応、そして効果的なマーケティング施策が求められます。
成長期の中頃からは、生え抜きの中小企業の中で淘汰が始まり、競争に耐えきれない企業が市場から姿を消していきます。市場の競争環境が一変する中で、力のある企業だけが次の段階へと進むのです。
成熟期:ゼロサム競争と淘汰の加速
市場が成熟期に達すると、成長率は鈍化し、全体の市場規模がほぼ一定となります。この段階では、新規参入はほとんどなく、既存企業間でのシェア争いが中心となります。いわゆるゼロサムゲームの状況です。一社の売上が伸びれば、その分他社の売上が減少するという厳しい現実に直面します。
この段階では、競争力を維持するための条件がさらに厳しくなります。市場に残るのはわずかな数社だけであり、競争力のない企業は淘汰される運命にあります。特に資金的な余力を持たず、商品やサービスで十分な差別化を図れない企業にとっては、成熟期は極めて厳しい試練となります。
市場原理の厳しさと戦略の必要性
市場原理は冷徹であり、準備や実力が不十分なまま競争に臨む企業に情けをかけることはありません。ダイエーの「ブブ」は、その失敗例としてよく知られています。競争の現実を見誤り、十分な準備なしに市場に参入した結果、「ブブ」は経営の重荷となり、ダイエー全体に悪影響を及ぼしました。
成功するためには、市場原理を正確に理解し、それに即した戦略を練ることが不可欠です。発生期には潜在市場の開拓、成長期には競争力の強化、成熟期には収益性を重視した効率的な運営が求められます。
経営者へのメッセージ
市場のライフステージごとに適切な戦略を取ることは、企業の存続にとって決定的に重要です。各ステージにおける特性を理解し、それに合わせた戦略的な判断を下すことが、競争に勝ち抜くための鍵となります。市場競争は厳しい現実を突きつけますが、それを乗り越えるには、常に市場の変化に敏感であり続け、的確な対応を取る姿勢が必要です。
企業が市場の成長から成熟、そして淘汰を経る中で、いかに柔軟で洞察力のある戦略を取るか。それが最終的に勝者と敗者を分ける要因となるのです。
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