目次
📖引用原文(日本語訳)
第三〇
(自分に)ひとしい、あるいはひとしくない生れ、生存をつくり出す諸の形成力を、
聖者は捨て去った。
内的に瞑想を楽しみ、心を安定統一して、
(自分の)覆いを破ってしまった。卵の膜を破るように。
🔍逐語解釈と用語解説
表現 | 意味 |
---|---|
ひとしい/ひとしくない生れ | 前世と似ている・似ていないさまざまな生のかたち(人間・動物などの生まれ変わり) |
生存をつくり出す形成力(サンカーラ) | 行為(カルマ)・欲望・思念など、未来の存在を生み出す内的衝動・動機の総体。 |
内的に瞑想を楽しむ | 外界に依らず、内面の深い集中と静けさを喜びとする心の姿勢。 |
心を安定統一して | 定(サマーディ)=心を一点に集中させ、動揺しない状態。 |
覆いを破る | 無明(アヴィッジャー)、煩悩、我執という「真理を覆うもの」を断ち切ること。 |
卵の膜 | 生の輪廻を可能にしている仮の殻。破れば「本来の自由な存在」に出るという比喩。 |
🧘♂️全体の現代語訳(まとめ)
聖者は、
どんな姿であれ再び生まれ変わろうとする力――
すなわち「生の形成力(サンカーラ)」を、
完全に断ち切った。
彼は外界の楽しみによらず、
内面の瞑想と静けさに喜びを見出し、
心を一つに統一し、乱れを鎮めて――
ついに、
自分を覆っていた殻を破った。
まるで、ヒナが卵の膜を破ってこの世界に出るように。
💡解釈と現代的意義
この節は、「精神的に成熟した人(聖者)」の特徴を描きつつ、
仏教における“悟りとは何か”を具体的なイメージで表しています。
- 外側の世界ではなく、内なる瞑想に喜びを見いだし、
- 心を一点に集中し、
- ついに我執(エゴ)という“殻”を破って外に出る。
ここでの“卵の膜”とは、私たちが常にかぶっている――
- 「自分とはこういう存在だ」
- 「これが正しい」「これは嫌だ」
- 「もっと得なければ」「守らねば」
という思考や執着の覆いです。
これを破るとき、人は「本来の自己」=自由な存在として目覚めるのです。
💼ビジネスにおける適用
観点 | 適用内容 |
---|---|
自己定義の殻を破る | 「私はこういう人間だ」「こうでなければならない」という制限を超えて、柔軟で創造的なあり方を見出す。 |
内的成長への志向 | 外部の評価や報酬ではなく、内面の静けさ・集中・一貫性を喜びとする働き方。 |
集中力と統一性(サマーディ) | 心を乱れさせず、今ここでなすべきことに集中する力。これが成功の土台となる。 |
変容の比喩としての“膜”破り | 組織変革や個人の成長には、必ず“内部からの打破”が必要であり、自らの内側にある限界を突き抜ける力が求められる。 |
✅心得まとめ
「自らの中に閉じこもるな。内側から殻を破るのだ」
成長とは、新しい情報を加えることではなく、
古い自分を突き破ることである。
殻を破ったその瞬間、
人はもはや同じ存在ではなく、
自由で、軽やかで、静かな目覚めの中にいる。
この第三〇節は、『感興のことば』安らぎ章の締めくくりとして、
単に解脱を「説明する」のではなく、殻を破る“動き”として象徴的に示す印象的な詩句です。
これまでの29節までの教えを、“聖者がどう実現したか”という体現の姿として締めくくっており、まさに“成就の詩”です。
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