■ 引用原文(『ダンマパダ』第八章「ことば」第六偈)
悪い心のある人々は実に噓を言う。
つねに地獄(の苦しみ)を増して、おのれを傷ける。
欠点の無い力のある人は、心の混濁を除いて、(すべてを)忍ぶ。
■ 逐語訳
- 悪い心のある人々:内に貪り・怒り・無知といった煩悩を抱える者。
- 噓を言う:故意に真実でないことを語る、妄語の行為。
- つねに地獄を増して:自らの悪業を増幅し、苦しみの報いを重ねていく。
- おのれを傷ける:その行為は他人を欺くだけでなく、自身の精神・未来・徳を破壊する。
- 欠点の無い力のある人:智慧・徳・自制を兼ね備えた高潔な人格者。
- 心の混濁を除く:煩悩・迷妄を取り除いて、清らかな心を保つこと。
- (すべてを)忍ぶ:怒りや誹謗に反応せず、沈着・冷静に対応する。
■ 用語解説
- 噓(妄語):仏教の五戒の一つで最も重い口業。意図的に真実を語らないこと。
- 混濁(こんだく):心が貪欲・怒り・無知によって濁っている状態。仏教では煩悩の象徴。
- 忍(にん):苦難や侮辱、挑発などに対して怒らず、耐え、克服する力。六波羅蜜の一つでもある「忍辱(にんにく)」。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
内面に悪しき心を持った人は、偽りの言葉を発しては、地獄(苦しみ)を増し、自らを傷つける。
一方、真に力ある者は、心を清らかに保ち、すべてを忍耐し、言葉を慎み、怒りにも動じない。
このように、真実を語り、怒らず、正しく生きることこそが、本当の力の表れなのである。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、「言葉と心の真実性」、そして**「真の強さとは何か」**を対比的に描いています。
虚言を弄する者は、周囲を騙しつつ、自分の信頼・徳・精神を削り続け、やがて自滅します。
反対に、心を清らかに保ち、誹謗・挑発に対しても怒らず耐え抜く人は、見かけ以上の「本当の力」を備えた人物です。
怒りに乗じて口を荒らすのは易く、それを超えて「忍ぶ」ことは難しい。
しかし、難しき道にこそ人格の輝きが宿る――その教えは、現代においても揺るぎない道標となります。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
虚言の代償 | 小さな嘘でも積み重なれば信頼が損なわれ、大きな案件や職責から遠ざけられる。 |
誠実な対応 | 真実を伝えることは一時的には困難を生むかもしれないが、長期的には信頼を築く土台となる。 |
本当の強さとは | 怒りや批判に反応せず、冷静に応じる姿勢は、組織内での信望やマネジメント力を高める。 |
感情マネジメント | SNSや会議での不用意な発言が炎上や不信感を生む一方で、沈黙と忍耐が時に最大の説得力を持つ。 |
■ 心得まとめ
「言葉は心の鏡。噓を語れば、自らの徳を削る」
「忍は力、沈黙は信頼の礎」
仏陀は、真実を語り、怒りに流されず、静かに耐える人こそが「力ある者」であると説いています。
それは、攻撃的な口調でも、華やかなパフォーマンスでもなく、誠実・沈黙・忍耐という静かな力の尊さを示しています。
ビジネスにおいても、正直に語り、怒りを抑え、相手の言葉に飲み込まれずに対応できる人が、最終的に信頼と成果を手にします。
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