晴れ渡る空も、突然に雷がとどろき、
激しい風雨が襲うかと思えば、やがてそれも止み、
月が夜空を静かに照らし出す。
このように、大自然は常に変化し、とどまることがない。
風雨も、雷も、青空も、どれも一時の姿にすぎない。
人の心もまた、自然のようにしなやかでありたい。
悩みに沈んだとしても、それに固着せず、
やがて晴れる心を信じ、変化していく心を育てることが大切である。
原文(ふりがな付き)
霽日(せいじつ)青天(せいてん)も、倏(たちま)ち変(へん)じて迅雷(じんらい)震電(しんでん)と為(な)り、疾風怒雨(しっぷうどうう)も、倏(たちま)ち転(てん)じて朗月晴空(ろうげつせいくう)と為る。気機(きき)何(なん)の常(じょう)あらん、一毫(いちごう)の凝滞(ぎょうたい)なり。太虚(たいきょ)何の常あらん。一毫の障塞(しょうそく)なり。人心(じんしん)の体(たい)も、亦(また)当に是(かく)の如(ごと)くなるべし。
注釈
- 霽日青天(せいじつせいてん):雨がやんでからりと晴れた空。平穏な日常や心の状態の象徴。
- 迅雷震電(じんらいしんでん):激しい雷鳴と稲妻。突発的な怒りや混乱の象徴。
- 疾風怒雨(しっぷうどうう):強風と豪雨。困難や感情の嵐のたとえ。
- 朗月晴空(ろうげつせいくう):月が輝く静かな夜空。回復した心の静けさと安定。
- 気機(きき):自然界のはたらき。風、雲、雷などの動き。
- 太虚(たいきょ):大空。広く無限の宇宙。
- 一毫の凝滞/障塞:わずかな停滞や障害もない、常に動いている状態。変化の自然さを強調。
※本条は『老子』の思想「天地すら尚お久しきこと能わず、況んや人に於いてをや」(第23章)と響き合い、人間の心もまたとどまり続けることなく、流動の中にこそ調和があることを説いています。
パーマリンク(英語スラッグ)
let-the-heart-shift-like-sky
(空のように心も変化せよ)storm-and-calm-are-moments
(嵐も静けさも一時)no-state-is-permanent
(どんな心も永続しない)
この条文は、気分の揺れや感情の波に苦しむ人への深い慰めと導きを与えてくれます。
「ずっと晴れることもなければ、ずっと嵐であることもない」――
自然のありように身をゆだねるように、自らの心の流れも信頼して生きる。
それが、内面の安らぎと調和を生む、古くて新しい知恵です。
1. 原文
霽日青天、倏變爲雷震電。
疾風怒雨、倏轉爲月晴空。
氣機何常、一毫凝滯。
太虚何常、一毫障塞。
人心之體、亦當如是。
2. 書き下し文
霽日の青天も、たちまち変じて雷鳴と稲妻となり、
疾風と怒りの雨も、たちまち転じて月明かりと晴れ空となる。
気の流れに何の常あらん、一毫も滞ってはならぬ。
大いなる虚空に何の常あらん、一毫の障りあってはならぬ。
人の心の本体もまた、まさにこのようであるべきである。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 霽日の青天も、たちまち変じて雷鳴と稲妻となり
→ 晴れ渡った青空でさえ、突如として雷と稲光を伴う嵐に変わることがある。 - 疾風と怒雨も、たちまち転じて月明かりと晴天となる
→ 激しい風と豪雨も、すぐに月が出て晴れ渡る空に変わることがある。 - 気の機微に何の常があろうか、一点でも滞ってはならない
→ 気の流れ(自然や人の心)は常に変化し続けており、わずかでも停滞してはならない。 - 太虚(宇宙の本体)に何の常があろうか、一点でも障りがあってはならない
→ 宇宙の本質も、常住不変ではなく、自由で滞りなくあるべきだ。 - 人の心もまた、このようにあるべきである
→ 人間の心もまた、自然の変化と同じく、流動的で執着のない状態が望ましい。
4. 用語解説
- 霽日(せいじつ):雨のあとの晴れた日。快晴。
- 倏(たちまち):非常に短い時間、瞬時の変化。
- 雷震電(らいしんでん):雷鳴と稲妻。
- 氣機(きき):自然や人の気の流れ。心や天地のエネルギーの動き。
- 凝滯(ぎょうたい):滞ること、停滞。流れが止まること。
- 太虚(たいきょ):大宇宙、空(くう)、何もないがすべてを含む存在。
- 障塞(しょうそく):妨げ、障害。心の中の詰まりや偏り。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
晴れ渡る空がすぐに雷鳴と稲妻に変わることもあれば、嵐が急に月夜の晴天に変わることもある。
自然のエネルギーの流れは常に変化し続けており、わずかな停滞も許されない。
宇宙もまた変化の中にあり、何ものにも妨げられてはならない。
人間の心の本質もまた、このように自由で滞りのない状態であるべきだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、自然・宇宙・心すべてが「変化し、流動するもの」であるという東洋哲学の核心を語っています。
- 天候の変化のように、心も環境も常に変わる。
- それに抗うのではなく、変化を受け入れ、流れに任せる柔軟性が必要。
- 固執や停滞、執念や偏見こそが「病」であり、澄んだ心=流れる心こそが本来のあり方。
心はときに曇り、ときに晴れるもの。**「どちらにも執着しないあり方」**が真の精神的自由であると説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「変化は当たり前、柔軟さこそが適応力」
計画通りにいかないことがあっても当然。
天気のように移ろう現実に対応するには、**“柔軟なマインドセット”と“即応力”**が求められる。
● 「執着しない心が創造性を生む」
過去の成功・一時の失敗にこだわれば、流れは止まり、創造性が失われる。
“いま”に集中し、流れのままに動く力が、新たなアイデアや突破口を生む。
● 「リーダーこそ“滞らない器”であれ」
チームやプロジェクトのリーダーには、感情や状況の変化を受け流し、停滞させない器量が必要。
動じず、執着せず、常に流れを回復できる調整力こそが信頼の源。
8. ビジネス用の心得タイトル
「心を滞らせず、流れに生きよ──変化を味方につける柔軟力」
この章句は、現代の変化が激しい社会においても、「心の構え」こそが最大の武器であるという普遍的な真理を示しています。
滞りを捨て、流れに委ね、変化と共に進む──その境地こそ、人生にも仕事にも必要とされる智慧です。
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