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■原文(一八)
けだし良家の(人々から)つねに受ける礼拝と尊敬とは、
汚泥のようなものであると(修行者らは)知っているからである。
細い矢は抜き難い。
凡人は(他人から受ける)尊敬を捨てることは難しい。以上 第一三章「尊敬」
■逐語訳
- 良家の人々からつねに受ける礼拝と尊敬:社会的に地位ある人々からの継続的な称賛や敬意。
- 汚泥のようなもの:一見美しく見えても、心を濁し、修行を妨げる“粘着性”のある危険なもの。
- 細い矢は抜き難い:小さな欲望ほど、自覚されにくく、いったん心に入ると抜けない。
- 凡人は尊敬を捨てることが難しい:名誉欲は根深く、執着しやすく、それを手放すのは至難である。
■用語解説
- 汚泥(おでい):見た目には気づきにくいが、心を濁す要因。欲望・慢心・虚栄心など。
- 細い矢:繊細で目立たず、深く刺さる執着の象徴。名誉・評価・称賛への欲はこのタイプの煩悩。
- 凡人:修行においてまだ覚醒していない一般の者。誰しもこの危うさを抱えている。
■全体の現代語訳(まとめ)
由緒ある家柄の人々から、日常的に受ける敬意や礼拝――
それは一見、ありがたいものに見えるが、実際には心を汚す“汚泥”のようなものであると、真の修行者は知っている。
名誉欲という「細い矢」は、いったん心に刺されば、抜くことが非常に難しい。
だからこそ、多くの人(凡人)は、その尊敬を手放すことができず、そこに執着してしまう。
■解釈と現代的意義
この句は、まさに**「称賛に対する警戒と距離感」**を鋭く提示しています。
現代では、SNSの「いいね」や社会的評価、地位、ブランド価値など、他者からの“承認”が幸福の条件とされがちです。
しかしこの教えは、その承認が実は最も心を腐らせるものである可能性を指摘します。
しかも、それは気づかないうちに入り込み、静かに心を支配する――まさに「細い矢」のように。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・適用 |
---|---|
リーダーの慢心 | 社員からの尊敬、業界からの賞賛に酔えば、自らの使命や初心を見失うリスクが高まる。 |
組織内評価 | 評価されることが目的になった瞬間、真の誠実さや主体性が損なわれていく。 |
承認欲求の扱い方 | 承認を求めること自体が悪ではないが、「それなしでは行動できない」状態は危うい。 |
ブランド戦略 | 尊敬や権威に依存したブランド構築ではなく、「中身=価値そのもの」で勝負すべき。 |
■心得まとめ
「称賛に棲む毒に気づけ。細い矢は、心の奥に届く。」
名誉や称賛を求める心は、表面上は穏やかでも、深く静かに心を蝕む。
それは「気づきにくく、抜きにくい矢」のようであり、欲望よりも執着よりも巧妙である。
だからこそ、誠実な修行者(または現代のプロフェッショナル)は、「知られないことを恐れず」「称賛に溺れず」、淡々と歩みを重ねる。
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