MENU

原価計算の教訓

F社で、新任の総務部長が「原価病」に取り憑かれ、原価計算制度を導入しようとした時のことです。

原価計算の権威とされる大学教授の指導を受けて構築された制度は、理論的には完成度が高かったものの、実際の運用面では多くの課題を抱える結果となりました。

その背景や結果について見ていきます。

目次

原価計算の現場への影響

製造部門では、部品ごとの加工時間やプロパンガス、溶接棒の型式別使用量、不良品発生数まで、詳細な報告が義務付けられました。

この細分化された管理は理論上は正確な原価計算を可能にしますが、現場の負担が大きく、作業効率や士気に悪影響を及ぼしました。

他の部門でも、トラックの使用状況、倉庫の在庫費用、検査工数など、細かい報告が求められました。

しかし、あまりに煩雑な要求に対応するため、現場では「もっともらしい数字」を作り上げて報告する形式的な対応が常態化してしまいました。

このような対応は制度の信頼性を損ない、現場の負担を増やし、実効性の低い管理体制を生む原因となりました。

経理部門の負担と現場の反発

経理部門では、これらのデータを集計するために新たに4名の大学卒人員を採用し、大車輪で計算業務を進めました。

一方で、現場は「無意味な数字の報告」という余分な仕事に不満を募らせました。「無駄だと分かっていながらそれをやり続ける」ことが、現場の士気を著しく低下させたのです。

製造部門にとって特に不満だったのは、経理部門の増員コストなどの全ての増加分が製造部門に配賦される仕組みでした。

この結果、原価が上昇し、部門利益が減少。社長から叱責を受けることとなりました。製造部門の声は、「原価計算のために原価が引き上げられ、その負担を我々に押し付けている」というものでした。

原価計算制度の欠陥と現場の反応

導入された原価計算制度は、共通費が全額製造部門に配賦される仕組みでしたが、これに対する責任は一切問われませんでした。

この不公平な状況に製造部門の人々は激怒し、制度そのものへの信頼を失いました。また、経理部門が熱心に進めた制度についても、他部門から冷ややかな視線を向けられていました。

多くの企業で見られる原価計算制度の問題は、共通費が製造部門に配賦される一方で、実際に共通費を消費している部門には責任が問われない点にあります。このような矛盾を見過ごしている企業が多いのは、構造的な問題といえます。

実務に役立つ原価計算の方法

「役立つ原価計算」を実現するためには、本社費や共通費を明確にし、経営全体の透明性を高める仕組みが必要です。この目的を達成するための一例が、〈第37表〉に示されています。

この表では、本社費が一般管理費や販売費として計上され、その全貌が明確化されています。各部門への配賦額を「本社へのサービス料」として扱うことで、配賦額を本社の収入として認識し、本社部門の損益計算を可能にしています。

共通費管理の新たなアプローチ

この方法では、本社費の全貌を可視化するだけでなく、本社部門の収益性やコスト効率を明確にすることで、部門間の不満を軽減します。

本社費を配賦された各部門は、その負担が適切であると納得できる仕組みとなり、経営全体の透明性が向上します。

さらに、本社部門の赤字が発生する場合、それは全社的な経営改善が必要であることを示す重要なシグナルとなります。

この仕組みでは、本社部門も「涼しい顔」をしていられません。本社費を一定額以内に抑える必要があるため、コスト管理や効率化への取り組みが求められるからです。

結論

原価計算制度が実務に役立つためには、単なる数字合わせではなく、全社的な視点での費用配分が必要です。本社部門の損益を明確化し、全体のコスト意識を高めることで、部門間の不満を軽減し、企業全体のパフォーマンスを向上させることができます。

このアプローチは、理論と現場のギャップを埋めるだけでなく、経営の透明性と公平性を確保する重要な手段となるでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次