人生において「少し減らす」ことを意識するだけで、
その分だけ、世俗の煩わしさやトラブルから自然と離れることができる。
たとえば――
人付き合いを減らせば、人間関係に伴う面倒ごとも減り、
言葉数を減らせば、失言や誤解も減っていく。
思慮を減らせば、過度な心配や思い悩みによって
精神がすり減ることもなくなる。
さらに、聡明さ――つまり「余計な知識や知恵」をあえて減らすことで、
もともと持っていた混じりけのない“本性の心”がそのまま保たれるようになる。
にもかかわらず、多くの人は「減らすこと」ではなく「増やすこと」ばかりに目を向けている。
物を、知識を、人間関係を――際限なく増やして、
自分の人生を自分で“手かせ足かせ”で縛ってしまっているのだ。
減らすことは、捨てることではない。
むしろ、自分を取り戻すことに他ならない。
原文とふりがな付き引用
人生(じんせい)は一分(いちぶん)を減省(げんせい)せば、便(すなわ)ち一分を超脱(ちょうだつ)す。
如(も)し交遊(こうゆう)を減(へ)ずれば便ち紛擾(ふんじょう)を免(まぬが)れ、
言語(げんご)を減ずれば便ち愆尤(けんゆう)寡(すく)なく、
思慮(しりょ)減ずれば則(すなわ)ち精神(せいしん)耗(こう)せず、
聡明(そうめい)減ずれば則ち混沌(こんとん)完(まっと)うすべし。
彼(か)の日に減ずるを求めずして、日に増すを求むる者(もの)は、
真(まこと)に此(こ)の生(しょう)を桎梏(しっこく)するかな。
注釈
- 減省(げんせい):削ること、控えること。
- 超脱(ちょうだつ):煩わしさや執着から抜け出すこと。
- 交遊(こうゆう):人との付き合い。
- 愆尤(けんゆう):過ちや失言。
- 混沌(こんとん):純粋無垢な心の状態、本来の自分。
- 桎梏(しっこく):手かせ足かせ。自分を束縛するもの。
関連思想
- 『老子』「知足者富」:「足るを知る者は富む」。過剰な追求よりも、控えることが心の豊かさにつながる。
- **仏教における「離欲」や「少欲知足」**の精神とも通じる。過ぎた欲望は苦の元。
- 現代のミニマリズムや断捨離とも響き合う思想。空間・時間・人間関係・情報などを整理して本質に立ち返るという考え方。
パーマリンク案(英語スラッグ)
less-is-liberation
→「減らすことは自由への鍵である」という核心を端的に表現。
その他候補:
- subtract-to-simplify(減らして、人生をシンプルに)
- cut-to-be-clear(削って、本来の自分に近づく)
- add-by-reducing(減らすことで、本当に必要なものが増える)
この章は、現代社会における“過多”の風潮への警鐘ともなりうる、深い智慧に満ちています。
1. 原文
人生減省一分、便超脫一分。如交遊減則免紛擾、言語減則寡愆尤、思慮減則精神不耗、聰明減則混沌可完。彼不求日減而求日增者、真桎梏此生哉。
2. 書き下し文
人生(じんせい)、一分(いちぶん)を減省(げんせい)すれば、便(すなわ)ち一分を超脱(ちょうだつ)す。
如(も)し交遊(こうゆう)を減(へ)らせば、則(すなわ)ち紛擾(ふんじょう)を免(まぬが)れ、
言語(げんご)を減らせば、則ち愆尤(けんゆう)寡(すく)なく、
思慮(しりょ)を減らせば、則ち精神(せいしん)耗(つ)きず、
聡明(そうめい)を減らせば、則ち混沌(こんとん)完(まっと)うすべし。
彼(か)の日に減ずるを求めずして、日に増すを求むる者は、真(まこと)に此(こ)の生(せい)を桎梏(しっこく)するかな。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「人生において、何かを一つ減らすことで、一つ自由を得られる」
- 「たとえば、交際を減らせば煩わしさを免れ、言葉を減らせば過ちも少なくなる」
- 「思慮を減らせば精神がすり減らず、聡明さを減らせば、混沌(=素朴さや自然さ)を取り戻すことができる」
- 「それなのに、減らすことを求めず、ただ増やすことを求める者は、まさに自らこの人生を縛ってしまっているのだ」
4. 用語解説
- 減省(げんせい):削減・省略すること。断捨離に通ずる概念。
- 超脱(ちょうだつ):執着から離れた自由な境地。仏教や道家の理想。
- 愆尤(けんゆう):過失や非難。
- 精神不耗:エネルギー・集中力が消耗しない状態。
- 混沌(こんとん):未分化で自然な状態。素朴さ、無為の象徴。
- 桎梏(しっこく):足かせ・手かせ。自由を束縛するもの。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人生で何か一つを省けば、それだけ自由になれる。
たとえば、交際を減らせば煩わしさが減り、言葉を減らせば失言も減る。
思い悩むことを減らせば心の疲れが減り、利口ぶることをやめれば、自然で素朴な状態に戻れる。
それなのに、多くの人は減らすことを求めず、ひたすら何かを増やそうとばかりしている。
それはまさに、自分の人生に足かせをはめているようなものだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句が説くのは、「足し算」ではなく「引き算」の哲学です。
- 人は知識、交友、言葉、思考、能力……あらゆるものを“増やすこと”に必死になっている
- だが実際には、“減らすことでこそ本来の自分や静かな充実が戻ってくる”
- 特に**“聡明さを減らす”ことが混沌=自然体を完うする**という部分は、東洋思想ならではの深みを感じさせます
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 「ミニマリズムは、成果の質を高める」
- 会議・人間関係・発言・タスクを減らすことで、核心に集中できる
- 情報過多や発信疲れは、減らすことでパフォーマンスを保てる
✅ 「“考えすぎ”は意思決定を濁らせる」
- 思慮深さも大事だが、過剰な検討・分析麻痺は疲弊を招く
- 時に“深く考えない”ことが、直観や本質を浮かび上がらせる
✅ 「“賢くあろうとする”より、“素朴に行う”」
- 自分を賢く見せようとせず、混沌の中で自然に判断するスタンスが、長期的には信頼につながる
8. ビジネス用の心得タイトル
「削ぎ落とすほどに、自由が現れる──“減省の美学”が超脱を育てる」
この章句は、タイムマネジメント研修、ミニマル思考の導入、リーダーの思考整理などに応用可能です。
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