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大きな問題のある君からは去る

不義の支配者には仕えず、危機からは身を引け

孟子は、人としての節義と自己防衛を兼ねた知恵として、悪しき君主のもとから「去ること」を選ぶべきだと説いた。
無実の士(役人)を殺すような政(まつりごと)は、やがてその上位にいる大夫(たいふ)にも危険が及ぶ。
また、無実の民を殺すような政は、次に狙われるのは士である。
そうした状況に直面したならば、大夫は国を去り、士は他国へ移るべきである――それが孟子の教えである。

これは単なる逃避ではない。
道を失った君主のもとにとどまることは、自らの節義をも失うことになるからだ。
理不尽が正義を踏みにじる時、最も誠実な行動とは、そこに「仕えない」ことである。


原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)曰(いわ)く、
罪(つみ)無(な)くして士(し)を殺(ころ)さば、則(すなわ)ち大夫(たいふ)以(もっ)て去(さ)るべし。
罪(つみ)無(な)くして民(たみ)を戮(りく)せば、則(すなわ)ち士(し)以(もっ)て徙(うつ)るべし。


注釈

  • 士(し):有徳の役人・知識人。政治を担う人材。
  • 大夫(たいふ):士の上位にあたる身分。国政に関与する有力な貴族。
  • 戮(りく):刑罰を加えて殺すこと。見せしめ的な粛清。
  • 徙(うつ)る:移住する、国を離れる。
  • 関連語句:「危邦に入らず、乱邦に居らず」(『論語』泰伯篇)とも共鳴する姿勢。

心得の要点

  • 不正な政に仕えてはならず、危険が迫れば身を引く勇気もまた義である。
  • 徳なき主君からの離脱は、忠義の放棄ではなく、真の節義の実践。
  • 君主の非道に加担することは、自らの人間性を損なう。
  • 政治における「逃れる」という行為は、時に最も高潔な自己決断となる。

パーマリンク案(スラッグ)

  • leave-a-wicked-ruler(悪しき主君からは離れよ)
  • step-away-to-stand-true(真を保つための離脱)
  • no-loyalty-to-injustice(不義に忠義なし)

この心得は、個人主義や体制批判という視点だけでなく、「人としての正しさ」を貫くためにどう生きるかという普遍的な問いにも通じています。

原文:

孟子曰:
無罪而殺士,則大夫可以去;
無罪而戮民,則士可以徙。


書き下し文:

孟子(もうし)曰(いわ)く、
罪(つみ)無(な)くして士(し)を殺(ころ)さば、則(すなわ)ち大夫(たいふ)以(もっ)て去(さ)るべし。
罪無くして民(たみ)を戮(りく)せば、則ち士以て徙(うつ)るべし。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  • 「罪無くして士を殺さば、則ち大夫以て去るべし」
     → 君主が理由もなく士(知識階層や下級役人)を殺したならば、その上役である大夫(中級官僚)はその場を去るべきである。
  • 「罪無くして民を戮せば、則ち士以て徙るべし」
     → また、理由なく一般民衆を殺したならば、士(知識人・下級官僚)はその国を離れるべきである。

用語解説:

  • 士(し):儒者・知識人・下級の官僚や士族層。道義を守るべき人々の象徴。
  • 大夫(たいふ):士より上位にある中級貴族・高級官僚。政務を預かる立場。
  • 戮(りく):むごたらしく処刑する。公開処刑や見せしめ的な暴力を含む。
  • 去(さ)る:辞職または仕官をやめること。
  • 徙(うつ)る:他国に移住・亡命する意。仕官の地を変えること。

全体の現代語訳(まとめ):

孟子はこう言った:
「もし、罪のない“士”を不当に処刑するような君主であれば、その上役である“大夫”は辞職すべきである。
また、理由なく“民”をむごく処刑するような政権であれば、“士”はその国から去って他国へ移るべきである。」


解釈と現代的意義:

この章句は孟子の政治的モラル観――**「不義な主君・体制には仕えてはならない」**という儒教における実践倫理の一つを端的に示しています。

孟子は、目上の者が不正を犯したときに、下位者は黙認して従うべきではないと断言します。
それは、単なる反抗ではなく、倫理と人間の尊厳に対する忠誠を守る行為です。

とくに、「士は民に対して責任を持ち、民の不当な殺戮に際して自らの進退を考えるべき」という姿勢は、公務・組織人としての道徳的自立を重んじる孟子思想の核心にあたります。


ビジネスにおける解釈と適用:

  • 「不正義を前にして沈黙することは、共犯である」
     職場で不当な解雇・差別・ハラスメントなどが横行しているのに黙って従っていれば、それは自らの信念を捨てていることになる。
     自らの倫理観に従い、時には身を引く選択も覚悟すべきである。
  • 「リーダーには“不義を拒否する勇気”が求められる」
     部下が不当に処罰されたとき、それを見過ごす上司は、職責を果たしているとは言えない。
     “部下を守る”ことができてこそ、真のマネジメントである。
  • 「企業文化や組織が人を踏みにじるなら、去るという選択は尊い」
     正義に反する方針がまかり通り、異議も受け入れられない組織にとどまることは、自分の尊厳を損なう。
     “去る”という判断もまた、誠実なプロフェッショナルの姿である。

ビジネス用心得タイトル:

「不義を黙認するな──倫理なき職場に、忠誠は無用」


この章句は、企業倫理・コンプライアンス・パーパス経営の基礎にも通じる強いメッセージを持ちます。

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