第一に、自分の心を物欲で曇らせないこと。私欲に覆われた心では、何を見ても正しく判断できなくなる。
第二に、人の情にすがりきらないこと。人の親切や厚意を当然のように受け尽くしてしまえば、人間関係の調和は崩れてしまう。
第三に、物の力を使い果たさないこと。自然の資源や人間の労力も無限ではなく、限度をわきまえてこそ持続可能な未来がある。
この三つの心得があれば――
それは、天地自然の理(ことわり)にかなった心のあり方となり、
人々の生活を安定させ、
さらには子孫にまで幸福を遺すことにつながるのである。
「自分さえよければいい」という生き方は、一代限りの浅はかさで終わる。
しかし、自分の心・他者との関係・自然の資源を慈しみ、控えめに扱う姿勢は、
未来にまで続く永続的な「福(しあわせ)」の土台となる。
原文(ふりがな付き)
「己(おのれ)の心(こころ)を昧(くら)まさず、
人(ひと)の情(じょう)を尽(つ)くさず、
物(もの)の力(ちから)を竭(つ)くさず。
三者(さんしゃ)、以(もっ)て天地(てんち)の為(ため)に心(こころ)を立(た)て、
生民(せいみん)の為に命(めい)を立て、
子孫(しそん)の為に福(ふく)を造(つく)すべし。」
注釈
- 昧まさず:曇らせない。私欲や邪念で真心を覆わない。
- 尽くさず:他人の情や援助を使い切らない。節度を保つ。
- 竭くさず:物のエネルギーや資源を使い果たさない。慎みをもって使う。
- 心を立てる:天地に通じる善なる心を持つこと。
- 命を立てる:人々の生活を安定させること。
- 福を造す:子孫に良き影響と恩恵を残すこと。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(未来に良きものを残す)do-not-exhaust-heart-others-things
(心・他人・物を尽くすな)restraint-builds-lasting-blessing
(慎みが永遠の福を築く)
この条は、持続可能性や利他性といった現代的な価値観にも通じる、非常に先進的な道徳哲学です。
短期的な成功ではなく、長く続く安定と調和のある人生を目指すための静かな指針が、ここに示されています。
1. 原文
不昧己心、不盡人情、不竭物力。
三者、可以為天地立心、為生民立命、為子孫謀福。
2. 書き下し文
己の心を昧(くら)まさず、人の情を尽くさず、物の力を竭(つ)くさず。
三者、以て天地の為に心を立て、生民の為に命を立て、子孫の為に福を謀(はか)るべし。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「自分の良心を曇らせず」
→ 自分の内なる誠を見失わないこと。 - 「他人の感情を使い果たさず(=情に甘えすぎず)」
→ 他者との関係において、感情的な搾取をしないこと。 - 「物の力を使い尽くさない(=資源を無駄にしない)」
→ 自然・物資・エネルギーなどに対し節度を持つこと。 - 「この三つを守れば、天地に代わって正しい心を持ち、民に代わって使命を立て、子孫に福をもたらすことができる」
→ 自己・他者・資源への敬意が、永続的な価値を生むということ。
4. 用語解説
- 不昧己心(ふまいきしん):自分の本心・良心を見失わない。昧は「曇らせる、見えなくする」の意。
- 不盡人情(ふじんじんじょう):他人の情に甘えたり、過度に使い果たすようなことをしない。
- 不竭物力(ふけつぶつりょく):物の力(資源・道具・環境など)を無制限に使い尽くさない。
- 為天地立心(てんちのためにこころをたて):宇宙の根本となる心を表す。誠・義・道などの象徴。
- 為生民立命(せいみんのためにめいをたて):人々の生きる指針・運命を整えること。
- 為子孫謀福(しそんのためにふくをはかる):後の世代に幸せと繁栄を残すこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
自分の良心を曇らせず、他人の感情を使い果たさず、資源を浪費しないこと。
この三つを守ることによって、天地に代わって誠実な心を示し、民のために生きる意味を示し、
子孫のために福を築くことができるのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「倫理・人間関係・環境資源」に対する調和と節度の哲学を伝えています。
- 第一は「自律と良心」:自分の中の正しさを失わない。
- 第二は「人間関係の節度」:他人の好意を当然とせず、思いやりと距離を大切にする。
- 第三は「資源の節度」:モノ・エネルギー・環境を持続的に使うという発想。
このように、「心・人・物」という三領域での調和が、社会の持続と繁栄をもたらすという極めて現代的で普遍的な倫理観を説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「不昧己心」:倫理観と自己正義の保持
- 不正に手を染めない。
- 顧客や部下に対して誠実であり続ける。
- プレッシャーに屈して良心を曇らせない。
●「不盡人情」:健全な人間関係の維持
- 同僚や顧客の善意を“当たり前”にしない。
- 情に訴える営業や強引な依頼ではなく、信頼による関係を築く。
●「不竭物力」:サステナブルな経営
- 資源を無駄にしない、環境に優しい施策を心がける。
- 社員の労力や時間を“消費”せず、“活用”する意識。
これら三要素が整えば、社会的意義ある企業として、永続的な信頼と価値を築くことができます。
8. ビジネス用の心得タイトル
「己を欺かず、人を使い果たさず、資源を浪費せず──“三つの節度”が未来を築く」
この章句は、**“人として、企業として、何を基準に生きるべきか”**という問いに対する、簡潔かつ本質的な答えです。
- 自分の内面を裏切らないこと
- 他人を都合よく使わないこと
- 持続可能性を常に意識すること
この3つの姿勢は、いま最も求められるリーダーシップの根幹と言えるでしょう。
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