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悪人を追い詰めすぎるな――逃げ道なき締めつけは、かえって禍を呼ぶ

組織や社会から悪人(奸)やへつらい者(倖)を排除しようとするとき、
彼らに**「一つの逃げ道」=退路**を用意しておく必要がある。

もし徹底的に封じ込め、退路をまったく与えないならば、
それは鼠(ねずみ)の穴をふさいでしまうようなものだ。

出口を失った鼠は、暴れて大事な物までかみ壊すように、
悪人やずる賢い者も、退路なき追い詰めにより、思わぬ破壊行動に出ることがある。

だから、どれほど厳しく対処すべき相手であっても、
一筋の逃げ道(名誉ある退き方や矛を収める余地)を残すことが、
かえって秩序と被害の最小化につながる。


原文(ふりがな付き)

奸(かん)を鋤(す)き倖(こう)を杜(ふさ)ぐは、他(た)に一条(いちじょう)の去路(きょろ)を放(はな)つを要(よう)す。若(も)し之(これ)をして一(いち)も容(い)るる所(ところ)無(な)からしめば、譬(たと)えば鼠(ねずみ)の穴(あな)を塞(ふさ)ぐ者(もの)の如(ごと)し。一切(いっさい)の去路(きょろ)都(すべ)て塞(ふさ)ぎ尽(つ)くせば、則(すなわ)ち一切の好物(こうぶつ)も俱(とも)に咬(か)み破(やぶ)られん。


注釈

  • 奸を鋤く(かんをすく):奸(悪人)を取り除く。鋤(すき)で草を削るように、根本から退けること。
  • 倖を杜ぐ(こうをふさぐ):倖(へつらう者・ごますり)を防ぐ。おべっかや不正な抜け道をふさぐこと。
  • 去路(きょろ):退路、逃げ道、引き際。逃れるための道筋。
  • 鼠の穴を塞ぐ:逃げ場を完全に奪うことの喩え。結果として反撃や破壊を招く危険がある。
  • 好物(こうぶつ)を咬み破る:守るべき大事なもの(制度、秩序、人)までも破壊される比喩。

※『孫子』も「囲師には必ず闕(か)け」と述べ、敵軍を包囲するときは一つの逃げ道を残しておけと説いています。追い詰めすぎれば、敵は死にものぐるいで反撃し、結果的に大きな被害をもたらすからです。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • leave-a-way-out(逃げ道を残せ)
  • pursue-not-to-destruction(追いつめても破滅させるな)
  • trap-not-the-rat-too-tightly(ネズミを締めすぎるな)

この条文は、組織運営や人間関係における“追い詰め方”の危うさを教えてくれます。

悪を断ち切ることは必要ですが、
それを完全に締め上げてしまえば、かえって予想外の反撃や破壊が生まれかねない

大事なのは、名誉ある降り方、撤退の余地、反省の場を与える余裕を持つこと。
それは弱さではなく、強い知恵であり、混乱を避けて組織や人を守るための徳ある戦略です。

目次

1. 原文

鋤奸杜倖、須放他一條去路。
若逼之一無可容、譬如塞鼠竇者。
一切去路都塞盡、則一切好物俱咬破矣。


2. 書き下し文

奸(かん)を鋤(す)き、倖(こう)を杜(ふさ)ぐには、須(すべか)らく他(た)に一条(いちじょう)の去路(きょろ)を放(はな)つべし。
若(も)し之(これ)をして一も容(い)るる所無からしめば、譬(たと)えば鼠竇(そとう)を塞(ふさ)ぐ者の如(ごと)し。
一切(いっさい)の去路(きょろ)を都(ことごと)く塞(ふさ)ぎ尽(つ)くせば、則(すなわ)ち一切の好物(こうぶつ)も俱(とも)に咬(か)み破(やぶ)られん。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 不正を取り除き、偶然の幸運(コネや運頼み)を断つには、相手に逃げ道を一つ残しておくべきである。
  • もし完全に追い詰めて、少しの余地も残さなければ、それはまるでネズミの穴をすべて塞ぐようなものである。
  • 逃げ道をすべて塞ぎ尽くしてしまえば、怒ったネズミが家中の貴重な品々を噛み壊してしまうように、大きな害をもたらす。

4. 用語解説

  • 鋤奸(じょかん):奸(悪意や不正)を鋤く、取り除くこと。
  • 杜倖(とかん):倖(偶然の運)を杜(ふさ)ぐ=運任せや不正な抜け道を断つこと。
  • 去路(きょろ):逃げ道、退却路。
  • 鼠竇(そとう):ネズミの抜け道や通り道。
  • 咬破(こうは):噛み壊すこと。破壊のたとえ。
  • 好物(こうぶつ):大切な物、財産、成果などを象徴する。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

不正を排除し、運任せの抜け道を断とうとする際にも、相手に一つの逃げ道を残すべきである。
もし完全に追い詰めて一切の逃げ道を断てば、反動でかえって大きな混乱や害が生じる。
それは、ネズミの穴を全部ふさげば、怒ったネズミが家の貴重品を噛み壊してしまうようなものである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「裁きと対応における“余地”と“逃げ道”の重要性」**を説いています。

  • 不正を正すことは大切であるが、“逃げ場なき正義”は破壊を招く。
  • 処罰や指導においても、“引き際の余地”を与えることが、最終的に秩序を守る。

この考え方は、古今東西の政治や経営、教育、家庭に至るまで通じる知恵であり、
**「戦略的な寛容」や「賢い退路設計」**という形で今も重要視されています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「不正の是正にも、フェアな退路を」

  • 不正・問題行動の指摘や懲戒も、相手に修正のチャンスや立ち直りの道を示すべき
    → 完全に叩き潰すと、逆恨み・内部破壊・リークなど、二次被害のリスクが高まる。

● 「ミスの指摘は“改善の余地”を含めて」

  • 部下や後輩の失敗を責めるときにも、“次がある”という含みを持たせると、再起の意欲が生まれる。
    → 「責める」ではなく「導く」ことで、組織の信頼と生産性が保たれる。

● 「クレーム・離職対応では“感情の抜け道”を作る」

  • 顧客の苦情、社員の退職理由なども、徹底的に封じず、「逃げられる口実」や「譲れる着地点」を用意しておくことで、
    → 対立ではなく“納得と収束”に導ける。

8. ビジネス用の心得タイトル

「正義にも余地を、指導にも退路を──破壊を防ぐ“逃げ道の設計”」


この章句は、ただ正すだけでは物事は収まらないという、**“人間の感情と反発の構造”**を見抜いた、深い洞察に満ちています。
「すべてを管理しようとすることで、かえって全てを壊す」という現代的リスクに対し、
**“逃げ道を作ることは優しさではなく戦略”**であるという知恵が、現代のリーダーシップにも強く響くものです。

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