孔子はある日、弟子の子夏(しか)に対してこう語った。
「お前は、世の中のために尽くす志を持った君子の学者になりなさい。
決して、自分の名声や立身出世だけを望むような、小人の学者になってはならないぞ。」
この教えは、学問や知識の「目的」を問い直すものである。
それは、自分の評価や利益のためだけに使うものではなく、広く社会や他人のために役立てるべきものだという、孔子の思想の根幹をなすものでもある。
「君子の儒(じゅ)」は、道徳と実行を兼ね備え、自己の利益よりも公益を優先する人物。
対して「小人の儒」は、学びを手段としか見ず、体裁ばかりを気にしている人間だ。
この言葉には、孔子の学問観、そして弟子たちへの厳しくも温かい期待が込められている。
「何を知っているか」よりも、「それをどう使うか」――その一点に、人の本当の価値が問われる。
ふりがな付き原文
子(し)、子夏(しか)に謂(い)いて曰(いわ)く、
女(なんじ)、君子(くんし)の儒(じゅ)と為(な)れ。
小人(しょうじん)の儒と為る無(な)かれ。
注釈
- 子夏(しか):孔子の弟子。本名は卜商(ぼくしょう)。実務に長け、教育者としても名を残す。
- 君子の儒:世のため人のために学問を活かす、志の高い理想的な学者。
- 小人の儒:自己保身や名声のために学問を使う、志の低い人物。
- 謂いて曰く:語りかけ、導くような孔子の口調が表れている。
1. 原文
子謂子夏曰、女爲君子儒、無爲小人儒。
2. 書き下し文
子(し)、子夏(しか)に謂(い)いて曰(いわ)く、
女(なんじ)、君子(くんし)の儒(じゅ)と為(な)れ。小人(しょうじん)の儒と為る無(な)かれ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子、子夏に謂いて曰く、
→ 孔子は弟子の子夏に言った。 - 女、君子の儒と為れ。
→ 「お前は、高潔な人物である“君子”としての儒者を目指しなさい。」 - 小人の儒と為る無かれ。
→ 「目先の利益にとらわれる“小人”のような儒者にはなるな。」
4. 用語解説
- 子夏(しか):孔子の高弟。本名は卜商(ぼくしょう)。学問好きで、教育者としても活躍。
- 儒(じゅ):儒者、儒学を学ぶ者。ここでは知識人・教養人・指導的人材の意味を含む。
- 君子の儒:人格的にも高潔で、学問を人間性や社会貢献に生かす理想的な知識人。
- 小人の儒:知識を私利私欲のために用い、地位や名声に執着する形ばかりの儒者。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は、弟子の子夏にこう言った。
「お前は、徳と人格を備えた“君子”としての儒者になりなさい。
決して、自分の利益のために学問を使うような“小人”の儒者になってはならない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「知識の使い方」と「学びの目的」**を問う孔子の核心的な教えです。
- 知識そのものは価値中立的だが、“それをどう使うか”で人間の質が分かれる。
- 真に目指すべきは、知を通じて自己を高め、他者や社会に貢献する“君子の儒”。
- 一方、“小人の儒”は、学問を肩書や利益の手段としか見ない浅薄な知識人を指す。
7. ビジネスにおける解釈と適用
● 「スキルより姿勢──知を徳で使える人が信頼される」
- 学歴・資格・知識があっても、人のために使わなければ、それは“小人の知”にすぎない。
- “できる人”より“誠実に知を使う人”が組織にとって真の財産。
● 「専門性を“権威”にせず、“貢献”に変える姿勢を持て」
- 知識や技術をひけらかすのではなく、謙虚に役立てる態度が“君子の儒”の真髄。
● 「指導者・教育者・コンサルタントに必須の心得」
- 伝える人・導く人こそ、知を人格とともに運ぶ者であれ。
- 教える側の“あり方”こそが、学ぶ側にもっとも大きな影響を与える。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「知を誇るな、徳に添えよ──君子の学び、信頼の学び」
この章句は、「知識人としての倫理」「学びを何に使うか」という根源的な問いを与えてくれる金言です。
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