佐世保重工の失敗と来島ドックの再建
社長の役割は事業の存続を第一とすることは論を待たない。来るべき我社の危険を発見し、これに備えることである。それをやらずに、内部にばかり目を向けていたのでは倒産しない方がおかしいのだ。
l、企業再建で忘れてはならないことの一つは、何の罪もない社員の生活を、如何にして守るか、である筈なのに、反対のことをやっている。再建計画自体が社員の生活を守るという目的を持っているのだ。
2、事業の最高責任者であることを全く忘れて、見当違いの「部課長特訓」を真っ先にやっている。会社の運命をきめるのは部課長ではないのだ。
3、佐世保重工破綻の教訓を来島ドックの経営に生かすことを知らない。
人間というものは、所得に合わせて生活設計をする。給与が高ければ、この高い給与に合わせて住宅ローンを設定する。マイカーを買う。それを、いきなり大幅な給与カットにあったら生活はどうなるか。日常生活を切りつめたくらいではとても追いつかない。ローンが払えなくなる。車の月賦が払えなくなる。生命保険の掛金が払えなくなってしまう。
第二の、部課長特訓とは何事であるか、と私はいいたい。部課長に倒産の責任はないのだ。またこんなことをしたところで、再建には何の効果もないことは明らかである。
部課長がいかに優秀であろうと、懸命な努力をしようと、再建には何の力もないのだ。それの分らぬ社長には、社長の資格が始めから欠けているのである。
「佐世保重工は単品でつぶれた。多角化というのは口先だけで真剣に取組んでいなかったからだ。まてよ、わが来島ドックも実質単品経営ではないか、これは危険だ。真剣に多角化を進めなければならない」と。
私は、この経験から二つの大切なことを学んだ。 一つはお客様の要求の変化を把えることができなければ、会社はつぶれてしまうということである。もう一つは、オンリーさんの危険である。
それまでの筆者は、もともと生産技術者だっただけに、企業内の生産性の向上にばかり目を向けていて、生産性さえ上げれば企業の業績は上がるとばかり考えていたことの誤りを痛感させられたのである。オンリーさんの危険についても同様である。
佐世保重工の訪問時、造船業界は韓国造船業の台頭により、不況の兆しが見えていましたが、佐世保重工の社長は、来るべき危機に備える新事業に積極的ではありませんでした。結果、造船不況の波が押し寄せた際、最も早く倒産したのが佐世保重工でした。他社が新事業で生き残ったのとは対照的に、佐世保重工には頼れる新事業がなく、事業の多角化が不十分だったのです。
来島ドックの坪内寿夫による再建
佐世保重工の再建を引き受けたのが「経営の神様」と称された坪内寿夫でしたが、その手法には問題がありました。
- 社員の生活を軽視した給与カット
坪内は倒産した佐世保重工の給与水準が来島ドックより高いことを理由に、大幅な給与カットを行いましたが、これは生活設計に基づいた社員の生活に大きな影響を与えるものでした。生活基盤を崩すことで社員の不満が爆発し、ストライキが発生したのも無理はありません。 - 見当違いの部課長特訓
坪内は部課長特訓を行いましたが、企業の再建は社長の責任であり、部課長の努力では成り立ちません。再建計画を策定し、銀行や債権者、労組の理解を得ることが先決であり、リーダーとして全体を率いるべき立場の社長が、部課長の責任を問うのは誤りです。 - 多角化の不備
佐世保重工が倒産に至った要因の一つは、タンカーに依存した単品経営でした。来島ドックもまた同様に、多角化を進めずに単品経営の危険性を放置したことが、後の苦境を招きました。
トーハツの教訓
太平洋戦争後に二輪車メーカーとして名を馳せたトーハツは、時代の変遷に伴うお客様の要求の変化を見落とし、時流に合わない設計方針を貫いたために、昭和30年代後半には急速に人気を失いました。結果的に、変化に対応しなかったトーハツは、やがて倒産に追い込まれました。
教訓:事業経営とは変化への対応
上記の事例から学べるのは、企業が生き残るためには、常に顧客の要求や市場の変化を見極め、柔軟に対応することが不可欠であるということです。単品経営や内部管理に固執するのではなく、多角化や新事業の推進によってリスクを分散し、将来の変化に備える姿勢が企業の存続を支えるのです。
他山の石に学ぶ――マミヤ光機とサンウエーブ、日本熱学の教訓
マミヤ光機:経営戦略の失敗
一時はかなりの業績を上げたが、冷厳な市場原理(競争原理)により売上げは次第に落ちていった。市場戦争に破れた企業の生きる道は、輸出に活路を見出すか、新商品である。
いかに優れた商品だろうと、他人任せの販売ではダメである。その販売会社がつぶれてしまえば、それで終りである。
「自らの商品は自らの手で売る」これが正しい態度である。その販売も、「最大の得意先でも、総売上げの三〇%以内」として我社の安全性を確保することこそ、社長の正しい態度である。
ところが、流通業者は「我社を総代理店にせよ」という要求をしてくる場合が多い。これは「謝して断わる」でなければ社長ではない。というのが私の持論である。
もう一つの誤りは商品政策である。誤りというよりは無知というほうが正しい。
マミヤ光機は、かつてカメラの分野で業績を上げていたが、競争が激化し、売上は低迷。生き残りの道として、プロ用カメラに進出したものの、販売を大沢商会に依存していたことが命取りとなり、代理店の倒産が連鎖倒産を招きました。
教訓
- 自己販売体制の確立:優れた技術があっても、他社に依存した販売体制では危険。自社の商品は自らの手で売るべきであり、最大の得意先でも売上の30%以内に抑える安全性の確保が重要。
- 商品政策の見誤り:民生用とプロ用の二本建てという戦略は実質的な二本建てではなく、限界生産者である民生用カメラは将来性が乏しいものでした。限られた資源は、将来性があり高収益を見込めるプロ用カメラに集中すべきだったのです。
- 多角化と将来への投資:将来性のない商品に資金を費やすのではなく、将来の優れた機会に資源を集中させ、事業の持続性を図る必要がありました。
サンウエーブ:放漫投資と資金管理の欠如
サンウエーブは、住宅産業の需要に応じてステンレス流し台の増産を進めましたが、資金計画のない無謀な設備投資を繰り返し、銀行からの融資も断たれ、資金繰りに行き詰まり倒産しました。
教訓
- 資金運用計画の重要性:特に大型の設備投資をする際には、資金運用計画が不可欠。資金計画を立てずに投資を進めることは危険です。
- 成長期でも慎重な投資判断:急成長期にあっても、無計画な増産と設備投資は資金繰りを圧迫し、経営を危機に追いやります。売上が増えても資金繰りが苦しくなる現象を理解し、計画的に投資を進めるべきです。
日本熱学:リースビジネスの落とし穴
日本熱学は「コイン・クーラー」という新事業で、リースビジネスに挑戦しましたが、リース事業は運転資金が膨らむため、資金繰りが追いつかず倒産に至りました。
教訓
- ビジネスモデルの選択とリスク認識:リース業は、顧客数が増えると資金需要が急増するため、運転資金の確保が重要です。新たなビジネスモデルには特有のリスクを認識し、持続可能な資金計画を整えることが不可欠。
経営者に求められる資金運用の知識と計画
上記の失敗企業に共通するのは、資金運用の知識不足です。資金運用計画を立てることで、未来の設備投資や借入金の返済スケジュール、財務分析を行い、会社の成長を支えることが可能です。
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