学びを確かにしてからこそ、世に出る価値がある
孔子は弟子・漆雕開(しつちょうかい)に仕官(公の職に就くこと)を勧めた。
しかし漆雕開は、「まだ自分にはその任にふさわしいだけの確信がない」と辞退した。
この返答を聞いた孔子は、たいそう喜んだという。
自分の力を過信せず、まずは十分に学び、人格と実力が整ってから世に出ようとする姿勢――それこそが、君子の慎みと誠実さである。
学びと実践の間には時間が必要であり、学びを軽んじては真の実力者にはなれない。
孔子が喜んだのは、漆雕開の謙虚さと、学びへの真摯な姿勢を見たからである。
原文とふりがな付き引用
子(し)、漆雕開(しつちょうかい)をして仕(つか)えしめんとする。
対(こた)えて曰(いわ)く、吾(われ)は斯(これ)を之(これ)未(いま)だ信(しん)ずる能(あた)わず、と。
子、説(よろこ)ぶ。
力が伴っていないのに急いで事をなせば、かえって誤る。
まずは自らを確かなものにせよ――それが本当の「学びの完成」である。
注釈
- 漆雕開(しつちょうかい)…孔子の弟子の一人。学問を重んじ、実践には慎重な姿勢を示した人物。
- 仕(つか)う…仕官、公の職務に就くこと。
- 信ずる能わず…自信がない、任に足るとまだ思えないという謙虚な心。
- 説ぶ(よろこぶ)…孔子が心から喜んだこと。言葉ではなく態度・志に対する評価。
1. 原文
子使漆雕開仕。
對曰、「吾斯之未能信。」
子説。
2. 書き下し文
子(し)、漆雕開(しつちょうかい)をして仕(つか)えしめんとす。
対(こた)えて曰(いわ)く、「吾(われ)は斯(こ)の道を未(いま)だ信(しん)ずる能(あた)わず。」
子、説(よろこ)ぶ。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
「子使漆雕開仕」
→ 孔子は、漆雕開に官職に就くよう勧めた。
「對曰、吾斯之未能信」
→ 彼はこう答えた。「私はこの“道(=儒の教え)”をまだ十分に信じ切れていないのです。」
「子説」
→ 孔子はそれを聞いて、たいそう喜んだ。
4. 用語解説
- 漆雕開(しつちょうかい):孔子の弟子の一人。人物評では多く語られないが、ここでは「誠実な自己認識」を示した弟子として登場。
- 仕(つか)う/仕える:官職に就くこと、政に参与すること。
- 斯(こ)れ之(これ)を信ずる:ここでは「儒教の道」「仁義の実践」を本心から信じて従うこと。
- 説(よろこ)ぶ:孔子は、弟子の発言や行為に対して満足・称賛の意をもってこの語を用いる。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は漆雕開に、役人として仕えるよう勧めた。
すると漆雕開は、「私はまだこの道を本当に信じ切れていないのです」と答えた。
これを聞いて、孔子はとても喜んだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子が“能力”や“結果”よりも、“誠実な自己認識”と“道義に対する真摯な態度”を高く評価していたことを物語っています。
- 儒教の「仕える=公的な責任を負う」ことは、単なる職務遂行ではなく、「道義を体現する者」としての覚悟が求められる。
- 漆雕開は、信じ切れていない自分の未熟さを素直に認め、「不誠実なまま役職に就くべきではない」との判断を示した。
- 孔子はその正直さと謙虚さに対して、喜びを示した。
この逸話は、「正しい自己評価」と「誠実な行動判断」がいかに大切かを示す名場面といえます。
7. ビジネスにおける解釈と適用
「誠実な“不引き受け”は、真の信頼を生む」
何かを依頼したときに、「まだ自分には信念が伴っていない」と率直に断る人間は、信頼に値する人物である。
できないことをできると言うよりも、できない理由を誠実に伝えることこそ信頼構築の第一歩。
→ 「できます」と言うより、「まだできません」と言える誠実さを評価せよ。
「“準備不足”を隠さず伝えられる組織文化をつくる」
漆雕開のように、自分が理念・スキル・覚悟のいずれかが欠けていることを率直に申告できる風土があると、誤った人材登用や失敗の回避にもつながる。
→ 「やらせてみてから考える」のではなく、「任せるべきか、本人の声に耳を傾けてから考える」こと。
8. ビジネス用の心得タイトル
「“できません”と言える誠実が、組織を強くする──真の準備は、信念から始まる」
この章句は、仕事や役割の“引き受け方”において、最も大切なことは「信念と誠実」であることを教えてくれます。
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