― 正しく導き、混乱を避ける知恵が必要
孔子は、人を治め導く際の根本姿勢について語った。
「民(たみ)=人々」に行動させることはできるが、
そのすべてを理解させる必要はない。むしろ、それは難しく、
不用意に情報を与えることで混乱を招く恐れもある。
これは知識を与えずに従わせろという支配的な思想ではなく、
情報の伝え方やタイミング、信頼関係が極めて重要だという、
リーダーとしての慎重な姿勢を求める教えである。
民が信頼し、安心して従えるようにするには、
説明よりも信頼される行動と姿勢が鍵となる。
それが、組織や社会を円滑に動かす知恵なのだ。
原文と読み下し
子(し)曰(のたま)わく、民(たみ)は之(これ)に由(よ)らしむべく、之を知らしむべからず。
注釈
- 由らしむ(よらしむ):導き、従わせる意。納得のうえで動いてもらうこと。
- 知らしむべからず:すべてを教えることはできない、あるいはしてはならないという意味。単に「隠す」ことではなく、「必要以上の情報が混乱を招くこともある」との慎重な視点。
- この句には誤読が生じやすく、時代によって「愚民政策」と曲解されたこともあるが、孔子本来の意図は組織運営における“信頼”と“適切な情報提供”のバランスを説いていると読むのが自然。
原文:
子曰、民可使由之、不可使知之。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、民(たみ)は之(これ)に由(よ)らしむべく、之を知(し)らしむべからず。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「民は之に由らしむべく」
→ 民(一般の人々)は、道に従わせるべきである。 - 「之を知らしむべからず」
→ しかし、その道理(理由や根拠)を理解させようとしてはならない。
用語解説:
- 由(よる):従う、従わせるという意味。道に沿って行動させること。
- 知らしむ:理解・納得させる。知的な認識に至らせること。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「人々は正しい行いに従わせるべきであるが、その背後にある理屈や理由をいちいち理解させようとすべきではない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、しばしば**「民衆を無知のままにしておけ」という独裁的な解釈がされがちですが、実際には統治・教育・組織運営における“段階的育成”の重要性”**を説いたものと読むことができます。
孔子の主張は、次のように理解すべきです:
- 行動を先に正すことで、体得的に道徳や規律を身につける。
- 理解を求めるのはその後でよい。**“実践先行・理解は後”**という育成順序。
つまり、未成熟な段階にある者に、理屈よりもまず行動習慣・規律ある実践を教えることが重要だという指導論です。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「新人には“わかる”より“やってみる”を」
- 理屈よりも行動を先に学ばせる──OJTや現場研修で重視される原則。
- 最初から理論詰めにすると、行動が止まる。
2. 「ルールを“納得”ではなく“定着”させる」
- 新制度や方針導入時、「なぜか」より「どうするか」にフォーカスさせる方が、組織の早期安定につながる。
- 運用が定着した後に、改めて意義を語るほうが効果的。
3. 「段階的に理解を深めさせる」
- 初学者・新人・異動者には、**“まずは従ってみる”**フェーズを設ける。
- 理解 → 納得 → 応用 → 改善、という段階的育成の第一段が「由らしむ」。
ビジネス用心得タイトル:
「従うことで学ぶ──“理解より実践”が人を育てる第一歩」
この章句は、教育・研修・リーダーシップにおける「導き方の順序」への深い示唆を含みます。
知識偏重型の教育を戒め、「身体で覚える・行動から学ぶ」という、現場主義の重要性を強調しています。
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