孟子は、人に何かを行わせたいのであれば、まず自分がその「道」を体現しなければならないと説いた。
たとえ最も身近な存在である妻や子どもでさえも、自らが道を外れていれば、その影響は届かない。
言葉だけで人を動かそうとしても、それが自分の生き方と一致していなければ、説得力はなく、真の信頼も得られない。
「使う者が道を知らなければ、使われる者も動かない」――孟子のこの言葉は、リーダーシップの本質を鋭く突いている。
家庭でも組織でも、真に人の心を動かすのは、言葉ではなく、身をもって示す姿勢である。
だからこそ、「道を行う」とは、自分の行動そのものであり、言行一致の力こそが人を導く鍵となる。
引用(ふりがな付き)
「孟子(もうし)曰(いわ)く、身(み)、道(みち)を行(おこな)わざれば、妻子(さいし)にも行(おこな)われず。人(ひと)を使(つか)うに道(みち)を以(も)ってせざれば、妻子(さいし)にも行(おこな)わるること能(あた)わず」
注釈
- 身、道を行わざれば…自分自身が正しい道義に従って生きていなければ。
- 妻子にも行われず…最も近くにいる者でさえ、従うことはない。
- 使うに道を以てせざれば…人を導くときに、正しい方法・道理によらなければ。
- 行わるること能わず…相手を行動させることはできない。言葉も行為も虚しくなる。
1. 原文
孟子曰、身不行道、不行於妻子。
使人不以道、不能行於妻子。
2. 書き下し文
孟子(もうし)曰(いわ)く、身(み)、道(みち)を行(おこな)わざれば、妻子(さいし)にも行(おこな)わるること無し。
人(ひと)を使(つか)うに道を以(も)ってせざれば、妻子にも行(おこな)わるること能(あた)わず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 身不行道、不行於妻子。
→ 自らが道(正しい行い)を実践しなければ、それは妻子にさえも伝わらない。 - 使人不以道、不能行於妻子。
→ 他人を扱うのに道義を用いなければ、それすらも家族(妻子)に対して通用しない。
4. 用語解説
- 身(み):自分自身。主体的な行為者としての「わたし」。
- 道(みち):儒家における道徳的規範。天理・正義・人倫の道。
- 行う(おこなう):道を実践する、日常の中で体現すること。
- 妻子(さいし):家族。ここでは最も身近で親しい人々を象徴。
- 使人(ひとをつかう):人を指導・命令・管理する立場にあること。
- 以て道を為す(道を以てせず):道義に則って行う/行わない。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「自分が道を実践しなければ、最も身近な家族である妻や子でさえも、それを受け入れることはない。
他人を使うにあたって道義をもってしなければ、その正しさは、家族にさえ通じないのだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句の本質は、**「真の影響力は自らの実践からしか生まれない」**という教えです。
孟子は、道義(=正しさ)を言葉で教えるのではなく、行動で示すべきだと主張します。
しかも、それが最も顕著に現れるのが「妻子=家族」という身近な存在に対してです。
家族は日常を共にしているため、言葉では取り繕えません。本当に「道を行っている」かどうかが、最も厳しく、正確に測られるのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用
「行動の伴わないリーダーは、信頼されない」
- 社内で掲げる理念や方針が、経営者自身・上司自身の行動に反映されていなければ、誰もついてこない。
- 近しい部下(=妻子に相当)ほど、その“本音”を見抜いている。
「マネジメントは“言葉”より“姿勢”」
- 人を動かすには、「道を以てす」──つまり、理念や価値観に基づいた誠実なふるまいが必要。
- それなくして、部下やチームの心を動かすことはできない。
「家庭でも職場でも、“リーダーの在り方”は問われる」
- プライベートとビジネスは連続しており、本当に道を行っているかは、最も近くにいる人間に最初に表れる。
- 家族に尊敬されないリーダーは、組織にも通用しない──という孟子の厳しい眼差しが見て取れる。
8. ビジネス用心得タイトル
「語るな、示せ──“道”はまず足元から始まる」
この章句は、**「人を導く者はまず自らを正すべし」**というリーダーの根本的な条件を語っています。
孟子が説く「道の実践」とは、決して抽象的な教義ではなく、日々のふるまいや言葉の誠実さに現れるものなのです。
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