人々に敬意と忠誠を持たせ、勤勉に励ませたいのであれば、まず上に立つ者自身がその姿を示すべきである。
威厳をもって接すれば、自然と敬意が生まれ、親孝行や思いやりを実践すれば、部下の忠誠心も育つ。
また、有能な人を積極的に登用し、能力の足りない者には丁寧に教えること――このようにしてこそ、組織全体がやる気に満ちていく。
上に立つ者は、言葉ではなく態度と行動で示すべし。それが周囲を動かす最も確かな方法である。
敬意は態度で、忠誠は人徳で、努力は登用と育成で生まれる。
目次
原文:
「季康子問、使民敬忠以勸、如之何。子曰、臨之以莊則敬、孝慈則忠、舉善而教不能則勸。」
書き下し文:
「季康子(きこうし)問(と)う、民(たみ)をして敬忠(けいちゅう)にして以(もっ)て勧(すす)ましむるには、之(これ)を如何(いかん)せんかと。子(し)曰(いわ)く、之に臨(のぞ)むに荘(そう)を以(もっ)てすれば則(すなわ)ち敬(けい)し、孝慈(こうじ)なれば則ち忠(ちゅう)なり。善(ぜん)を挙(あ)げて不能(ふのう)を教(おし)うれば則ち勧(すす)まん。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「季康子問う」
→ 季康子(魯の有力者)が尋ねた。 - 「民をして敬忠にして以て勧ましむるには、之を如何せんか」
→ 民が上を敬い、誠を尽くし、自発的に努力するようにさせるにはどうすればよいか。 - 「子曰く、之に臨むに荘を以てすれば則ち敬し」
→ 孔子は答えた:「民に接するとき、威厳と節度を持って臨めば、民は敬意を抱く。」 - 「孝慈なれば則ち忠なり」
→ 君主や上位者が親を敬い、人に慈しみをもって接すれば、民もそれに応えて忠義を尽くす。 - 「善を挙げて不能を教うれば則ち勧まん」
→ 有能な人を登用し、足りない人には教え育てれば、民は努力しようとするようになる。
用語解説:
- 季康子(きこうし):魯国の実質的支配者。孔子に政治をたびたび問うた人物。
- 敬忠(けいちゅう):上を敬い(敬)、誠を尽くして尽力する(忠)こと。
- 荘(そう):厳粛、威厳、まじめさ、品格。
- 孝慈(こうじ):親を敬い(孝)、人に情けをかける(慈)。
- 挙善(きょぜん):善良で有能な人を登用すること。
- 教不能(きょうふのう):能力が不足する人には教育を施すこと。
- 勧(すす)む:やる気を起こす、奨励されて努力する。
全体の現代語訳(まとめ):
季康子が「民に敬意と忠誠を持たせ、やる気を起こさせるにはどうすればよいか」と尋ねた。
孔子はこう答えた:
「人々に対しては荘重で節度ある態度で接すれば、民は敬意を持つようになる。
上に立つ者が親を大切にし、人々に慈愛を示せば、民も忠義を尽くすようになる。
さらに、有能な人を登用し、そうでない者を教育すれば、民は励まされて努力するようになる。」
解釈と現代的意義:
この章句は、「リーダーの徳と行動が、組織や社会の人心を動かす鍵である」という孔子の統治哲学をよく表しています。
- 威圧ではなく“荘重さ”によって敬意を引き出す:姿勢・態度・言葉遣いの中に品格があれば、自然と人は敬う。
- リーダーが“誠意・慈愛”をもって接することで、部下は忠誠と貢献の意志を持つ:徳による感化。
- 優秀な人を活かし、育てる文化を作ることで、全体が奮起する:人材登用と育成の戦略。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「威厳は圧でなく“品”で生まれる」
- リーダーは声を荒げたりルールで縛ったりするのではなく、自らの落ち着いた言動・姿勢・誠実さによって尊敬を得る。
- 「荘を以て臨む」は、品格によるリーダーシップの原則。
- 「上司の姿が、部下の忠誠を生む」
- 公私ともに誠実で、家族や他者にも思いやりをもって接する上司には、部下も信頼を寄せ、尽くしたくなる。
- 「人材登用と教育のバランスが、組織を動かす」
- 有能な人を正しく評価し登用し、まだ育っていない人には丁寧に支援を行う。
→ この両方がそろってこそ、職場のやる気(=勧め)を生む。
- 有能な人を正しく評価し登用し、まだ育っていない人には丁寧に支援を行う。
まとめ
この章句は、人を動かすために必要なのは、強制ではなく徳と制度のバランスであるという、あらゆる組織リーダーに通じる永遠の真理です。
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