一、原文(抄出)
談合事などはまづ一人と示し合ひ、その後聞くべき人々を集め一決すべし。
さなければ恨み出来るなり。
また大事の相談は、かもはぬ人、世外の人などにひそかに批判させたるがよし。
贔贋なき故よく理が見ゆるなり。
一くるわの人は談合候へば我が心の理方に申すものにて候。
これにては役に立ち申さず候由。
二、書き下し文(要約)
相談ごとがあるときには、まず然るべき一人と事前に打ち合わせをしてから、関係者全体で決定するのが良い。
そうでなければ、うまくいかず、後に不満を生む。
また、大きな相談事は、無関係な立場にある人や、世を離れた人にひそかに意見を求めるとよい。
そういう人は利害に関係がないため、筋道がよく見える。
逆に、内輪の者ばかりで相談すると、都合の良い意見しか出てこず、結局、実効性が乏しくなる。
三、用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
談合 | 相談・打ち合わせ。 |
かもはぬ人 | 関係のない第三者(部外者) |
世外の人 | 世俗から離れた者。出世欲や利害と無縁な人物。 |
贔贓(ひいき)なき故 | 私情や偏りがないため。 |
理方 | 理にかなった判断・意見の方向性。 |
一くるわの人 | 身内・仲間内のこと。 |
四、全体現代語訳(まとめ)
相談ごとは、まず信頼のおける1人と事前に打ち合わせをし、その上で他の関係者と相談して結論を出すのがよい。そうでなければ、物事がうまくまとまらないうえ、関係者の間に不満が残る可能性がある。
また、重要な問題に関しては、まったくの第三者や、利害関係のない立場の人に意見を求めるとよい。私情が入らないため、より正確な筋道が見える。逆に、仲間内だけで相談すると、都合のよい意見しか出てこず、役に立たなくなるのだ。
五、解釈と現代的意義
この章句は、「事前調整(根回し)と外部視点の活用の重要性」を説いています。特に組織内の意思決定やチーム運営において、以下の2点が核心です:
- 根回しの技術:意見をまとめるには、まず信頼できる1人と意見をすり合わせ、次に他の関係者を巻き込むという段階的な合意形成が不可欠。
- バイアス排除の視点:仲間内では同調バイアスが働きやすいため、全く関係のない第三者の意見を得ることで、論理の破綻や盲点を防げる。
現代でいう「ファクトチェック」「ダブルループ学習」「ステークホルダー分析」にも通じます。
六、ビジネス応用(実践法)
活用領域 | 実践例 |
---|---|
✅ 会議前の根回し | まずキーパーソン1人と調整 → それから全体会議へ。 |
✅ 社内提案の成功法 | 上司やメンターに非公式に相談してから公式提案。 |
✅ 第三者レビューの活用 | 同僚以外の部署、あるいは外部顧問などにレビュー依頼。 |
✅ 意見の多様性確保 | 内部だけでなく、部外者・若手・現場の声も拾う工夫を。 |
七、心得まとめ
「物事を動かすのは、場の空気ではなく、事前の一声である」
✔「まず一人に相談」――人心の流れを掴む基本。
✔「関係者全員への丁寧な調整」――不満を未然に防ぐ工夫。
✔「無関係な賢者の意見を求める」――真の理を知る鍵。この三段構えこそが、誤らぬ判断と、実効性ある成果を導く。
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