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■原文(八)
(托鉢によって)自分の得たものを軽んじてはならない。
他人の得たものを羨むな。
他人を羨む修行僧は、心の統一安定を得ることができない。
■逐語訳
- 自分の得たものを軽んじてはならない:自分の努力や運命によって得られた成果を価値ないものとして見下してはならない。
- 他人の得たものを羨むな:他人の成果や持ち物、待遇を見て嫉妬しないように。
- 修行僧:ここでは、精神修養に励むすべての人を象徴する存在としても読むことができる。
- 心の統一安定(サマーディ):煩悩や迷いから解放された、深い集中と平静な精神状態。
■用語解説
- 托鉢(たくはつ):修行僧が人々の布施(施し)を受けて生活する行為。自力と他力を兼ね備えた謙虚な実践行。
- 羨む(うらやむ):他者の持つものに嫉妬し、自分にはないと感じて劣等感や怒りを抱く心。
- 心の統一安定(禅定・サマーディ):仏教における深い瞑想状態。雑念のない、澄んだ心の状態。
■全体の現代語訳(まとめ)
托鉢で得た食物や施しは、自分の修行の結果であり、尊いものである。それを少ないからといって軽んじたり、他人が多く得たからといって羨んではならない。
そのような比較と嫉妬の心を持つ者には、精神の安定と集中(サマーディ)は訪れない。
満ち足りた心だけが、安らぎをもたらすのだ。
■解釈と現代的意義
この句は、**「比較によって不幸になる心の仕組み」を見抜いた真理です。
私たちは日常的に、他人の収入・評価・生活と自分を比べ、自分の価値を過小評価してしまいます。
しかしそれは、心の分裂と不安定を生む最大の原因です。
仏教は、「今ここにあるものに感謝し、他と比べない心」**こそが、真の集中力と安らぎを生むと説きます。
まさに、現代社会においても最も重要なメッセージの一つです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・適用 |
---|---|
人事評価と満足度 | 同僚の昇進や評価を羨むのではなく、自分の歩みを見つめ直すことが、持続的成長の鍵。 |
リーダーシップ | 他人の成果に焦るより、自分のチームや役割に集中する方が、安定した成果を生む。 |
マーケティング | 他社を羨んで模倣するのではなく、自社の独自の価値に焦点を当てることが、ブランド力を育む。 |
組織文化 | 成果を比較し合う文化ではなく、互いの価値を認め合い、足るを知る文化が、心理的安全性と創造性を高める。 |
■心得まとめ
「他と比べるな。今の自分を尊べ。そこに心の安定がある」
嫉妬とは、自らが自らの価値を否定する行為である。
自分が得たものの中にこそ、自分の人生の意味と歩みがある。
ビジネスにおいても、人間関係においても、「比べる心」ではなく「整える心」が、静かでぶれない強さを育てていく。
足るを知る者こそ、真のリーダーである。
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