「してはならぬこと」を知る者だけが、本当に為すべきことを為せる
孟子は、道徳的な判断の出発点として「してはならないことを自覚する」ことの大切さを説いた。
人として「これはしてはならない」という禁忌(きんき)や節度を知っている者だけが、
本当に為すべき「大きなこと」「価値ある行動」を成し遂げることができる。
つまり、正しい行動の前には、正しい自制がある。
人間の力や能力とは、無制限な自由を発揮することではなく、何を控えるか、どこで立ち止まるか、どこでノーと言うかという「判断と節度」によって初めて価値を持つ。
「為さざる」ことこそが、「為す」ことの前提条件となるのだ。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)為(な)さざる有(あ)り、而(しこう)して後(のち)以(もっ)て為(な)す有(あ)るべし。
注釈
- 為さざる有り(なさざるあり):してはならないことがある。道義・倫理に反することは、たとえ可能でも選ばない。
- 為す有るべし(なすあるべし):「してはならぬこと」を心得た上でこそ、本当に価値ある行動ができるという意味。
- 関連語句:
- 『孟子』尽心(上)第十七章:「其の為さざる所を為すこと無く、其の欲せざる所を欲すること無し」
⇒「本当に価値ある人は、してはならぬことは決してせず、欲してはならぬことは欲しない」とある。
- 『孟子』尽心(上)第十七章:「其の為さざる所を為すこと無く、其の欲せざる所を欲すること無し」
心得の要点
- 行動の力は、まず自制と判断から始まる。
- 「何ができるか」ではなく、「何をしないか」が人格を形づくる。
- 禁ずべきことを知る者にこそ、真の自由と創造が託される。
- 欲望や衝動に流されずに選び抜いた行動こそが、誠の「為す」行為。
パーマリンク案(スラッグ)
- know-what-not-to-do(してはならぬことを知れ)
- discipline-before-action(行動の前に自制あり)
- true-power-is-restraint(本当の力は、抑制にある)
この章は、「行動する前に、何をすべきでないかを見極めよ」という教訓であり、
現代においてもリーダーシップ・倫理・教育の根幹となる重要な教えです。
原文:
孟子曰:
人不爲也、而後可以爲。
書き下し文:
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)為(な)さざる有(あ)り、而(しこう)して後(のち)に以(もっ)て為(な)す有るべし。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「人為さざる有り」
→ 人はあえて“しない”という選択をすることがある。 - 「而る後以て為す有るべし」
→ そうして初めて、“本当にすべきこと”を行うことができるようになるのだ。
用語解説:
- 不為(ふい):あえて“しない”。無為や怠惰ではなく、「行わないという自覚的な選択」を意味する。
- 可以為(もってなすべし):本当に意味のあること、価値ある行動が可能になる。
- 而後(じご)に/而る後に:その後に、そしてようやく。
全体の現代語訳(まとめ):
孟子はこう言った:
「人は“あえてやらないこと”を知ってこそ、本当に“やるべきこと”を実行できるようになる。」
解釈と現代的意義:
この章句は、一見シンプルですが、孟子の意志的な“選択”の重要性を説いた深い名言です。
孟子がここで語るのは、「あれもこれも手を出すのではなく、行動を選び取ることで初めて本質的な行動が可能になる」という考え方です。
つまり、“すべきでないことを見極めること”が、“すべきことを成す”ための第一歩である、ということです。
これは儒教における「節制」「知止(ちし)」という思想にも通じる、選択と集中の哲学です。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「“やらないこと”を決めるのが、本当のプロフェッショナリズム」
多くの仕事を抱える中で、何でもかんでも引き受けていては本当に価値あることは成し遂げられない。
“やらない”という判断力が、時間と成果を生む鍵である。 - 「戦略とは“やること”ではなく“やらないこと”を選ぶこと」
成功する企業や事業は、無数のチャンスから“やらない”ものを決めている。この取捨選択こそが“戦略的思考”である。 - 「習慣的な惰性の仕事をやめることで、本質的な改善が始まる」
「前例だから」「習慣だから」といった理由で続けている業務を見直し、“やめる”勇気を持てば、真に意味ある仕事へリソースを集中できる。
ビジネス用心得タイトル:
「“しない”を選ぶ勇気が、“する”を強くする──選択が生む集中と成果」
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