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「王様のアイディア」に潜む危険性

建設機械メーカーの社長から、新商品の相談を受けた。その商品とは、意外にも「新型のブランコ」だった。社長はその独自性を熱弁し、発売前から成功を確信している様子だった。しかし、肝心の販売戦略について尋ねたところ、「問屋に流すだけ」との回答。問屋が受け入れる保証もなく、具体的な販路の検討さえしていない状況に、私は「やめたほうがいい」と一言告げるしかなかった。

また、別の中堅企業M社から持ち込まれた商品は「回転式植木鉢台」だった。試作品をショールームに並べ、原価計算や利益見込みを細かく提示するなど準備万端のように見えたが、実態は異なった。売り上げの根拠が曖昧で、市場ニーズや競争環境の分析が欠けていたのだ。こういった新商品に共通する特徴は、いずれも「王様のアイディア」、つまり消費者の生活体験から思いついた程度の発想にすぎないという点だ。

「王様のアイディア」の問題点

「王様のアイディア」とは、消費者の目線で考えられた家庭用品や日用品雑貨が中心だ。この種の商品は、新しい機能を加えた程度で革新性に乏しいことが多い。たとえば、東京駅八重洲地下街の「王様のアイディアコーナー」に並ぶ商品は、どれも家庭用品に小さな改良を施しただけで、真に斬新な要素は見当たらない。

こうした商品が抱えるリスクは以下の通りだ。

  1. 低収益性
     家庭用品や日用品雑貨の市場は、資本・技術・設備の参入障壁が低いため、競争が激しい。特許侵害を厭わない業者が跋扈するため、特許による保護もほとんど意味を持たない。訴訟で勝利しても、決着までに時間がかかり、その間に「喰い逃げ」業者が市場を荒らすことも珍しくない。
  2. 競争過多
     仮に新商品が成功しても、その成功は一時的だ。市場に注目が集まれば、多くの業者が参入し、価格競争が激化する。結果的に、低収益な泥沼に引きずり込まれるリスクが高い。
  3. 事業領域外の進出リスク
     家庭用品や日用品雑貨は、これを主力とする企業にとっては商品構成の一部として有益だが、それ以外の企業にとっては、全く異なる事業領域への進出を意味する。この新規参入のハードルを軽視すると、失敗に直結する。

成功例とその条件

もちろん、「王様のアイディア」に基づく商品が成功する例もある。その典型が、味の素の「ふりかけビンの穴を大きくした改良」だ。この成功には以下の二つの要因がある。

  1. 既存の商品領域に基づいた改良
     味の素のふりかけビンは、すでに消費者の生活に根付いた商品だった。その改良は、消費者にとっての利便性を向上させるもので、商品価値を高める結果をもたらした。
  2. 自社の得意分野に基づいた改善
     この改良は、味の素という企業の事業領域において成り立つものであり、外部企業が真似をしても成功しなかった可能性が高い。

この事例が示すのは、成功には「既存事業との親和性」と「市場環境の理解」が不可欠だということだ。無関係な業界への進出や漠然としたアイディアだけでは、成功を収めることは難しい。

新商品の責任者は社長自身

最後に指摘したいのは、会社の将来を左右する新事業や新商品の開発責任は、社長自身が担うべきだという点だ。従業員や外部の意見を参考にすることは重要だが、最終的な判断と責任を負うのは経営トップであるべきだ。社長が他者任せにしている限り、事業が成功する可能性は限りなく低い。

新商品を企画する際には、市場規模、競争環境、自社のリソースを徹底的に分析し、確固たる戦略を立てる必要がある。単なる思いつきや消費者の発想に頼るだけでは、企業としての成長も収益も期待できない。「王様のアイディア」に惑わされることなく、冷静な判断を下すことこそが、成功への第一歩となるのだ。

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