「ネズミのためにご飯粒を少し残す」「ガ(蛾)が飛び込んでこないように灯をともさない」
――昔の人は、そんなささやかな行いに、命あるものすべてを思いやる心を込めていた。
こうしたほんの一点の優しさは、私たち人間が他の命とともに生きるうえで最も大切な心根である。
このような思いやりの心を失ってしまえば、人はもはや「命ある存在」とは言えず、ただの木や土でできた形だけの人形と同じ、ぬけがらになってしまうのではないか。
宋代の文人・蘇東坡の詩にも見られるように、真の人間性は壮大な行為ではなく、
日常の中にさりげなく宿る「一滴の優しさ」の中にこそ輝いている。
思いやりなくして、人は人たりえない――この条はその本質を私たちにそっと教えてくれる。
原文(ふりがな付き)
「鼠(ねずみ)の為(ため)に常(つね)に飯(めし)を留(とど)め、
蛾(が)を見(み)て燈(とう)を点(とも)さず。
古人(こじん)の此(こ)等(ら)の念頭(ねんとう)は、
是(これ)れ吾人(ごじん)の一點(いってん)生生(せいせい)の機(き)なり。
此(こ)れ無(な)ければ、便(すなわ)ち所謂(いわゆる)土木(どぼく)の形骸(けいがい)のみ。」
注釈
- 飯を留める:ネズミのために少し食事を残すという思いやりの行為。
- 燈を点ぜず:蛾が火に飛び込んで命を落とさないよう、あえて灯りをともさない。
- 生生の機(せいせいのき):生命が生き生きと湧き出る根源的な心のはたらき。
- 形骸(けいがい):からだだけあって魂のない、命のぬけがら。外見のみで中身のない存在。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(思いやりこそが人の証)small-acts-deep-heart
(小さな行為に宿る大きな心)without-kindness-just-a-shell
(思いやりがなければ、ただのぬけがら)
この条は、日常のささいな場面にこそ、人間らしさの真価が問われることを優しく語りかけてきます。
「一粒の飯、一つの灯」――そこに世界とつながる心があるのです。
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