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一念のやさしさが、未来の世を清らかにする

たとえ小さなものであっても――
私たち一人ひとりの、ほんのひとかけらの誠実さや思いやり(慈祥)は、この世の中になごやかな空気をゆっくりと醸し出していく。

そして、心の奥底にあるたった一寸(いっすん)の潔白な思いは、
百代(ひゃくだい)――つまり、未来の遥か遠くの時代にまでも、清らかでかぐわしい香りとして、確かに伝え残されていく。

これは、自分一人の心がけで世界を変えるなどというおごりではない。
むしろ、一人の静かな善意が、時代と時代をつなぎ、人々の心に風のように届いていく――そう信じる希望の思想である。

新渡戸稲造も『武士道』の最後において、まさにこの条を思わせる表現で、日本人の精神が「香り」として未来へ届くことを願っている。
姿が見えなくなっても、香りは残る。言葉が消えても、徳は伝わる。


原文(ふりがな付き)

「一念(いちねん)の慈祥(じしょう)、以(もっ)て両閒(りょうかん)の和気(わき)を醞醸(うんじょう)すべく、
寸心(すんしん)の潔白(けっぱく)、以て百代(ひゃくだい)の清芬(せいふん)を昭垂(しょうすい)すべし。」


注釈

  • 慈祥(じしょう):誠実でやさしい思いやりの心。愛と徳に満ちた気持ち。
  • 醞醸(うんじょう):自然に醸し出すこと。時間をかけて育まれる雰囲気や影響。
  • 寸心(すんしん):ほんのわずかの心、微細な内面の気持ち。
  • 清芬(せいふん):清らかでかぐわしい香り。徳や善意の象徴的比喩。
  • 昭垂(しょうすい):明らかに伝え残すこと。後世に影響を及ぼすこと。

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  • a-kind-heart-lasts-forever(優しき心は永く残る)
  • quiet-virtue-shapes-the-future(静かな徳が未来をつくる)
  • fragrance-of-goodness(善意の香り)

この条は、今この瞬間の心のあり方が、遥か未来の世界を育てていくという、壮大で美しい思想を伝えています。
「見返りではなく、香りを残す」――そのような生き方をそっと後押ししてくれる、優しく力強いメッセージです。

1. 原文

一念慈祥、可以醞釀兩閒和氣。
寸心皎白、可以昭垂百代清芬。


2. 書き下し文

一念の慈祥(じじょう)は、以(もっ)て両閒(りょうかん)の和気(わき)を醞醸(うんじょう)すべし。
寸心の皎白(こうはく)は、以て百代(ひゃくだい)の清芬(せいふん)を昭垂(しょうすい)すべし。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 「一つの思いやりある心が、両者の間に調和の雰囲気を育むことができる」
     → たった一度の優しい思いが、人と人との間に温かな空気を生み出す。
  • 「たった一つの清らかで潔白な心が、百代にわたる清らかな名声を残すことができる」
     → 小さな誠実が、永く続く尊敬と称賛の源となる。

4. 用語解説

  • 慈祥(じじょう):慈しみ深く、温かく優しい心。思いやり。
  • 両閒(りょうかん):人と人の間柄、つまり対人関係・場の空気。
  • 醞釀(うんじょう):ゆっくりと醸し出す。育てる、作り出す。
  • 寸心(すんしん):小さな心。比喩的に、一人ひとりの内心・真心。
  • 皎白(こうはく):真っ白に澄みきった心。清らかさ、潔さ。
  • 昭垂(しょうすい):明らかに示し、後世に垂れる。名を残すこと。
  • 清芬(せいふん):清らかな香り。ここでは「高潔な名声」の比喩。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

たった一度の優しさや思いやりの心は、人と人の間に和やかな空気を育てる。
また、一人の誠実で清らかな心は、時を超えて末永く尊敬される名誉を残す。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「わずかな徳の大きな影響力」**を説いています。

  • 一つの善意、一つの誠実さが、空気を変え、時代を超えて人の記憶に残る。
  • 小さな心の持ち方が、周囲を変え、未来にも影響するという、**“徳の波及”**の力を伝えている。

言い換えれば、「人は行動のスケールではなく、“心の質”によって評価される」という教えでもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「小さな優しさが、チームの空気をつくる」

  • 些細な思いやり──たとえば一言のねぎらいや丁寧な対応が、職場に安心感と信頼をもたらす。
  • ハラスメント防止や心理的安全性の礎もまた、「一念の慈祥」から始まる。

●「一人の誠実が、企業文化をつくる」

  • 小さな誠実な行動(ごまかさない、他責にしない、約束を守る)が、企業全体の信用を築く。
  • リーダーや創業者の“寸心の皎白”が、その会社のブランドと信頼を百代に残すこともある。

●「善意と誠実の“連鎖”が、持続可能な組織をつくる」

  • CSR、SDGs、DEIなどの基盤となる価値観は、制度でなく“人の内面”から始まる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「一つの善意が空気を変え、一つの誠が未来を築く」


この章句は、「小さな徳を侮るな」という静かなる警鐘でもあります。

何気ない一瞬の思いやりが、周囲を変える力となる。
誰にも気づかれない誠実さが、未来の評価をつくる。

だからこそ、日々の“心のあり方”こそが、最も大切な自己投資であり、組織の基盤なのです。

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