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販売戦略の柔軟性を阻む「キメコマ病」の実態

文房具大手のP社は、販売網の細分化を追求し過ぎた結果、いわゆる「キメコマ病」に陥っています。同社は販売促進の要は細やかな流通網にあると信じ込み、東京都内だけで80社もの問屋と特約店契約を結びました。しかし、この方針は、問屋の特性や実態を十分に理解しないままに行われたものです。

この問題は問屋側にも見られます。彼らもまた「自社の商圏内のすべての小売店に商品を供給することが販売促進だ」という誤った固定観念に縛られています。このような偏った認識は、効率的な流通と効果的な販売戦略を大きく阻害しています。

P社が直面する問題

P社の特約店80社は、都内約2,000店の文房具店すべてに商品を供給しようと競争しています。この状況から、以下のような深刻な問題が生じています:

  1. 価格競争の激化
    同一商品を扱う特約店同士が競い合い、価格の引き下げ競争が起こる結果、利益率が低下します。
  2. 市場の混乱
    同じ小売店に複数の特約店が商品を供給することで、供給過剰や在庫の無駄が生じ、流通全体が混乱します。
  3. 特約店の不満
    特約店同士が競争相手となることで販売活動が難しくなり、特約店のモチベーションが低下します。
  4. ブランド価値の低下
    無秩序な流通により、P社の商品が「どこでも安価で買える商品」として認識され、ブランドイメージが損なわれます。

「キメコマ病」が生む流通の非効率性

P社の商品需要は限られており、問屋の数を増やしても市場全体の需要量は変わりません。その結果、80社に需要を分配すれば、各問屋の売上はごく僅かなものになります。この状況では、「1%の原理」が働きます。すなわち、P社の商品が各問屋の総売上に占める割合が小さすぎて、魅力的な商品と見なされなくなり、販売へのモチベーションが低下するのです。

さらにP社は、80社を「P会」という特約店会に組織化しました。形式的には忠誠心を強化する目的がありますが、実際にはこの体制が流通業者のスクラップ・アンド・ビルド(非効率な問屋の整理と有力問屋の選定)を妨げ、販売戦略を硬直化させています。一度会員にした問屋を除名するのは現実的に困難であり、組織内の摩擦や反対意見が流通改革をさらに複雑にしています。

特約店会の限界と現実

「P会」のような特約店会は、形式的な年次総会やイベントを通じて「信頼関係」を確認し合うものの、実態としては意味を持ちません。特約店同士が競争相手である以上、本音での情報共有や協力は難しく、会議は当たり障りのない内容で終わるのが常です。その結果、最終的には「懇親会」が主要な目的となり、販売促進の具体策が生まれることはほとんどありません。

多くの企業は、こうした特約店会が実効性を欠いている現実を理解しないまま、「流通業者を自社に結びつけたい」という発想で同様の組織を作り出そうとします。しかし、このような形式的な取り組みは、現実に即した販売戦略とはほど遠いものです。

真の販売促進とは

流通業者を自社に引きつけるために必要なのは、「○○会」のような形式ではなく、メーカー自身が積極的な販売努力を重ね、その結果として流通業者の売上を増加させることです。実質的な成果が、流通業者との強固な関係を築く唯一の方法です。

P社が抱える問題から学べるのは、問屋の数が多すぎることが販売戦略に与える悪影響です。では、どの程度の問屋数が適切なのか。この点については慎重な検討が求められます。効率的な流通網を構築するためには、過剰な分散を避け、有力な問屋に重点的に依存することが重要です。

次回は、適切な問屋数の見極め方とその選定基準について、実例を交えながら詳しく解説します。

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