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欲望より、自分に克つことを楽しめ

世の中の多くの人は、欲望を満たすことを楽しみとし、それが人生の喜びであると考える。しかし、欲望はしばしば思うように満たされず、満たされたとしてもさらに新たな欲望を生み、結果として苦しみを引き寄せる。

これに対して、道に達した立派な人は、「心に逆らうこと」――すなわち、自分の欲に打ち克つこと――をこそ楽しみとする。なぜなら、そこには精神の向上があり、真の充足があるからだ。たとえ苦しみを伴うことであっても、それを超えたときに得られる喜びは、欲望を満たすだけの快楽よりも遥かに深く、豊かである。

自分に克つことを喜びとする者こそ、人生を最も豊かに楽しむ者といえるだろう。


原文と読み下し

世人(せじん)は心(こころ)の肯(うべな)う処(ところ)を以(もっ)て楽(たの)しみと為(な)し、却(かえ)って楽心(らくしん)に引(ひ)かれて苦処(くしょ)に在(あ)り。
士(し)は心(こころ)の拂(そむ)く処(ところ)を以(もっ)て楽(たの)しみと為(な)し、終(つい)に苦心(くしん)の為(ため)に楽(たの)しみを換(か)え得(う)る来(きた)り。


注釈

  • 心の肯う(うべなう):心の欲するままにすること。欲望に従うこと。
  • 心の払る(そむく):自分の欲望に背くこと。自己克服を意味する。
  • 士(し):ここでは「達士」、すなわち道理に達した立派な人物。
  • 楽心に引かれて苦処に在り:快楽を追い求めた結果、かえって苦しみに陥ること。
  • 苦心の為に楽を換え得来たる:努力や自己克服によって、やがて真の喜びを得ること。
目次

1. 原文

世人以心肯處爲樂、却被樂心引在苦處。
士以心拂處爲樂、爲苦心換得樂來。


2. 書き下し文

世人は、心の肯(うべな)う処を以て楽と為し、却って楽心に引かれて苦処に在り。
士(し)は、心の拂(さから)う処を以て楽と為し、苦心の為に楽を換え得来(きた)る。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

一文目:

世人は、心の肯う処を以て楽と為し
→ 世間一般の人は、自分の心が「したい」「心地よい」と感じることを「楽しいこと」だと考えるが、
却被樂心引在苦處
→ かえって、その「楽しみたい心」に引きずられて、かえって苦しみの中に陥ってしまう。

二文目:

士以心拂處爲樂
→ 一方で、志ある人物(立派な人・達人)は、自分の心に逆らうような不快なことをむしろ「楽しみ」と考え、
爲苦心換得樂來
→ 苦しみを受け入れて努力することによって、最終的に本当の楽しみ・安らぎを得ることができるのだ。


4. 用語解説

  • 世人(せじん):一般の世間の人々。欲に流されやすい凡人。
  • 心の肯う処:心が「そうしたい」と自然に思う場所や状況、欲求に沿ったこと。
  • 楽心(らくしん):楽をしたい、快楽を求める気持ち。
  • 苦処(くしょ):結果として苦しみのある状況や環境。
  • 士(し):ここでは学識・道徳に優れた「君子」「達人」「高士」などを指す。
  • 心の拂(さから)う処:自分の心が自然には受け入れ難いこと。苦労や節制、努力など。
  • 苦心(くしん):心身を苦しめる努力、意志による自己抑制。
  • 樂來(らくらい):最終的に得られる本物の楽しみ・安寧・満足。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

世間の人々は、自分が心地よく感じることを「楽しみ」だと思いがちだが、実はその「楽を求める心」に引きずられて、かえって苦しい状況に陥ることが多い。

一方で、志を持った立派な人は、自分の心が嫌がるような努力や困難をむしろ楽しみと見なし、そうした苦しみを乗り越えることで、最終的に本当の安らぎや満足を手にするのである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「表面的な快楽は真の幸福ではない」**という逆説的な真理を説いています。

人は欲望のままに行動すると、一時的な楽しさは得られるかもしれませんが、長期的には苦しみや後悔につながることが多い。一方で、自己を律し、面倒や苦労に耐えることが、結果として本当の満足・自由につながるというのが、本章の教えです。

これは、古代中国の修養思想(特に儒家・道家の融合)に通じる「内面的な徳と調和の追求」に基づいたものであり、現代においても非常に普遍的な価値を持っています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「楽を求める選択は、長期的な苦しみを招くことがある」

短期的に楽な選択(楽な案件・やりたいことだけを優先する働き方)は、スキルの蓄積や信頼の構築を妨げ、結果的にキャリアの停滞や評価の低下につながる。

●「困難に向き合い、成長に変える姿勢が本当の“楽しさ”を生む」

難しい仕事、苦手な業務への挑戦は一時的に心が抵抗を示すが、取り組んだ先にしか得られない「成果・成長・自己効力感」がある。真に充実したキャリアや評価は、こうした苦心の中から生まれる。

●「“目先の快”ではなく“後の楽”を見据える判断力がリーダーを育てる」

組織を率いる者は、部下やプロジェクトにおいても「今楽しいか」より「後に活きるか」を判断基準とし、時に厳しい道を選べる胆力が求められる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「“楽”を求めて苦に沈むな、“苦”に向かい本当の楽を得よ」


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