幸福とは、こちらから積極的に追いかけて手に入れるものではない。
むしろ、日頃から「喜びの心」を大切に育て、明るく朗らかな気持ちを保つことによって、
自然と福が向こうから訪れてくるようになる。
同様に、不幸というものも、自力で完全に避けることはできない。
だが、心に怒りや敵意といった「殺気」を抱えないように努めれば、
災いは自ずと近づかなくなっていく。
福を「取りに行く」のではなく、「来てもいいように整える」。
禍を「拒む」のではなく、「寄せつけぬ心を保つ」。
それが、自然な流れに沿った幸福との付き合い方である。
原文とふりがな付き引用
福(ふく)は徼(もと)むべからず。喜神(きしん)を養(やしな)いて、以(もっ)て福(ふく)を召(まね)くの本(もと)と為(な)さんのみ。
禍(わざわい)は避(さ)くべからず。殺機(さっき)を去(さ)りて、以(もっ)て禍(わざわい)に遠(とお)ざかるの方(ほう)と為(な)さんのみ。
注釈(簡潔に)
- 徼(もと)む:求める、取りに行こうとすること。
- 喜神(きしん):喜びの心。明るく前向きな精神状態。
- 召福(しょうふく):福を招き入れる。幸福を引き寄せる。
- 殺機(さっき):害意や攻撃性、敵意を帯びた心の状態。
- 禍に遠ざかる方:不幸に近づかずに済むための心の姿勢。
1. 原文
福不可徼。養喜神、以爲召福之本而已。禍不可避。去殺機、以爲遠禍之方而已。
2. 書き下し文
福(ふく)は徼(もと)むべからず。喜神(きしん)を養いて、以て福を召(まね)くの本(もと)と為(な)さんのみ。
禍(わざわい)は避(さ)くべからず。殺機(さっき)を去りて、以て禍いに遠ざかるの方(ほう)と為さんのみ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 福不可徼。養喜神、以爲召福之本而已。
→ 幸福は追い求めても手に入るものではない。ただ、心に喜びの気を養うことで、それが幸福を招く本となるにすぎない。 - 禍不可避。去殺機、以爲遠禍之方而已。
→ 災いは完全に避けることはできない。ただ、怒りや攻撃性など“殺気”を取り除くことで、災いを遠ざける手立てとするにすぎない。
4. 用語解説
- 徼(もとむ):探し求める、追いかける。ここでは「意図的に幸福を得ようとすること」。
- 喜神(きしん):喜びに満ちた心、温和で朗らかな精神状態。
- 召福(しょうふく):幸福を招き寄せること。
- 禍(わざわい):災難、不幸。
- 殺機(さっき):怒り、嫉妬、敵意、猜疑心など、破壊的な精神状態。
- 遠禍之方(えんかのほう):災いを遠ざけるための方策・方法。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
幸せというものは、追いかけても手に入るものではない。
ただ、心の中に喜びの精神を育てていれば、それが自然と福を招く根本となる。
また、災いは完全に避けることはできないが、怒りや破壊的な気配を取り除くことで、それを遠ざける手立てとなる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「幸せも災いも“直接的な操作”では得られない」という、人生の真理を静かに教えてくれます。
- 幸福は追うものではなく、喜びある心から自然と来るもの。
- 災いはコントロールできないが、心の在り方で遠ざけることはできる。
この考え方は、因果や自然な流れを重んじる東洋的価値観の真髄ともいえます。
心の整え方が、運命との付き合い方そのものであるという洞察です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 成果(福)は執着ではなく“気の良さ”から生まれる
売上や評価を執拗に追い求めると、かえって空回りする。
組織に“喜神”があれば、自然と成果はついてくる。
▪ トラブル回避は「リスクゼロ」ではなく「雰囲気の除災」
人間関係の摩擦、プロジェクトの失敗──その根にあるのは“殺機”=緊張・怒り・攻撃性。
空気を和らげることこそ、災いを遠ざける鍵。
▪ 社内文化としての“喜神を養う”環境整備
感謝・余白・温かさを重視する文化は、自然と幸福や成果を引き寄せる。
焦燥感・圧力・恐れの文化は、逆に“禍”を呼び込む温床になる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「福は追わず、心に喜を。禍は避けず、気を清らかに──“運”も“縁”も心が呼ぶ」
この章句は、現代の多忙で成果主義的な社会において、“どうすれば得られるか”ではなく“どうあるべきか”を問う、深い心の哲学です。
無理に操ろうとせず、静かに整えること。それが、最も賢明な「人生のマネジメント法」と言えるでしょう。
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