孔子は、人と一緒に歌うとき、相手の歌が上手だと感じたら、すぐに自分の声を止めて、その人に最初からもう一度歌ってもらった。
そして改めて、その歌に心から調和するように一緒に歌ったという。
これは、よいものを見たときに素直に認め、さらにその喜びを深めようとする心のあり方を示している。
「私が」「自分も」という自己主張よりも、“善”を尊び、そこに自らを合わせようとする姿勢は、孔子の人格そのものだといえる。
この態度は、音楽に限らず、優れた人・言葉・行動に出会ったときの謙虚さと感動を大切にする心として、現代にも通じる美徳である。
原文・ふりがな付き引用
子(し)、人(ひと)と歌(うた)いて善(よ)しとすれば、必(かなら)ず之(これ)を反(かえ)せしめ、而(しか)る後(のち)、之(これ)に和(わ)す。
注釈
- 人と歌いて善しとす … 相手の歌声や表現がすばらしいと感じたとき。
- 反せしむ … 最初からもう一度歌ってもらうこと。繰り返させる。
- 和す … 一緒に歌に加わること。調和して参加する意。
- この表現は、物事に対して素直な感動と尊敬の心を持ち、それを共有する喜びを示している。
1. 原文
子與人歌而善、必使反之、而後和之。
2. 書き下し文
子(し)、人と歌(うた)いて善(よ)しとすれば、必(かなら)ず之(これ)を反(かえ)さしめ、而(しか)る後(のち)、之に和(わ)す。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「子、人と歌いて善しとすれば」
→ 孔子が誰かと一緒に歌って、その人の歌がよいと思えば、 - 「必ず之を反さしめ」
→ 必ずもう一度その人に繰り返し歌わせて、 - 「而る後、之に和す」
→ それから一緒にその歌に合わせて歌った。
4. 用語解説
- 歌(うた)う:ここでは『詩経』などの儒教の教材を歌う儀礼的行為を指す。
- 善し(よし)とす:良い、すばらしいと認めること。
- 反す(かえす):繰り返す、復唱すること。ここでは相手にもう一度歌わせる意味。
- 和す(わす):調和して一緒に歌う、または賛同の意を込めて共にすること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は誰かと一緒に歌を歌って、その歌がすばらしいと思えば、
必ずその人にもう一度繰り返して歌わせたうえで、
その後、自分も一緒に合わせて歌った。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子の「共に歌う=共感と認識の共有」を重視した態度を示しています。
- 単なる感動では終わらせず、相手の表現を尊重して再度表現させることで、
理解の深さと誠実な共感のプロセスを踏んでいる。 - 孔子は歌(=詩)を通して感情や徳を教えていた。
その中で、良いものに対しては即座に調子を合わせず、まず相手の意思や心をもう一度受け止める態度を取っている。 - これは単なる美的反応ではなく、教育者としての深い配慮と、他者への敬意に満ちた行動といえる。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「相手の“良さ”を一度繰り返させ、深く認める」
──優れた提案や成果を見たらすぐに評価するのではなく、もう一度本人に確認・再提示させてから承認することで、尊重と納得を深める。
■「共感の前に、確認と尊重を」
──チームの声や意見にすぐ賛成するのではなく、“それをもう一度言ってみて”という姿勢が、対話の深さを生む。
■「賞賛にもプロセスが必要」
──優れた行為に対する称賛は、“ただ褒める”のではなく、“反復・共鳴・共有”のプロセスを経てこそ、本当の価値となる。
■「共に歌うとは、共に認め、共に築くこと」
──リーダーが何かに賛同するとき、それは単なる同意ではなく、相手の価値を再確認した上での共創の始まりである。
8. ビジネス用心得タイトル
「共感は、反復から始まる──“良さ”を確かめてから共に築け」
この章句は、共感的リーダーシップ、部下へのフィードバック、対話文化の醸成などに非常に応用が効きます。
「すぐに和するのではなく、まずは相手の真意を丁寧に確認する」──現代にこそ求められる知恵です。
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