金利の重要性と経営への影響
金利の負担は事業運営において重大な影響を及ぼす。先日、A社を訪問した際、A社長に公定歩合について尋ねてみたが、全く知らないという返答だった。
そこで、短期借入金である「単名」の利率を確認したところ、明らかに高すぎると感じた。同行していた優秀な会社の社長二人に、A社に見合った適正な利率について意見を求めたところ、彼らの会社の利率に比べてかなり高い水準であることが判明した。その情報を基にA社の金利を再計算してみた結果、年間でなんと実績よりも2,000万円も少ない金利負担になることがわかった。
この金利負担削減額は、売上高の約0.7%に相当した。A社は損益分岐点付近で苦しい経営状況にあったため、この差は決して小さくない。A社長は同行した二人の社長から厳しく指摘を受けていた。ここに、優秀な経営者と怠慢な経営者の違いが如実に表れている。A社長だけでなく、凡庸な社長は金利に無関心である一方、優秀な社長は常に金利を注視し、経営の重要な要素として扱うのだ。
金利の分析には大きく二つの視点がある。一つは「借入金利率」、もう一つは「実質金利」だ。まずは、借入金利率について考えてみることにする。特に、短期借入金に関する金利を優先的に検討する必要がある。短期借入金は資金繰りや事業運営の基盤となるため、その金利の適正さが企業の財務健全性に直結するからだ。
短期借入金の金利は、日本銀行の公定歩合を基準に考えるのが一般的だ。公定歩合とは、日銀が銀行から手形を買い取る際の再割引金利を指す。銀行が取引先企業の手形を割引き、その手形を日銀に持ち込んでさらに割引く――これが再割引であり、この金利が公定歩合として機能する。この公定歩合が金利の指標として用いられ、借入金利率の適正さを測る物差しとなるのだ。
利子率の単位は「ポイント」と呼ばれ、一ポイントは0.25%に相当する。銀行と交渉する際には、この「ポイント」という専門用語を積極的に使うべきだ。専門用語を駆使することで、銀行側は「この人は金融の知識がある」と感じるようになる。こうした印象を与えるだけでも、交渉は格段に有利に進む。知識を持つ者は持たない者に比べ、条件面でより良い結果を引き出す可能性が高まるのだ。
公定歩合の変更は新聞で大々的に報じられるため、見落とす心配はない。一方で、プライムレート(優良企業向けの最優遇金利)は、公定歩合に1ポイントを加えた水準で設定される。このプライムレートは、主に信用力の高い優秀な大企業が対象となる金利だと考えればよい。公定歩合とプライムレートの差異を理解することで、自社の金利条件が市場でどの位置にあるのかを判断しやすくなる。
中小企業であっても、経営が優秀な会社は都市銀行から公定歩合プラス2ポイント程度の金利で借り入れをしているケースが少なくない。一般的に、金利水準は都市銀行が最も低く、その次に地方銀行、相互銀行、信用金庫、信用組合と、規模が小さくなるにつれて高くなる傾向がある。これは、小規模な金融機関ほど、少額の預金や小口の貸付が中心となるため、運営コストが高くなることが要因だ。金利の違いを理解することで、自社に適した金融機関を選ぶ指針が得られる。
銀行では、融資先の信用度合によって貸出金利に差をつけている。それを表にしてみよう。むろん、中小企業についてである。
自社が右表のどのランクに該当するのかを冷静に分析することが重要だ。金利負担が実際の信用度よりも高くなっている場合、その原因は社内外のコミュニケーション不足にあることが多い。特に、金利に無関心な態度や、社長が銀行に定期的に出向き、会社の経営状況や成長見込みを説明していない場合、銀行側の信用評価が低下し、割高な金利を適用される可能性が高まる。
銀行は会社の実績だけでなく、経営陣の意識や取り組みを重要視する。積極的に情報を共有し、適切な金利を引き出す努力をすることで、無駄な金利負担を避けることができる。会社の金利状況が適正かどうか、改めて見直すきっかけとするべきだ。
優れた社長は、自社の借入金条件について自ら銀行と直接交渉し、短期借入金では公定歩合プラス何ポイント、長期借入金では公定歩合プラス何ポイントという具体的な条件を取り決めている。こうした明確な条件設定を行えば、金利の管理は経理担当者の手を煩わせる必要がなくなる。金利交渉や条件の確定は経営の根幹に関わる事項であり、それを担うのが社長の本来の役割だ。
自ら行動し、銀行との信頼関係を築きながら、会社にとって最適な条件を引き出すことこそ、優れた経営者の資質といえる。この姿勢が、経営の安定や競争力強化にも直結するのだ。
業績が安定している時は銀行との交渉もスムーズに進むだろうが、業績が悪化した時に同じようにできるのか、と疑問に思うかもしれない。しかし、S社長はこう言い切る。「業績はその時々の状況に左右されるものだ。良い時も悪い時も変わらず支えてくれるからこそメーンバンクと呼べるのではないか」と。これは単にメーンバンクを持つことの強みを語っているだけではない。自社の経営に対する揺るぎない自信があるからこその言葉だ。
この姿勢こそが理想的な経営者の姿だ。状況の良し悪しに左右されることなく、信頼関係を基盤に銀行と向き合い、自社の価値を訴え続ける。その覚悟と信念が会社の基盤を支え、ひいては困難な状況を乗り越える力となるのだ。このような経営者でありたいと願うものだ。
実質金利の概念と計算方法
もう一つ重要な金利の概念として「実質金利」がある。この内容については「経営計画・資金運用篇」で述べているが、ここで改めて触れておきたい。実質金利とは、名目金利からインフレ率を差し引いたもので、企業が実際に負担する金利の実質的な価値を示すものだ。金利の分析や資金運用を考える上で、この実質金利の概念を正しく理解し活用することは非常に重要である。再び取り上げることで、その意義を強調したい。
実質金利とは、「正味の借金に対する正味の金利」を指す。借入金がある一方で固定預金もある場合、正味の借金は借入金から固定預金を差し引いた額となる。
借入金には利子を支払い、一方で固定預金からは利子を受け取る。しかし、通常、固定預金の利率は借入金の利率より低い。この借入金と固定預金、支払利子と受取利子の関係を考慮し、実際に銀行からどれだけの利率で借りているかを示すのが「実質金利」である。
実質金利の計算式は以下の通りである:
[
\text{実質金利} = \frac{\text{支払利子} + \text{割引料} – \text{受取利子}}{\text{借入金} + \text{割引手形} – \text{固定預金}}
]
この式の意味は次の通り:
- 支払利子:借入金に対して支払う利息。
- 割引料:手形割引による費用。
- 受取利子:固定預金やその他の資金運用から得られる利息収入。
- 借入金:銀行などからの借り入れ総額。
- 割引手形:割引を行った手形の総額。
- 固定預金:借入金と相殺される資金として、引き出し制限のある預金額。
この計算式により、実際に銀行から借りている正味の利率を求めることができる。
この算式に用いる数値の意味は以下の通りだ:
- 分母:試算表に記載された残高を基にする。具体的には、借入金、割引手形、固定預金の残高を反映する。
- 分子:分母に対応する年利額を用いる。支払利子、割引料、受取利子のそれぞれが年利換算されていることが条件だ。これは金利が一般的に年利で計算されるためである。
このように、分子と分母を整合性のあるデータで計算することで、実質金利を正確に求めることができる。
この式が示すのは、試算表の時点という断面における「現在の資金構造がどれだけの実質金利を負担しているか」ということだ。過去の実質金利を振り返るものではなく、あくまで現時点の資金の配置と金利負担を明らかにするためのものである。この視点から、現状の資金運用や借入の効率性を評価できる。
過去の実質金利がいくらであろうと、それを変更することは不可能であり、重要ではない。経営者が注目すべきは、現在の資金構造がどれだけの実質金利を負担しているかという現状だ。過去はすでに終わった事実であり、現在はその積み重ねの結果である。現時点での実質金利を正確に把握し、それに基づいて最適な資金運用や調整を行うことが、社長の最優先事項であるべきだ。
現状の資金構造を維持した場合、どの程度の利率で利息を支払わなければならないのかを把握し、「これをどうすれば軽減できるか」を考えることにこそ意義がある。そのためには、実質金利の仕組みを正しく理解することが不可欠だ。実質金利を知ることで、資金運用や借入条件を見直し、利息負担を軽減する具体的な方策を見出すことができる。経営者として、この視点を持つことが重要である。
実質金利は単なる利率だけでなく、預貸率(預金と貸付のバランス)も関係している。これは、固定預金の利率が貸付金の利率よりも低いためだ。
預貸率の計算式は次の通り:
[
\text{預貸率} = \frac{\text{貸付金}}{\text{預金}}
]
また、この比率の逆数(預金と貸付金の逆比率)を用いて分析することも可能だ。預貸率を把握することで、資金運用の効率性や金利負担の構造をより詳細に理解することができる。
預貸率は本来、銀行側の視点で用いられる指標であり、銀行がどの程度の預金を貸付に回しているかを示すものだ。一方で、企業側から見れば、貸付金は借入金に相当する。しかし、「預借率」という表現は一般的には存在しない。これは、会計用語が多くの場合、銀行や金融機関といった“企業外”の視点に合わせて設計されているからである。こうした背景は、企業人が会計に疎いというわけではなく、むしろ企業と外部機関の共通言語として機能させる必要性があるためだ。
預貸率が高い場合、固定預金など低金利の資金の割合が多くなり、それに対して借入金など高金利の資金の影響が相対的に大きくなるため、実質金利が高くなる。したがって、企業は常に実質金利を注視し、資金運用の効率を把握しておく必要がある。これを銀行別に管理することで、取引先ごとの金利条件を明確にし、最適化を図ることが可能となる。
〈第52表〉に記載されている「実質金利計算表」を活用することで、こうした分析を具体的に行うことができる。実質金利の変動要因を理解し、適切な対策を講じることが重要だ。
この「実質金利計算表」は、専任の作表責任者を決め、毎月作成・提出させることが重要だ。これにより、資金運用状況を定期的に把握し、必要な調整をタイムリーに行える。
もし実質金利が借入金の平均利率を1%以上上回るような状況になれば、すぐに対策を講じるべきだ。その目標は実質金利を平均利率の1%以内に引き下げること。具体的には、固定預金の運用見直しや借入条件の再交渉などを通じて、金利負担の軽減を図る必要がある。このような定期的な監視と対応が、資金コストの最適化と経営効率の向上につながる。
実質金利の管理と改善手法
実質金利を適正化するための具体的な方法は以下の通りだ:
- 借入金の利率を下げてもらう
銀行と交渉して、金利条件を見直してもらう。特に、信頼関係があるメーンバンクを活用することで実現可能性が高まる。 - 借入金を増大する
必要な資金を借入金で調達し、割高な自己資金の活用を抑える。これにより、資金全体の利率構造を改善できる場合がある。 - 固定預金の増大を抑える
利率の低い固定預金の割合を減らし、流動性を確保しつつ高コストの借入金への依存を減らす。
これらの手法を、資金状況や経営の必要性に応じて柔軟に実行することが求められる。
金利分析の重要性を理解することは、経営の健全性とコスト管理にとって不可欠です。金利負担は事業に直接影響し、借入金利の適正管理が経営の安定に大きく寄与します。ここでは、効果的な金利分析とそのための具体的な手法を紹介します。
1. 金利分析の基礎
- 金利の管理は、借入時の金利交渉や市場金利の把握に基づきます。特に公定歩合やプライムレート(優良企業への最優遇金利)を基準として、適正な金利で借入を行うことが重要です。
- 短期借入の場合は、業績が安定していれば都市銀行から低い金利で借りることができます。優秀な社長は定期的に銀行と交渉し、金利交渉を積極的に行い、経理担当者に任せずに自らの会社の実力に応じた金利設定を求めます。
2. 借入金利率と実質金利
- 借入金利率: 借入金利率を抑えるためには、公定歩合を基準に、信頼性に応じた適正な金利を銀行と交渉することが必要です。
- 実質金利: 借入金利率だけでなく、正味の借入金と固定預金のバランスで計算される「実質金利」も重要です。実質金利は「正味の借入金に対する正味の金利」として計算され、正確な金利負担を把握するために必須の指標です。
実質金利の計算式
[
実質金利 = \frac{支払利子 – 受取利子}{借入金 + 割引手形 – 固定預金}
]
- この計算は、借入金と割引手形の合計から固定預金を差し引いた額(正味の借入金)に対する、支払利子と受取利子の差額として計算します。
- 監視ポイント: 実質金利が借入金の平均利率より1%以上高い場合は対策を講じ、金利負担の軽減を目指します。
3. 金利負担軽減のための具体策
実質金利を軽減するための具体策には以下の手法があり、経営状況に応じて適切な方法を選びます。
- 借入金の利率を下げる交渉: 銀行との定期的な交渉を通じて、金利率の引き下げを図ります。
- 借入金の増加: 必要に応じて短期借入を増やし、固定預金への依存を減らします。
- 固定預金の抑制: 低利率である固定預金の増大を抑えることも、実質金利の引き下げにつながります。
4. 定期的な金利監視の仕組み
- 実質金利計算表の作成: 各銀行別に実質金利を記録し、月次でのチェックを行うことで、利子負担を適切に管理します。
- 金利の監視は経営計画の一環として継続的に実施し、金利負担が経営に与える影響を最小限に抑えます。
金利分析を正確に行い、効果的な対策を講じることにより、事業の資金調達コストを削減し、経営の安定を図ることができます。
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