功績を誇り、学問や教養をひけらかすような人は、人間としての価値を“外物”に頼って生きている。
しかしそれは、真に価値ある生き方とは言えない。
本当に大切なのは、自分の心の本体――「心体(しんたい)」が、玉のように澄み輝いていることである。
もしその心の輝きを失わずに持ち続けているのであれば、たとえ一つの功績もなく、文字一つ書けぬほどの学問がなかったとしても、
人として堂々と正しく生きていけるのである。
『老子』が「学を為せば日に益し、道を為せば日に損す」と説くように、
また『論語』においても、子夏が「信あらば学びたりと謂わん」と語るように、
人間の徳や真心こそが、本当の教養であり、評価すべき本質なのだ。
原文(ふりがな付き)
「功業(こうぎょう)に誇(ほこ)り、文章(ぶんしょう)を炫燿(けんよう)するは、
皆(みな)是(こ)れ外物(がいぶつ)に靠(よ)りて人(ひと)と做(な)すなり。
知らず、心体(しんたい)瑩然(えいぜん)として、本来(ほんらい)失(うしな)わざれば、
即(すなわ)ち寸功(すんこう)隻字(せきじ)無(な)きも、
亦(また)自(おの)ずから堂堂正正(どうどうせいせい)、人(ひと)と做(な)すの処(ところ)有(あ)るを。」
注釈
- 功業:功績や実績。社会的成功。
- 文章:学問や教養。知的な知識や表現力。
- 炫燿(けんよう):ひけらかすこと。見せびらかすこと。
- 外物:自分の外側にある名声・能力・肩書きなど。
- 心体瑩然(しんたいえいぜん):心が玉のように光り輝いている状態。純粋で濁りのない精神。
- 寸功隻字(すんこうせきじ)無き:目立った功績も、文字一つ読めないような無学でも。
- 堂堂正正(どうどうせいせい):まっすぐで堂々とした生き方。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(内の価値、外の名声より重し)a-bright-heart-needs-no-title
(輝く心に称号はいらない)dignity-without-deeds
(功なきとも堂々たる人であれ)
この条は、「肩書き」や「学歴」や「賞歴」が人の価値だとされがちな現代において、
静かな反論と本質的な問いかけを与えてくれる言葉です。
人間に必要なのは、外に貼られたラベルではなく、内に宿る光――それだけで立派に生きてよいのだ、と私たちを力強く励ましてくれます。
1. 原文
誇功業、炫文章、皆是靠外物做人。
不知、心體瑩然、本來不失、卽無寸功隻字、亦自有堂堂正正做人處。
2. 書き下し文
功業(こうぎょう)に誇(ほこ)り、文章(ぶんしょう)を炫燿(けんよう)するは、皆これ外物(がいぶつ)に靠(よ)りて人と做(な)すなり。
知らず、心体(しんたい)瑩然(えいぜん)として本来失わざれば、すなわち寸功(すんこう)隻字(せきじ)無きも、また自ら堂堂正正(どうどうせいせい)人となす処あるを。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「功績を誇り、文章(才能)を見せびらかすことは、すべて外的なものに頼って人間としての価値を示そうとする姿である」
→ 成果や表現力によって“立派に見せようとする”ことは、外側の力に頼っているだけにすぎない。 - 「人は知らないが、心がもともと清らかで損なわれていないのであれば、たとえ実績も文章もなくとも、立派で正々堂々とした人間になれるのだ」
→ 本来の心が清らかであれば、何も成し遂げていなくても、堂々とした人として生きていける。
4. 用語解説
- 誇(ほこ)る:自慢する、誇示する。
- 功業(こうぎょう):社会的な成果・業績・功績。
- 文章(ぶんしょう):ここでは「表現力」や「才知」を含む才能全般。
- 炫燿(けんよう):きらびやかに輝かせる。見せびらかすこと。
- 靠(よ)る:頼る、依存する。
- 心体瑩然(しんたいえいぜん):心がもともと澄みきって美しく、曇りのない状態。
- 寸功隻字(すんこうせきじ):「ほんの少しの功績や文字ひとつ」すらない、という意。
- 堂堂正正(どうどうせいせい):偽りなく、誠実で正しい様子。堂々とした生き方。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
功績や表現力を誇っても、それはすべて外側のものでしかなく、本当の価値ではない。
人の心が本来のままに清らかであれば、たとえ目に見える成果がなくても、
人として堂々と、正しく生きるだけの価値があるのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「人の価値は成果ではなく、“心のあり方”にある」**という原理を伝えています。
- 現代社会では、成果主義・実力主義が強調され、何かを“成し遂げたか”で評価されやすい。
- しかし、人間の本質的な価値は、内面の誠実さ・清らかさ・品格にあると説く。
- これは、「自分を飾らずとも堂々と生きていい」「成果がなくとも“人格で生きる”」という深い励ましでもある。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「実績や成果が全てではない──人格の信頼こそ本質」
- 数字や肩書きで評価される時代でも、最終的に人が信頼するのは、“誠実さ”や“清廉さ”。
- 「人として信頼されること」は、目に見える功績よりも重い。
●「他者と比べて焦る必要はない」
- 他人の華やかな成果やスキルに劣等感を抱く必要はない。
- “何をしたか”より、“どうあるか”が長期的信頼を築く。
●「新入社員や若手への重要なメッセージ」
- 実績がまだ無い時期こそ、「誠実さ」「礼儀」「継続力」が武器になる。
- 心のあり方次第で、人は“まだ実績のない段階でも堂々と生きていける”。
8. ビジネス用の心得タイトル
「成果なき者も、堂々と生きよ──人間の価値は“心の光”に宿る」
この章句は、**「成果のない時期にこそ読むべき言葉」**です。
- うまくいかないとき。
- 評価されないとき。
- 結果が出ないとき。
それでも、あなたの“心のあり方”が正しければ、あなたはすでに「堂々正正なる人」なのだ──
この静かな肯定が、現代人の心を支えてくれるはずです。
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