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輸出停止の影響と増分計算の重要性

A社の社長は、長年抱えてきた輸出事業の収益性について「どのように判断すべきか」と相談してきました。その際、損益計算書を再構成して提示したのが〈第44表②〉です。

このデータを基に議論を進めた結果、輸出事業の維持か停止かを判断するためには、「増分計算」が極めて有効であることが再認識されました。

増分計算は、特定の意思決定がもたらす収益や費用の変化を具体的に測定する手法です。これを活用することで、輸出を停止した場合にどの項目がどの程度変化するのか、数値的な根拠を持って判断できるようになります。

目次

国内市場での補填が不可能な現実

まず重要な前提として、A社の国内市場はすでに実質的に100%占有しているため、輸出事業を停止しても国内販売でその損失を補うことは不可能です。

輸出事業をやめる場合、その売上250万円はそのまま消失することを意味します。この点を踏まえ、次に輸出停止が具体的に会社に与える影響を分析します。

売上の消失と付加価値の喪失

輸出を停止した場合、まず250万円の売上が失われます。この売上減少に伴い、外部仕入れ費用として計上されていた75万円も不要になりますが、175万円の付加価値(売上から外部費用を差し引いた額)も同時に失われることになります。

この175万円の減少が会社全体の収益構造にどのような影響を与えるかを慎重に評価する必要があります。

内部費用削減の困難性

次に内部費用の削減可能性を検討しました。しかし、A社が終身雇用制度を採用していることから、輸出縮小に伴う人件費の削減は現実的ではありません。

自然減を待つことも選択肢の一つですが、時間がかかりすぎるため、短期的には内部費用の大幅な削減は期待できないと考えられます。

このため、輸出事業を停止しても内部費用がほとんど維持されるという状況を前提に議論を進める必要があります。

増分付加価値による判断基準

経費削減の限界を踏まえると、輸出停止の是非を判断するためには、「増分付加価値」を基準とした具体的な分析が求められます。

この場合、輸出を停止することで失われる175万円を基準に、内部費用の削減額がこれを上回るかどうかが鍵となります。

具体的には、以下の不等式が成り立つ場合に限り、輸出を停止する方が経済的に合理的です。

内部費用減少額 > 175万円

この条件を満たさない場合、輸出停止は会社全体の収益性を悪化させるリスクが高いことを意味します。

社長の答えと結論

最終的に、この不等式を基に社長に「内部費用をどれだけ削減できるか」を尋ねたところ、社長の答えは明快でした。

「いやあ、とんでもない。20万円も減らないでしょう」という一言で、数年間続いていた迷いが一気に解消されました。

この回答から、内部費用削減が175万円に到底及ばないことが明確となり、輸出事業を継続することが最善であるとの結論に至ったのです。

増分計算の示した重要な教訓

このケースは、増分計算の重要性を示す好例です。輸出停止による影響を定量的に把握することで、感覚的な判断では見落としがちな事実を浮き彫りにしました。

適切なデータ分析と経済的合理性に基づく意思決定が、企業の持続可能性と成長の鍵であることを改めて実感させられる事例です。

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