MENU

売上高の増減で、経常利益はどう違ってくるか

売上高が増えれば利益も増加し、減れば利益も減少する。これは、売上高以外の条件が一定であれば確実に起こる現象だ。この点に異論はないとして、問題はその変化の幅がどれほどになるのかという点だ。

売上高が1割増えれば利益も同じく1割増えるのか、あるいは売上高が1割減れば利益も1割減るのか。このあたりの話になると、正確に理解している人はほとんどいない。

よく目にする図として、たとえば来期の売上予測が1割増加する場合の損益試算で、現在の売上に対する経費率をそのまま使うケースが挙げられる。この方法を取る人は決して少なくない。

これは明らかな誤りだ。理由は単純で、変動費は売上高の増減に応じて比例的に増減するが、固定費は売上高が変動しても同じようには動かないからだ。この違いを理解していれば、正確な計算が可能になる。実際にひとつ例を挙げて計算してみよう。

〈第38表〉は、利益計画を立てる際に私がよく行う試算の一例だ。ここでは、利益計画の目標に対して、売上高が10%増加した場合と10%減少した場合の計算を行っている。付加価値率を40%と仮定しており、これは製造業として平均的な数字だ。この程度の売上増減は十分に起こり得る範囲だが、その結果が果たして想定通りになるのかどうかが重要だ。

売上高が増減すれば、それに比例して付加価値も増減する。一方で、内部費用は基本的に変化せず、営業外収益や営業外費用も同様に大きな変化はない。(厳密に計算すればわずかな増減はあり得るが、それほど影響は大きくない。)

まずは経常利益を比較してみよう。売上高が1割増加した場合、利益は8,000万円から1億2,000万円へと4,000万円の増加となり、その増加率は50%だ。一方、売上高が1割減少した場合、利益は4,000万円にまで減少し、金額では半減、減少率も50%に達する。売上高がたった10%変動するだけで、経常利益にはこれほど大きな影響が出ることがわかる。

売上高が上昇すると、その増加率を大きく上回る割合で経常利益が増加する。逆に、売上高が減少すると、その減少率をはるかに上回る割合で経常利益が落ち込む。このように、経常利益の増減率は売上高の変動以上に大きくなり、その影響の大きさは想像以上だ。

売上高が1割増減する可能性は十分に考えられることを踏まえれば、売上高を確保する重要性がいかに大きいかが明白だ。1割の売上高の増減でこれほど利益が変動するなら、利益を倍増させるにはどの程度の売上高が必要なのか。この疑問を解消するために試算したのが「試③」である。

この計算法では、まず経常利益欄に目標とする倍増利益の1億6,000万円を設定し、そこから上流に向かって逆算していく形を取る。この際、内部費用の増分を見積もるのは、売上高が未確定なため困難だ。そのため、内部費用の増分は一旦無視し、変動しないものと仮定して売上高を算出する。このアプローチはあくまで簡易的な試算の方法だが、大まかな見通しを立てるには有効である。

この計算を進めると、付加価値は4億8,000万円となり、付加価値率を40%とすると必要な売上高は12億円となる。つまり、現状から2億円の売上増加が必要だとわかる。この増分売上に対する内部費用の増加額を見積もるのは比較的容易だ。一般的には、売上高の3%程度が内部費用の増分とされる。場合によっては5%に達することもあるが、それを超えるケースは稀だと考えてよい。

〈第38表〉では、内部費用の増分を売上高の5%と仮定し、増分修正前の利益から1,000万円を差し引いた結果、増分修正後の経常利益が1億5,000万円となっている。この例からわかるように、売上高を3割増加させれば、利益を倍増させることが可能だという結論に至る。

自社の場合はどうなるのか、同様の方法で計算してみることを強くおすすめする。この試算を行うことで、売上高の増減が利益に与える影響を具体的に把握でき、経営計画に役立つだろう。

損益分岐点の計算も極めてシンプルだ。「試④」はその例である。計算法は、経常利益を「ゼロ」と仮定することから始める。この場合、付加価値は内部費用と営業外収支が変動しないと考えられるため、2億2,000万円となる。これを基に、付加価値率40%で逆算すれば、売上高は8億円となる。

実際に試算してみれば、この計算がいかに簡単であるかが分かるだろう。誰にでも理解できる計算式であり、損益分岐点を把握するのに非常に有効な方法だ。

この計算法は、実は損益分岐点の計算式そのものと全く同じだ。以下に蛇足としてその計算式を示そう。

(損益分岐点計算式)
売上高 = 固定費 ÷ (1 – 変動費率)

この式を使って変形していくことで、損益分岐点の本質が理解できる。具体的には、固定費と変動費率を基に、売上高がどの時点で利益ゼロになるかを求めるシンプルな方法だ。試算を進めるうちに、この計算がいかに重要で実用的であるかを実感するだろう。

変形後の計算式における分母の付加価値率は、利益計画の段階ですでに計算済みである。そして、付加価値から経常利益を差し引けば固定費が算出されることは言うまでもない。なぜなら、経常利益も付加価値も、利益計画に基づいて具体的な数値が明示されているからだ。

この仕組みにより、損益分岐点の計算は利益計画と密接に結びついており、計算の手間も省ける。必要な情報がそろっている場合、この手法は非常に効率的かつ正確に損益分岐点を算出することが可能だ。

売上高のわずかな変動で経常利益が大きく変動することは理解できただろうが、その変動の度合いについて疑問を持つ読者もいるかもしれない。そこで、その点を説明しておこう。

これは非常に単純な法則に従って変動する。売上高の増減額に付加価値率を掛けた金額、つまり売上高の増減による付加価値の増減額が、そのまま経常利益の増減となる。固定費が変わらないため、付加価値の増減が経常利益の増減に直結する仕組みだ。

損益分岐点を基準にすると、売上高が損益分岐点を上回った場合、その超過分に付加価値率を掛けた金額が経常利益となる。一方、下回った場合は、その不足分に付加価値率を掛けた金額が赤字として発生する仕組みだ。

この表では、損益分岐点売上高の8億円を超えるたびに、売上高1億円ごとに経常利益が4,000万円(売上高1,000万円ごとに400万円)ずつ増える仕組みになっている。一方で、損益分岐点を下回る場合は、同じ割合で赤字が発生する。

以上は、売上高が変動しても固定費が一定である場合の話だ。もし売上高の増減によって固定費も変動する場合、その影響で経常利益も変化する。ただし、その変動幅は通常ごく僅かであり、売上高の増減の約3%程度に留まるのが一般的で、大きな傾向には影響しない。固定費が大きく変動するのは、増減員や大型設備投資といった特別なケースに限られる。

売上高の変動が経常利益に大きな影響を与えるのは、日本企業特有の特徴だ。これは終身雇用制が大きな要因となっている。石油ショックの際、売上高が減少しても即座にリストラなどの対応ができず、企業内部に多くの余剰人員、すなわち潜在的失業者を抱え込むことになった。その結果、固定費が高止まりし、利益が大幅に減少する事態を招いたのである。

外国では、売上高が減少した場合、それに応じてレイオフ(一時解雇)が実施されるため、固定費が即座に調整される。その結果、売上高が減っても利益の減少は比較的緩やかで、売上高の減少に比例する程度に留まることが多い。

石油ショック後の予算編成において、大蔵省が売上高の減少に比例して法人税収も減ると単純に考えていた節があるように思える。この背景には、日本の会計学者の多くがこうした構造を理解していないことが影響しているのではないか。同様に、経済官僚もこの点を十分に把握していなかった可能性が高い。

会計学者がこの問題を十分理解していないもう一つの証拠として挙げられるのが、日本経済新聞が定期的に発表している企業業績分析の記事に登場する「増益率」という指標だ。この「増益率」とは、「前期純利益が前々期の何倍になったか」を示す分析だが、その背景にある売上高、付加価値、固定費の関係や構造を十分に説明できていないことが多い。これは、経済メディアや会計学者の理解が十分でない一例といえるだろう。

昭和54年1月19日付の記事から例を挙げると、4月期決算における増益率ランキングで2位にランクインしたI工業と、ランキング外のS電工の業績を比較したものがある。以下の表のように、それぞれの売上高や利益の増減率に注目すると、企業ごとの業績構造や増益率の背景が見えてくる。具体的な数値や分析は、この表を基に読み解くことができる。

I工業は、業績が非常に低調であり、経常利益額や経常利益率もわずかに上昇しているに過ぎない。この程度の変化は、むしろ偶発的な要因によるものであり、事業構造の革新や本質的な体質改善が行われたわけではないと判断すべきだ。

それにもかかわらず、I工業の増益率は800%に達している。しかし、「増益率が大きいから、I工業が高収益型の企業に変わった」と考えるのは重大な誤解だ。とはいえ、このような数字を見て、そうした誤った認識を抱く可能性は非常に高いと言える。

一方、S電工はもともと高収益・高業績の企業であるため、売上高がI工業より約30%多いだけでなく、経常利益の絶対額や経常利益率の伸びもI工業を大きく上回っている。それにもかかわらず、増益率はI工業に比べて遥かに低くなっている。この違いは、元の利益規模が大きい企業ほど、増益率が相対的に小さく見えることを示している。

「増益率」という指標は、一見すると業績向上を測る物差しのように見えるが、実際にはその役割を果たせておらず、むしろ誤った評価を生む可能性が高い。この点を明確に理解するために、具体的なモデルを用いて検討してみよう。モデルによる分析により、増益率の問題点と業績向上の真の指標が見えてくるだろう。

〈第39表〉を参照してほしい。ここでは、A社、B社、C社のX期とY期の業績を比較している。A社はもともと極めて低業績だったため、わずかな利益増加であっても、その増益率が8,000%という非常に大きな数字になっている。このような例からもわかるように、増益率は元の利益水準が低い場合に過大評価されやすい指標であることが明らかだ。

C社はもともと高収益の企業であり、Y期ではA社とは比較にならないほどの大幅な業績向上を達成している。それにもかかわらず、増益率は127%と控えめな数字に留まっている。一方、B社はA社とC社の中間的な業績水準と業績向上を示しており、増益率もその中間の値となっている。これらの例は、増益率が必ずしも企業の本質的な業績向上を反映していないことを示している。

これを見れば、「増益率」という指標がいかにナンセンスであるかが明白だろう。世の中には、専門家を名乗る素人が、安易に二つの数字を割り算して「○○率」と名付けている例が少なくない。こうした指標に惑わされないよう、慎重に判断する必要がある。指標の本質を理解せずに使うことは、大きな誤解や誤った意思決定を招く元となる。

むすび

  1. 売上高の増減による経常利益の増減
    売上高の増減が経常利益に与える影響は、増分売上高から生じる増分付加価値と同額である。
  2. 増分売上高に伴う増分費用の影響
    増分売上高に伴って増分費用が発生する場合、その増分付加価値から増分費用を差し引いた額だけ経常利益が増加する。
  3. 増益率の問題
    増益率という指標は、業績向上の評価には適さず、本質的にナンセンスな考え方である。

売上高の増減による経常利益の変動は、企業の固定費と変動費の特性によって異なります。売上高が増加すると、その増加分に対する変動費は比例して増えるものの、固定費は変わらないため、売上高の増加分が経常利益の大幅な増加につながります。逆に、売上高が減少すると、変動費が減るだけで固定費が減らないため、経常利益の減少幅が売上高の減少幅以上に大きくなります。

以下、ポイントを整理します。

1. 売上高と経常利益の増減関係

  • 売上高が増加すると、付加価値(売上高から変動費を引いた額)が増加し、その増分がほぼそのまま経常利益の増加につながります。
  • 売上高が減少すると、付加価値も減少し、その減少分が経常利益の大幅な減少をもたらします。

2. 経常利益への影響度合い

  • 付加価値率を活用して、売上高の増減がどれだけ経常利益に影響を与えるかを計算します。
  • 例えば、付加価値率が40%の場合、売上高が1億円増えると、付加価値は4千万円増え、この増分がほぼそのまま経常利益の増加になります。
  • 売上高が減少した場合も同様に、減少分の40%が経常利益の減少につながります。

3. 損益分岐点と経常利益

  • 損益分岐点を上回る売上高に対しては、付加価値率に比例した分だけ経常利益が増加し、下回るとその分だけ赤字が増えます。
  • 例えば、損益分岐点が8億円で、売上高が9億円になると、1億円の増分に対して40%の付加価値が経常利益として加わり、4千万円の利益が生まれます。

4. 増分計算の意義

増分計算では、新たな売上増分やコスト増分のみを考慮し、会社全体の固定費や既存の経費を計算から外します。これにより、正確に経常利益の増減を予測できるため、経営判断がしやすくなります。

5. 増益率の注意点

  • 増益率は、経常利益の実態を正確に示す指標ではないため、増益率が高いからといって、必ずしも企業の収益性が改善したとは言えません。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次