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■引用原文(『中庸』第十三章)
子曰、道不遠人。人之為道而遠人、不可以為道。
詩云、「伐柯伐柯、其則不遠。執柯以伐柯、睨而視之、猶以為遠」。
故君子以人治人、改而止。
■逐語訳
- 道不遠人:道というものは、人から遠く離れたものではない。
- 人之為道而遠人、不可以為道:人が道を説いても、それが人間からかけ離れていれば、それは道とは言えない。
- 伐柯伐柯、其則不遠:『詩経』に「柯(斧の柄)を伐る、柯を伐る。その手本は遠くない」とある。
- 執柯以伐柯、睨而視之、猶以為遠:斧の柄で斧の柄を作る。横目で見て形を真似るだけでよいのに、なおも人はそれを遠いと思ってしまう。
- 故君子以人治人、改而止:だから君子は、人の道(範例)によって人を導き、必要な部分だけを改めればよしとする。
■用語解説
- 道(どう):人間が進むべき正しい生き方・規範。ここでは「中庸の徳」も指す。
- 遠(とお)い/近(ちか)い:実践可能性の問題。抽象的・高尚すぎる道は、かえって人の役に立たない。
- 伐柯(ばっか):斧の柄を作る際の作業。すでにある柄を見本として新たな柄を削る比喩。
- 睨而視之(げいしてこれをみる):横目で比較して見ること。手本がすぐ隣にあるイメージ。
- 改而止(あらためてやむ):必要な部分を改めたら、あとは強要しない。指導の節度を示す表現。
■全体の現代語訳(まとめ)
孔子は言う:
「道」は人間の生き方そのものであり、決して人間からかけ離れた抽象的なものではない。
もし誰かが道を説いていて、それが難解で遠く感じられるならば、それはもはや「道」とは言えない。
『詩経』には、斧の柄を使って斧の柄を作る場面が詠まれている。見本を横に置いて、それを見ながら作る――これほど身近な手本があるにも関わらず、人はそれすら「遠い」と感じるのだ。
だから、君子(徳ある人)は、具体的な人間の実践によって人を導き、必要な部分だけを改めさせれば十分だと考える。人を理想で責めるのではなく、現実に即して寄り添うことが、真の教えである。
■解釈と現代的意義
この章は、「道」の本質を明確に定義しています。それは実践可能な、身近な生き方であるということです。
- 道徳は高尚である必要はない。現実に生きる人間に寄り添うべきである。
- 教育・指導・マネジメントにおいて、「手本を見せる」ことが最も効果的である。
- そして、すべてを正そうとするのではなく、「必要なことだけを改めて止む」――節度ある関わり方が大切とされます。
これは、現代の組織運営・教育・人材育成においても非常に応用可能な指針です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・適用例 |
---|---|
リーダーシップ | 高尚な理念を語るより、自身の行動を通じて「道」を示すことが重要。部下は言葉ではなく「姿勢」を見て学ぶ。 |
教育・OJT | 理論よりも「現場での実践」「具体的な見本」が人を育てる。「こうしろ」ではなく「こうしている姿」を見せる。 |
社内文化の醸成 | 社訓やビジョンが現場と乖離していれば意味がない。日常の言動が「道」であるべき。 |
課題改善 | 一度にすべてを直そうとせず、「要点だけを改めてやめる」=段階的改善の姿勢が継続を生む。 |
■心得まとめ
「道は遠くにあらず、隣にある背中を見よ」
抽象的な理念や理想ではなく、今、目の前にある人の実践の中にこそ「道」は宿る。
「君子の教え」とは、相手を追い詰めず、必要な部分だけを正し、あとは信じて任せる姿勢である。
これは、人を導くすべての立場にある者が持つべき「中庸の教え」そのものである。
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