運転資金を効率化するための取り組みは、「資金の回転率をいかに向上させるか」に集約されます。
その中でも特に重要なのが、資金の使途における回転率の改善です。使途の回転率を上げることで、資金の効率的な運用が可能になり、結果的に運転資金の負担を軽減することができます。
これに対して、資金の源泉については過去の実績や計画に基づく要素が強いため、使途改善の重要性が際立ちます。
計画を立てずに現状に甘んじるのは、計画ではなく単なる成り行き任せです。
本来の計画とは、現状をどのように改善し、資金の効率を高めるかを明確に示すものです。この視点を持つことで、資金管理は大きく前進します。
実例:自動車販売会社L社の改善事例
従業員900名を抱える自動車販売会社L社では、経理部門と営業部門の間で資金運用をめぐる対立が続いていました。両者が互いに自分たちの主張を繰り返す中で、私はまず全体の資金状況を明確に把握することを提案し、「資金運用予測表」を作成することを提案しました。この表により、全社的な資金の流れを可視化し、議論の基盤を整えることができました。
特に問題となっていたのは受取手形と売掛金の残高で、受取手形の残高は21カ月分に達していました。業界平均が16カ月であることを考えると、明らかに長期化している状態です。
これは社長の「受取手形の期間を長くしてでも売上を伸ばす」という方針によるもので、一定の事情は理解できるものの、改善の余地はありました。
営業所長たちに「受取手形を20カ月以内に抑えることが可能か」と問いかけたところ、改善可能との見解が示されました。
そこで、受取手形を1カ月分削減した場合の金利負担軽減額を試算した結果、約2,000万円の効果が期待できることが判明しました。さらに、売掛金についても同様の削減が可能か確認したところ、こちらの方が取り組みやすいとの意見が得られ、同様に約2,000万円の金利負担削減が見込まれることが分かりました。
結果として、受取手形と売掛金をそれぞれ1カ月分削減するだけで、合計4,000万円の金利負担を軽減できることが明らかとなり、営業部門と経理部門が一致団結して改善に取り組む契機となりました。
改善の難しさと実践のポイント
もちろん、すべての企業がL社のようにスムーズに改善を進められるわけではありません。特に、取引先が手形サイトを固定している場合や、相手の都合で条件を変更しづらい場合には、改善が困難を極めます。
しかし、これを理由に現状維持を続けていては、資金効率の向上は望めません。
過去の経験からも、取引条件や資金運用の改善を行わず相手任せにすると、大きな非効率が生まれることを痛感しました。
たとえ「取引先に嫌われるのではないか」という懸念があっても、積極的に条件改善を求める姿勢が重要です。こうした交渉は、結果的に資金運用効率を高める鍵となります。
資金源泉の安定化と運転資金の改善策
運転資金の改善においては、資金の使途だけでなく源泉の安定化も重要な課題です。
例えば、支払手形や買掛金の回転率を確認し、それに基づく計画を立てることが必要です。さらに、銀行との関係性を強化し、資金調達を計画的に行うことで、運転資金の安定化を図ることが可能になります。
最後に
運転資金の効率化は、一朝一夕には達成できないものの、計画的かつ積極的な取り組みによって着実に改善できます。
使途の回転率向上、源泉の安定化、そして全体を見渡す視点を持つことが、長期的な資金管理の成功を支えるポイントとなるのです。
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