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悪意に動じず、ただ“道”を信じて歩む

――誹謗や妨害に惑わされず、すべてを運命にゆだねる心の器

孔子とその高弟たちは、魯の国で名分を正し、乱れた政治を正そうと尽力していました。
その中で、弟子の**子路(しろ)**が権力者・季孫子のもとで実務を担っていた際、
**公伯寮(こうはくりょう)**という人物が子路を中傷しました。

このざん言(悪口)を聞いた大夫・**子服景伯(しふくけいはく)**は孔子に相談します。

「季孫子は、公伯寮の言うことに疑問を持っていますが、
子路も少しは疑われているかもしれません。
私の力があれば、公伯寮を処罰して市中にさらすこともできますが、どうしましょうか?」

孔子はそれに対して、静かに、しかし明確にこう答えました。

放っておきなさい。

  • 道(みち)が行われるときも、それは“命(めい)”である。
  • 道が行われないときも、それは“命”である。
    公伯寮ごときに、この天命(てんめい)を左右できるはずがない。

本質:

このやりとりに、**孔子の深い「運命観」と「不動の信念」**が示されています。

  • 誹謗中傷に反応して争うのではなく、道を信じ、沈黙の中で貫く姿勢。
  • 世の中が道に従うときも、そうでないときも、それを「天の命」と受け止める。
  • その上で、卑しい策略に振り回されず、天命の大きな流れに自分を委ねる
     これが、孔子が語る“君子の器”です。

原文とふりがな付き引用:

「公伯寮(こうはくりょう)、子路(しろ)を季孫(きそん)に愬(うった)う。
子服景伯(しふくけいはく)、以(もっ)て告(つ)げて曰(いわ)く、
夫子(ふうし)は固(もと)より、公伯寮に惑志(わくし)有(あ)り。
吾(われ)の力、なお能(よ)く、諸(これ)を市朝(しちょう)に肆(さら)さん。

子(し)曰(いわ)く、
道(みち)の将(まさ)に行(おこな)われんとするや、命(めい)なり。
道の将に廃(すた)せんとするや、命なり。
公伯寮、其(そ)れ命を如何(いかん)せん。


注釈:

  • 愬(うった)う … 誹謗中傷、ざん言する。
  • 惑志(わくし) … 人の心を惑わせるような言説、悪意ある印象操作。
  • 肆(さら)す … 処罰して市中に屍をさらすという極刑。
  • 命(めい) … 天命。人の力ではどうすることもできない、自然の摂理や流れ。

教訓:

この章句は、外の評価や中傷ではなく、自分の「信じる道」に忠実であり続けることの大切さを教えてくれます。

  • 「何を言われたか」ではなく、「何を為したか」を重んじる生き方。
  • 抗議や報復ではなく、“静かなる不動”によって己を守る姿勢。
  • すべてを“命”と受け入れることで、誹謗にも怯まず、慢心もせずに進める。

孔子の「道に仕える」姿勢は、現代においても「批判に耐え、信念を持ち続ける力」として学ぶべき指針です。

1. 原文

公伯寮愬子路於季孫。子服景伯以告曰、夫子固有惑志於公伯寮。吾力猶能肆諸市朝。
子曰、道之將行也與、命也。道之將廢也與、命也。公伯寮其如命何。


2. 書き下し文

公伯寮(こうはくりょう)、子路(しろ)を季孫(きそん)に愬(うった)う。
子服景伯(しふくけいはく)、以(もっ)て告げて曰(い)わく、
「夫子(ふうし)は固(もと)より公伯寮に惑志(わくし)有(あ)り。
吾(われ)が力(ちから)、猶(なお)能(よ)く諸(これ)を市朝(しちょう)に肆(さら)さん。」
子(し)曰(いわ)く、
「道(みち)の将(まさ)に行(おこな)われんとするや、命(めい)なり。
道の将に廃(すた)れんとするや、命なり。
公伯寮(こうはくりょう)、其(そ)れ命を如何(いかん)せん。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

「公伯寮が、子路のことを季孫に訴えた」
→ 魯国の大夫・公伯寮が、孔子の弟子・子路の行いについて中傷・告げ口した。

「子服景伯がそれを孔子に伝えて言った」
→ 「先生(孔子)は、もともと公伯寮のような人物に不信感を持っておられました。
私の力があれば、彼の悪事を市場で公にさらすこともできましょう。」

「孔子は答えて言った」
→ 「道(正しい教え)が行われるかどうかは“命”によるもの。
行われるときも、廃れるときも、それは“天命”によって決まる。
公伯寮のような人物が何をしようと、天命には抗えない。」


4. 用語解説

  • 愬(うった)う:訴える、悪く言う、讒言(ざんげん)する。
  • 子服景伯(しふくけいはく):魯の政治家で、孔子に近い人物。正義感の強い行動派。
  • 惑志(わくし):惑わされた心、信念が揺らぐこと。ここでは「悪人に惑わされる意志を持つ」という文脈。
  • 市朝(しちょう):市場と朝廷。ここでは「人々の前、公の場」を意味する。
  • 肆(さら)す:さらし者にする、罪を公表して非難する。
  • 命(めい):天命、運命、神意。孔子思想では「人の力ではどうにもできない道理や自然の流れ」を指す。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

公伯寮が、孔子の弟子である子路を中傷し、権力者・季孫に訴えた。
これを聞いた子服景伯は孔子に報告し、
「先生はもともと公伯寮のような人物を信じておられなかったでしょう。
私の力であれば、彼の不義を人々の前でさらすこともできます」と言った。

それに対して孔子は、こう返した:

「正しい道が広まるときも、廃れるときも、それは天命による。
公伯寮が何をしようと、天命にはどうすることもできないのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「誹謗中傷への姿勢」と「天命観に基づく超然たる態度」**を孔子が語ったものです。

  • 孔子は中傷されても怒らず、**「それすらも“天命”の中の一出来事」**として受け止めている。
  • 不正に対抗する力を持つ子服景伯が正義感を見せたのに対し、孔子は一歩引いた視点で
    **「道が行われるか否かは、人間の力を超えた大きな流れ」**だと語った。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅「中傷や誤解に対して、冷静に構える知性を持て」

  • 根も葉もない悪口や陰口に反応しすぎると、時間と信頼を失う
  • 孔子のように、“自分の価値は天が知っている”という静かな自信を持つことで、ぶれない軸ができる。

✅「行動は正しく、結果は天に任せる姿勢」

  • 「正しいことをしても報われない」「信頼されていない」と感じる時、
    自分でどうにもならない部分(評価・タイミング)については、焦らず天に任せる気持ちも必要。

✅「正しさを貫くことと、正しさを訴えることは別物」

  • 子服景伯は「悪を糾弾すべき」と主張したが、孔子は「その必要すら天命次第」と達観。
  • 正しさの押し付けより、誠実な行動を重ねることで、自然に人は評価してくれる

8. ビジネス用の心得タイトル

「動じるな、裁くな──正しき道は天が知る」


この章句は、評価されないことや誤解されることに悩む現代人へ、
「自らの誠実と努力を信じて進めば、それでよい」という深いメッセージを伝えています。


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