人から「君子(くんし)」——つまり立派な人格者として見られている者が、
もしその名に反して偽善を働くようなことがあれば、
それは、つまらない小人(しょうじん)が公然と悪をなすのと、何ら違いはない。
さらに、君子と呼ばれる人物が節操を失い、
自らの信念や倫理をあっさりと変節してしまえば、
それはむしろ、小人が悪を悔いて心を入れ替え、
まっとうな道に立ち返ることよりも、はるかに始末が悪い。
なぜなら、君子には「高い道徳意識」が期待されており、
その信頼が裏切られたときの影響は極めて大きいからである。
高きにある者ほど、つねに自らを戒め、内省し続けねばならない。
それが「君子」の本当の条件である。
原文とふりがな付き引用
君子(くんし)にして善(ぜん)を詐(いつわ)るは、
小人(しょうじん)の悪(あく)を肆(ほしいまま)にするに異(こと)なること無し。
君子にして節(せつ)を改(あらた)むるは、
小人の自(みずか)ら新(あら)たにするに及(およ)ばず。
注釈(簡潔に)
- 君子(くんし):道徳的に立派な人格者。社会の模範となる人。
- 小人(しょうじん):利己的で狭量な人。私欲に流される人間。
- 善を詐る(いつわる):善人のふりをする、偽善を行うこと。
- 悪を肆にする(ほしいままにする):悪事を遠慮なく行うこと。
- 節を改む(せつをあらたむ):節操・信念を失うこと。変節。
- 自ら新たにする:自分から心を入れ替え、正しく生き直すこと。
パーマリンク案(英語スラッグ)
hypocrisy-of-the-noble-is-worse
「君子の偽善は小人より悪い」という本条の要点を表現したスラッグです。
その他の案:
- nobility-requires-integrity
- falling-from-virtue-hurts-more
- beware-the-hypocrite-in-high-places
この章は、道徳的な評価を受けている人ほど、
自分を戒める努力を怠ってはならないという強い警鐘を鳴らしています。
君子が道を踏み外すことは、小人が改心することよりも「害」が大きく、
それは「信頼の裏切り」や「徳の信用破壊」を意味します。
肩書きではなく、内面の一貫性が人格の価値を決める。
そうした深い自己規律の大切さを、改めて教えてくれる内容です。
1. 原文
君子而詐善、無異小人之肆惡。君子而改節、不如小人之自新。
2. 書き下し文
君子にして善を詐(いつわ)るは、小人(しょうじん)の悪を肆(ほしいまま)にするに異なること無し。
君子にして節(せつ)を改むるは、小人の自ら新たにするに及ばず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 君子而詐善、無異小人之肆惡。
→ 君子が善を装って欺くのは、小人が悪事を思うままにするのと、何ら変わりがない。 - 君子而改節、不如小人之自新。
→ 君子が節操を失うことは、小人が自らを改めることにも及ばないほど、悪いものである。
4. 用語解説
- 君子(くんし):高潔で徳を備えた人物。人格者。
- 詐善(さぜん):偽って善を装うこと。
- 小人(しょうじん):器が小さく、利己的で道徳心の低い人物。
- 肆惡(しあく):悪をほしいままにすること。
- 節(せつ):節操・信念・品位など、守るべき人格的基準。
- 改節(かいせつ):その節操を捨てること。
- 自新(じしん):自ら改め、心を入れ替えること。反省し行いを正すこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
君子(徳のある人物)でありながら、善人のふりをして人を欺くなら、それは小人が悪事を好き勝手に働くのと同じである。
また、君子でありながら節操を捨てて道を踏み外すことは、むしろ小人が心を入れ替えて改めるよりも、価値が劣る。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「徳ある者の偽善と堕落は、無徳の者の悪よりもたちが悪い」**という厳しい警告を含んでいます。
- 君子の仮面をかぶって欺く行為は、裏切りとしてより大きな害を生む。なぜなら、人々はその人物を信頼しているから。
- 一方、小人が過ちを認めて改めることは、むしろ称賛に値する。立場や評判に関係なく、行動こそが評価されるべきという思想です。
つまりこの章句は、
「肩書きや評判が良い人間ほど、その“中身”が試される」
という、人間の本質に対する深い洞察を提示しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ リーダーや評価されている人物の「偽善」は、組織を破壊する
- 上司・リーダーが「部下思い」を装いながら、裏では自己保身を図るといった矛盾した行動は、信用の崩壊を招く。
- 表向き「公正・透明・倫理的」を掲げながら、実際は不正に手を染めると、小さな不正よりも深刻な損失になる。
▪ 一方で、誤った人物でも「本気で改めるならば」再評価に値する
- 過去に失敗がある人でも、反省と改善の行動を伴えば、それはむしろ成長の証。
- 重要なのは「今どうしているか」「今何を選ぶか」であり、過去の肩書きや現在の評判ではない。
▪ 人格者の「言動の一致」が、信頼と組織文化の礎となる
- 「君子たる者の一言・一行」は、多くの人に影響を与える。だからこそ、誠実であることの重要性は段違いに高い。
8. ビジネス用の心得タイトル
「偽善のリーダーは最悪の裏切り──行動が人格を証明する」
この章句は、現代においても組織リーダー・経営者・評価されている社員すべてに向けた鋭い警鐘です。
- 見せかけの善行より、本気の反省。
- 高い地位の人こそ、言行一致が求められる。
- 行動が人を証明し、信頼をつくる。
この原則は、持続的な信頼と成果を築くための不可欠な土台です。
コメント