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師に問うときは、身分や過去を持ち出さず、謙虚でなければならない

弟子の公都子が孟子に問うた。
「更(こう)様は君主の弟君でありながら、先生の門下に入って学んでおられます。礼を尽くしておられるように見えますが、先生はなぜ彼の問いにろくにお答えにならないのですか?」

孟子は静かに答えた。
「人が師に問いをする際に、以下のような態度を取る者には答える必要はないと私は考えている」

  1. 自分の身分の高さを鼻にかけて問う者
  2. 自分の賢さを見せつけるように問う者
  3. 自分が年長であることを振りかざして問う者
  4. 自分の功労を持ち出して問う者
  5. 師との昔の縁や親しみを利用して問う者

「更はこの中の二つに該当している。だから私は答えないのだ」

「孟子曰く、貴を挟みて問い、賢を挟みて問い、長を挟みて問い、勲労有るを挟みて問い、故を挟みて問うは、皆答えざる所なり。更、二つ有り」

孟子の言葉は、どれだけ地位が高く、賢く、経験があろうとも、師の前では一学徒として謙虚でなければならないという強い倫理を示している。真に学びたいと願う者は、すべてを脱ぎ捨てて問い、耳を傾ける姿勢を持たねばならない。

※注:

  • 「挟む(さしはさむ)」…ここでは「鼻にかける」「利用する」意。
  • 「更(こう)」…君主の弟であり、門弟として孟子に学んでいたが、傲慢な態度が見られた。
  • 「答えざる」…形式ではなく、態度・心構えの問題を問う姿勢。
目次

『孟子』公孫丑下より

1. 原文

公都子曰、更之在門也、若在禮。而不答、何也。
孟子曰、挾貴而問、挾賢而問、挾長而問、挾勳勞而問、挾故而問、皆不答也。更二焉。


2. 書き下し文

公都子(こうとし)曰く、更(こう)の門に在るは、礼に在るがごとし。而も答えざるは、何ぞや。
孟子曰く、貴を挟みて問い、賢を挟みて問い、長を挟みて問い、勲労を挟みて問い、故を挟みて問うは、皆答えざる所なり。更(こう)二つ有り。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「公都子は言った:更という者が門前にいて、礼を尽くしているように見えるのに、なぜあなたは彼に答えないのですか?」
  • 「孟子は言った:地位の高さを振りかざして問い、知恵のあることを自慢して問い、年長であることを笠に着て問い、功績をかざして問い、かつての付き合いを盾にして問いかける──
    これらはすべて、私は答えないことにしている。更のような者が二人いたとしても同じだ。」

4. 用語解説

  • 更(こう):人物名。孟子の門前で質問しようとしたが、態度に問題があったとされる人物。
  • 挟(はさ)む:ここでは「(肩書きや関係性など)自分の優位性を利用して」という意味。
  • 貴・賢・長・勲労・故:それぞれ「身分の高さ」「知性・学識」「年齢・経験」「過去の功績」「親しい関係」のこと。
  • 更二焉(こうふたりあり):「仮に更のような人物が二人いたとしても、やはり答えない」という孟子の強い拒絶の姿勢。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

公都子は言った:

「更という人物が門前に来て礼儀を尽くしているように見えますが、
なぜ先生は返答されないのですか?」

孟子は答えた:

「地位、学識、年齢、功績、昔の関係──それらを笠に着て質問してくる者には、私は決して答えない。
たとえそのような更が二人いても、答えることはない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「正しい問い方・学びの姿勢とは何か」**という根源的なテーマに迫っています。

  • “学ぶ姿勢”が問われる
     質問内容だけでなく、“どのような心構えで問いを立てるか”が問われている
  • 「俺は偉いんだぞ」という態度では、本質的なやりとりは成立しない
     知識を求める者が謙虚さを欠いていれば、学びにはつながらない。これは上下関係に限らず、真に誠実な対話を行うための条件
  • 孟子の徹底した「人格による選別」
     質問者の品格によって答えるか否かを決める。これは単なる高慢ではなく、教育の本質を見抜いた厳格さ

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「“肩書き質問”に答えるな──謙虚な学びの場だけが成長を生む」

  • 「社長だから」「昔からの知り合いだから」「自分は経験があるから」
     ──そうした“権威”や“既得権”を背景にして投げかけられる問いには、本音も本質も生まれない。
  • 部下や若手の“素朴で純粋な問い”にこそ答えるべき
     成長を求める態度は、相手の立場ではなく姿勢によって測られる。

✅ 「リーダーは、問いかけを“評価”せよ」

  • どんなに良い質問でも、その裏にある動機や態度を見極めるべし。
  • 「知ったふり」や「マウント目的」の質問には乗らず、組織全体の風土を正す役割を担うべし。

8. ビジネス用の心得タイトル

「問いに応えるかは、“姿勢”で決まる──肩書きでは人は育たない」


この章句は、「問いとは何か」「誰に教えるべきか」という問題に対して、孟子が誠実さと品格を基準とする教育哲学を明確に示したものです。

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