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和やかな心と謙虚な姿勢が、人を遠ざけない

節操を重んじ、義を貫く人ほど、ともすれば他人の言動に厳しくなりがちである。そのような人は、心の中から打ち解ける「和衷」の姿勢を持つことで、他人との衝突や怒りの争いを避けることができる。

また、名声や功績を強く求める人は、その志が高じて、知らず知らずのうちに人の妬みを招くこともある。そうした者には「謙徳」――すなわち、謙虚さの徳を備えることが必要だ。それによって、人から無用な嫉妬を受ける機会を減らし、円滑な人間関係を築くことができる。

孔子もまた「君子は泰として驕らず(のびやかだが傲慢ではない)」と述べているように、真の人格者は、内に穏やかさと謙遜を持ち合わせている。厳格さや向上心と、柔和さや慎み深さは、相反するものではない。両立することでこそ、人格は高まるのである。


原文と読み下し

節義(せつぎ)の人は、済(すく)うに和衷(わちゅう)を以(もっ)てせば、纔(わず)かに忿争(ふんそう)の路(みち)を啓(ひら)かず。
功名(こうみょう)の士(し)は、承(う)くるに謙徳(けんとく)を以てせば、方(まさ)に嫉妬(しっと)の門(もん)を開(ひら)かず。


注釈

  • 節義の人:節操と正義を重んじ、規律を守る真面目な人物。
  • 和衷(わちゅう):心の底からうちとけること。真の寛容さ。『論語』での「泰(やす)」と通じる。
  • 忿争(ふんそう):怒りに任せて争うこと。
  • 功名の士:出世・成功・名声を追い求める人物。行動力はあるが、周囲との摩擦も生まれやすい。
  • 謙徳(けんとく):謙遜・控えめでありながら、内に徳を宿す品格。

パーマリンク(英語スラッグ)案

  • humble-heart-deep-bond(謙虚な心が深い絆を生む)
  • strength-through-softness(柔和が強さとなる)
  • avoid-conflict-with-warmth(温かさで争いを避ける)

この心得は、リーダーや先頭に立つ者こそ心に刻むべき教えです。厳格さと向上心に、打ち解けた心と謙虚な態度を添えたとき、人は真に信頼され、導くにふさわしい存在となるでしょう。

目次

1. 原文

節義之人、濟以和衷、纔不開忿爭之路。
功名之士、承以謙德、方不開嫉妬之門。


2. 書き下し文

節義の人は、済(すく)うに和衷(わちゅう)を以てせば、纔(わず)かに忿争(ふんそう)の路を開かず。
功名の士は、承(う)くるに謙徳(けんとく)を以てせば、方(はじ)めて嫉妬(しっと)の門を開かず。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

一文目:

節義之人、濟以和衷
→ 節義(節操と正義)を貫く人であっても、和やかな心で接して救済するようでなければ、

纔不開忿爭之路
→ わずかに怒りや争いの道を開かずに済むにすぎない(すぐに反感を招くおそれがある)。

二文目:

功名之士、承以謙德
→ 功績や名声を得た人も、それを謙虚で徳ある態度で受け止めなければ、

方不開嫉妬之門
→ はじめて人の嫉妬を引き起こす扉を開かずに済むのだ。


4. 用語解説

  • 節義(せつぎ):節操と義理。道徳や正義を貫こうとする態度。
  • 濟(すくう):他人を助けること。
  • 和衷(わちゅう):心の和らぎ・調和。温厚で思いやりのある心。
  • 忿爭(ふんそう):怒りと争い。敵対や対立の感情。
  • 功名(こうみょう):功績と名声、地位や評価。
  • 承(うく):受ける、受け入れる。
  • 謙徳(けんとく):謙虚な徳、謙遜の精神。
  • 嫉妬(しっと)之門:他人の成功に対するねたみや怒りが噴き出す契機・場面。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

正義を重んじる人であっても、もしその振る舞いが堅苦しく、調和のないものであれば、他人の怒りや争いを引き起こしてしまうおそれがある。だからこそ、節義を貫く際には、思いやりと柔和な心をもって接するべきである。

また、功績や名声を得た人も、それを誇らず謙虚に受け止めてこそ、人からの嫉妬や反感を招かずに済む。つまり、「正しさ」や「成功」には、それを包む“徳”が必要なのだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「正しさ」や「成功」が人間関係を壊すことがあるという、逆説的な人間洞察を教えています。

  • 「正論」だけを押し通せば、周囲に疎まれ、正義が争いを生む。
  • 「成功」だけを誇れば、周囲の嫉妬を煽り、自分を孤立させる。

したがって、人を救いたければ、和らいだ心を。成果を得たなら、謙虚な姿勢を。
「正義にも潤いを、成功にも謙遜を」──これこそが長く信頼され、尊敬される人の姿勢だというのが本章の教えです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「正しさは“柔らかく”伝えてこそ意味がある」

部下への指導や社内改善で、正論を振りかざすだけでは反発される。和やかな態度、相手の立場を尊重した伝え方が、信頼を得る鍵。

●「“できる人”ほど謙虚であれ」

成果を出した人物ほど、態度に慎みを持たなければならない。自慢やマウントが多ければ、多くの敵と嫉妬を呼ぶ。謙徳が評価を守る。

●「リーダーシップとは“正しさ+人間性”」

経営判断やリーダーの決断においても、筋が通っていても冷たく伝えれば不信感につながる。正義には包容力を伴わせることが必須。

●「昇進・表彰後は“倍の謙虚さ”を」

評価されたあとほど、言葉・態度・行動に慎みを持つこと。謙虚な振る舞いが、さらなる人望と協力を呼び、チームを強くする。


8. ビジネス用の心得タイトル

「正義に潤いを、成功に謙虚を──“好かれる人”は正しく、柔らかい」


この章句は、特に評価される立場・正義を語る立場にある人にとって、日々の行動を見直すための大きな指針となります。管理職研修やリーダー育成にも有用な智慧です。

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