S社では、売上高に比例したリベート制度を採用していた。月間売上が1,000万円を超える顧客には、最高で売上の6%がリベートとして適用されていた。
社長に対して、「リベートは6%だが、実際の収益減は何%になるのか」と尋ねてみたところ、「そんなことは考えたことがないから分からない」との答えが返ってきた。なんとも頼りない社長だ。
リベート自体を否定するわけではないが、それがどれほどの収益減に繋がるのかを把握せずに商売をするのは無理がある。そこで、私は実際に計算して見せることにした。
S社の粗利益率は27%である。この数字をもとに計算すると、売上高が6%減少しても仕入れ額は変わらないため、その分の値引きはすべて粗利益の減少として直撃する。具体的には、27円の粗利益が21円に落ち込み、その結果、粗利益の減少率は驚くべきことに22%に達する計算となるのだ。
この事実を理解せずに、6%のリベートが単純に6%の収益減だと思い込んでいると大変なことになる。実際には、少し計算すればわかることだが、こうした基本的な数字の見落としは意外と多いものだ。
特に、社長が売上高の増加だけをセールスマンに強く求めると、セールスマンは値引きに頼って無理やり売上を伸ばそうとする傾向が出る。この手法を取った結果、N社ではかえって大きな失敗を招いた例がある。
売上高は大幅に増加したものの、会社の収益は赤字に転落し、社内は大混乱に陥った。N社の社長は、「売上高だけを追い求めるのがいかに間違いか、身をもって痛感した」と後悔の言葉を漏らしていた。
値引きやリベートは、販売促進の手段として確かに有効な方法の一つだ。しかし、それが実際にどれだけの収益減に繋がるのかを把握していなければ、経営の方向性が見えなくなってしまう。この点をしっかりと理解し、慎重に運用することが重要だ。
リベートや値引きに過度に依存すると、かえって大きな弊害を生むことになる。たとえば、農薬業界ではメーカーリベートが非常に大きいため、流通業者が「仕入れ価格より安く売る」という極端な行動に走るケースも見られる。リベートを初めから当てにしてビジネスを組み立てるようでは、もはや商売とは呼べない。それが常態化すれば、破綻は時間の問題だ。
そのため、しっかりとした流通業者ほど、高率のリベートをむやみに喜ぶことはない。なぜなら、高いリベートはメーカーが乱売競争を助長しているようなものであり、市場を不安定にするリスクを伴うからだ。こうした状況を避けるためにも、冷静で長期的な視点を持つことが求められる。
リベートは可能な限り低い率に抑えるのが賢明だ。本当の販売促進とは、リベートのような安易で短期的な効果に頼るものではなく、もっと手間と努力を要するが、長期的に見て確実に成果を上げる方法を追求することにある。その具体的な手段については、後ほど詳しく述べることとする。
どうせリベートや値引きを行うなら、もっとスマートな方法を採用すべきだろう。たとえば、T社ではリベートを現物支給で提供している。この方法では、実質的な値引きコストがその商品の変動費に限定されるため、金銭での値引きよりも負担を軽減できるというメリットがある。
N社は中間業者であるが、配送コスト削減のために、商品を自社まで取りに来てくれる顧客には3%の値引きを提供している。この取り組みの結果、地元の顧客のほとんどが商品を直接引き取りに来るようになり、効率的な運営が可能となった。
D社は現金問屋として独自のリベート制度を持つ。一定金額以上の取引には3%のリベートを提供するが、これを売上代金から直接差し引くのではなく、代金は一旦全額受け取り、その後、3%分を現金で祝儀袋に入れて返している。さらに、この現金は必ず真新しいお札を使用しており、その細やかな気配りが非常に印象的だ。この工夫が顧客に大好評を博しているのも頷ける。
値引やリベートは販売促進の一つの手段ではあるが、効果的に活用するには、収益への影響を正しく把握し、その運用に慎重を期すべきです。以下に、効果的な値引とリベートの活用ポイントをまとめます。
1. 収益への影響を理解する
リベートや値引は単純に販売価格を下げる行為ですが、それが粗利益率に与える影響は非常に大きいです。例えば、粗利益率が27%の会社で6%の値引を行うと、粗利益の減少率は22%になります。リベートが直接の収益減少にどれだけ影響するのかを把握しないまま運用すると、知らず知らずのうちに収益を圧迫してしまいます。
2. 値引に頼りすぎない
過度な値引やリベートは、流通業者に「仕入値よりも安く売る」という無理な競争を誘発し、最終的に市場を不安定にします。短期的な売上の増加を求めると、セールスマンが値引きに頼り、売上高は伸びても会社の利益が減少してしまうという事態が生じかねません。値引に頼らない販売促進手段を開発することが、長期的な利益につながります。
3. スマートな値引方法を考える
リベートや値引を行うなら、工夫した方法で提供することが効果的です。以下のような方法が考えられます。
- 現物リベート: 値引の代わりに商品の現物を提供することで、変動費のみで値引効果を実現できます。
- コスト削減を促すリベート: 配送コストを削減するため、顧客が自ら商品を取りに来る場合にリベートを提供する例があります。これにより、運送費の負担を抑えながらリベートを活用できます。
- 特別な演出での現金リベート: 例えば、一定金額以上の購入者に対して、新札の現金を祝袋に入れて返すことで、顧客に感謝の気持ちを伝える工夫です。このような方法は、顧客に特別な印象を与え、リピーターの増加にもつながります。
4. 過剰なリベートに注意する
リベートが高率すぎると、安易な値引や乱売の原因となり、健全な市場競争を損ねる恐れがあります。リベート率は適度に抑え、販売促進の本質である「顧客に価値を届けること」を念頭に置きましょう。
結論
値引やリベートを行う際は、単なる売上向上策ではなく、収益率を考慮し、顧客との関係を強化する工夫を施すことが重要です。
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