「外回り営業の人数をどう設定すべきか」という問いに、明確な答えを持つ企業には、これまで一度も出会ったことがない。
多くの中小企業メーカーでは、セールスマンの数が必要な水準を大きく下回っている。これでは十分な成果を上げるのは難しいだろう。できるだけ少ない人数で最大限の売上を目指したいという考え自体は理解できる。しかし、ただ漠然とそのように考えるだけでは、市場戦略を効果的に展開することは到底できない。
製造部門であれば、人員が不足していれば一目瞭然であり、増員の必要性もすぐに理解される。しかし、販売部門には人員不足を客観的に判断する基準が存在しない。そのため、生産志向の社長に限らず、多くの企業で販売部門の人員不足が放置されているのが現状だ。
G社長はこう語る。「うちのセールスマンは現在、一人あたり年間1億5千万円以上の売上を上げている。もう何人か増員してもいいとは思うが、新しく雇ったセールスマンも同じく一人あたり1億5千万円の売上を求められると思うと、どうしても増員に踏み切れない」と。一体、この問題をどう捉えればよいのだろうか。
「販売戦」と呼ばれるように、販売は戦いであり、その戦いに勝つためには十分な兵力が欠かせない。兵力を惜しんで戦いに勝てるはずがない――その理屈は誰もが理解できる。しかし、セールスマンを増やせば、それに伴って人件費や経費が増大するため、簡単に増員に踏み切るわけにもいかないのが現実だ。
「ふぐは食いたし、命は惜しし」とはまさにこのことだ。多くの社長は、リスクを恐れるあまり、頬が落ちるほど美味なふぐを前にしても手を伸ばすことができない。
セールスマンの必要数は、まず市場戦略に基づいて考えるべきだ。「自社が目指す市場占有率を達成するために、どれだけの巡回を行う必要があり、それには何人の人員が必要なのか」という問いを起点に、必要な人数を算出するのが第一歩となる。この基準については、蛇口作戦のところで述べた通りだ。その上で、算出した人数を利益計画に照らして検討し、調整を行う。この二段階のプロセスを踏むことが適切だろう。
この二つの要素を同時に考えようとすると、結局は身動きが取れなくなるのがオチだ。最終的に、どのように決定するかは、社長自身の価値観と判断に委ねられる。
この場合、私は利益計画よりもセールスマンの人数を優先する積極的な方針を取ることを提案したい。なぜなら、これまでの経験からして、人数を重視した結果として、収益面で深刻なマイナスを招いたケースは一度もなかったからだ。
むしろ、決定的なセールスマン不足が原因で市場戦略の展開が思うように進まず、その結果、収益面でも悪影響を受けているケースのほうが圧倒的に多い。
特にメーカーの場合、セールスマンの総人件費が会社の目標付加価値(あるいは加工高)のおよそ20分の1以下に抑えられている状況、つまり、セールスマン一人あたりが自分の人件費の20倍以上の目標付加価値を求められている状況では、実際のところ市場戦略を展開するどころか、現在の市場や顧客に対してすら十分な活動ができておらず、市場占有率を低下させるリスクが極めて高い。
市場戦略を十分に展開するためには、会社の総付加価値の10分の1をセールスマンの人件費に充てることが不可欠だ。この金額をセールスマン一人あたりの平均人件費で割ることで、必要なセールスマンの人数を算出することができる。
この基準はメーカーの場合に適用できるが、問屋や商社では同じように明確な指標を出すのは難しい。なぜなら、激しい過当競争が常態化しており、多くの企業が慢性的な収益不足に苦しんでいる。その結果、相対的に人件費が過剰となり、このような基準をそのまま適用するのは現実的ではないからだ。
そのため、問屋や商社の場合、まず現在のセールスマンを優れた市場戦略によって効果的に活用し、そこで生み出された余裕を基に増員を図るという手法がとられる。これはメーカーのアプローチとは逆の方向になる。しかし、ここで重要なのは、セールスマンに対する「先行投資」という考え方だ。
T社長は、セールスマンに対する先行投資を積極的に実施している。毎期ごとに経営計画を立て、その中で計画的にセールスマンの増員を進めてきた結果、同業で同規模の企業と比べて3倍ものセールスマンを擁している。
それだけに留まらず、T社長はさらに踏み込んだ方針を持っている。もし期中に計画外であっても、優秀なセールスマン候補を見つけた場合は、目標経常利益をゼロにする覚悟で採用するという積極的な姿勢を貫いているのだ。
「今年のセールスマン増員計画は達成したから、残りは来期に回そう」という考え方は、経営計画に縛られた誤った発想だ。優秀な人材を確保する機会を逃すことは、企業の成長を自ら制限することにほかならない。
「経営計画は縛られるものではなく、活用するものだ」というのがT社長の基本的な考え方だ。これこそが経営計画に対する正しい姿勢と言える。そして、「計画外のセールスマン増員は未来への投資である」というのが、T社長の一貫した信念である。この柔軟で先を見据えた発想が、企業の成長を支える原動力となっている。
T社の市場占有率は毎年着実に上昇している。その上昇の特徴は、「不況時にも低下しない」という堅実さにある。さらに、T社は常に業界平均を上回る経常利益を達成している。この経常利益は、未来への備えを十分に行った上でのものであり、安定した経営基盤と戦略的な投資の成果を物語っている。
未来への備えを怠り、目先の利益を追求することだけに執着していれば、会社が改善しないどころか、むしろ深刻なリスクを生む可能性がある。その結果、長期的には市場占有率の低下、利益率の悪化、さらには赤字転落という危機的な状況を引き起こす原因を、社長自らが作り出してしまうことになるのだ。
セールスマンは何人必要か
セールスマンの人数を決定する際に最も重要なのは、市場戦略を十分に展開するために必要な人数を明確にすることです。多くの中小企業では、セールスマンの数が市場戦略に対して不足していることが多く、この人員不足が売上や市場占有率の低下を招く原因となります。
1. セールスマン数の決定方法
セールスマンの必要数は、以下の二つの段階で決定されます。
- 市場戦略からの計算: 目標とする市場占有率を達成するために必要な巡回回数と顧客対応数を基に、セールスマンがどれくらい必要かを計算します。例えば、特定の地域で何社を巡回し、どれくらいの労力が必要かを考慮し、そのために必要な人数を割り出します。
- 利益計画とのバランス: 次に、このセールスマンの人数が、会社の収益計画にどれだけ影響を与えるかを考えます。利益計画を考慮した上で、セールスマンの人数を決定します。
最も効果的な戦略は、市場戦略を重視し、利益計画を後から調整する方法です。この方法では、セールスマンを積極的に増員することで市場占有率の拡大を目指し、その結果として利益を上げることを目指します。
2. セールスマンの人件費と目標付加価値
セールスマンの人数は、目標とする市場占有率に対する付加価値(利益)の割合から計算することができます。具体的には、以下のように算出します。
- 目標付加価値の設定: 会社の目標付加価値(例えば売上高や利益)に対して、セールスマンの人件費がどの程度かを把握します。
- セールスマンの人数計算: 会社の総付加価値の10分の1程度をセールスマンの人件費に割り当て、セールスマンの平均人件費で割ることにより、必要な人数を算出します。
この方法では、セールスマンが自らの人件費の20倍以上の付加価値を生み出せるようにすることが理想です。
3. セールスマンの増員と未来投資
セールスマンの増員を行う際、企業として「未来投資」として捉えることが重要です。企業が市場占有率を確保するためには、将来の市場拡大を見据えた投資を行うことが不可欠です。たとえば、以下のような戦略が有効です。
- 計画外の増員: 予算や計画に囚われず、優れたセールスマンを見つけた場合には、経常利益を最小化する覚悟で増員を行う。これにより、将来的な市場占有率の向上を確保する。
- 戦略的増員: 経営計画にとらわれず、必要とされるタイミングでセールスマンを増やすことで、長期的な市場占有率の向上を図ります。
4. 未来に備える重要性
セールスマンの増員は単に現在の利益を上げるためだけでなく、未来に備えるための投資です。市場占有率を維持し、安定した利益を確保するためには、次のようなポイントに留意する必要があります。
- 未来に備える: 現在の利益だけを追求することなく、将来的な市場拡大を見据えた投資が重要です。そうすることで、長期的に占有率の向上が可能になります。
- 市場占有率と収益の関係: セールスマンを増員して占有率を高めることは、長期的な収益向上に直結します。逆に、今すぐの利益だけに囚われていると、占有率が低下し、最終的には利益率の低下や赤字転落を招く危険性が高くなります。
5. まとめ
セールスマンの必要人数は、市場戦略に基づいて計算し、利益計画とバランスを取ることが求められます。セールスマンの人数が不足していると、市場戦略の展開が遅れ、市場占有率が低下するリスクが高くなります。積極的なセールスマンの増員と、将来の市場占有率を見据えた投資が、企業の長期的な成功に繋がるのです。
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