得意の絶頂にあり、運や人の恩に恵まれているときこそ、
思わぬ災いが起こりやすい。だからこそ、好調なときには早めに頭を冷やし、
自らを戒めて心を引き締めることが大切だ。
一方、失敗が続き心が挫けそうなとき――
実はその先にこそ、反転して成功が生まれることが多い。
だからこそ、辛さに負けて手を放してはならない。
潮が最も引いたときこそ、満ちるときが近いのである。
「恩裡(おんり)に由来(ゆらい)害(がい)を生(しょう)ず。
故(ゆえ)に快意(かいい)の時、須(すべか)らく早(はや)く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし。
敗後(はいご)に或(ある)いは反(かえ)って功(こう)を成(な)す。
故に払心(ふっしん)の処(ところ)、便(すなわ)ち手(て)を放(はな)つこと莫(なか)れ。」
注釈:
- 恩裡(おんり)…人からの厚い情けや、運に恵まれた順境のとき。自覚のない「慢心」に陥りやすい状態。
- 快意(かいい)…物事が順調に進み、満足しているときの気分。
- 頭を回らす…我に返って気を引き締める。調子の良さに酔わない自制の姿勢。
- 敗後(はいご)…失敗や挫折のあと。見放されたように感じる状況。
- 払心(ふっしん)…不快な状況、思いどおりにいかない心の状態。葛藤や苦悩の中にいること。
- 手を放つこと莫かれ…途中で投げ出すな、という戒め。
1. 原文:
恩裡由來生害。故快意時、須早回頭。
敗後或反成功。故拂心處、莫便放手。
2. 書き下し文:
恩裡(おんり)に由来(よって)害を生ず。故に快意(かいい)の時は、須(すべか)らく早く頭(こうべ)を回らすべし。
敗後(はいご)に或(ある)いは反って功を成す。故に払心(ふっしん)の処は、便(すなわ)ち手を放つこと莫(な)かれ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「恩裡に由来害を生ず」
→ 恩恵の中から、かえって災いが生まれることもある。 - 「故に快意の時、須らく早く頭を回らすべし」
→ だから、うまくいって気持ちがよいときこそ、早めに気を引き締め、謙虚さを取り戻すべきだ。 - 「敗後に或いは反って功を成す」
→ 失敗した後に、かえってそれが成功につながることもある。 - 「故に払心の処、便ち手を放つこと莫かれ」
→ だから、心が逆撫でされるような辛い時でも、簡単にあきらめてはいけない。
4. 用語解説:
- 恩裡(おんり):恩恵の中、思い通りになっている状況。
- 快意(かいい):心地よく、満足している気分。
- 頭を回らす(こうべをめぐらす):冷静になり、反省や謙虚さを取り戻すこと。
- 敗後(はいご):失敗や挫折のあと。
- 功(こう):成功、成果。
- 払心(ふっしん):心を逆撫でされるような不快や屈辱、葛藤のある場面。
- 放手(ほうしゅ):手を離すこと。諦める、やめること。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
恩恵の中から、思いもよらない災いが生まれることがある。
だからこそ、物事がうまく運んで気分が高揚しているときほど、早めに自省し、謙虚になるべきである。
また、失敗のあとにこそ、逆に大きな成功を掴むこともある。
だから、心が折れそうなときでも、すぐに諦めてはならない。
6. 解釈と現代的意義:
この章句は、**「順境のときほど謙虚に、逆境のときほどあきらめずに」**という、人生のリズムに対する鋭い洞察を語っています。
うまくいっているときには油断や傲慢が生まれやすく、それが災いを招く。
一方で、失敗や不快な状況の中にこそ、真の成長や逆転の契機が潜んでいるという教えです。
日々の中で、このような「心の姿勢の切り替え」ができるかどうかが、人間的成熟と成功の鍵となります。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「成功時こそ“回頭”を──好調の慢心を防げ」
売上好調や評価上昇のときほど、「まだ足りない点」「次に備えるべきこと」に目を向けるべし。
“絶好調の裏に落とし穴”があることを忘れてはならない。 - 「逆境時でも“放手”しない──壁の先に転機あり」
クレーム・損失・トラブルなど、辛い状況の中でも、あきらめず改善・努力を続けた先にこそ、長期的な信頼や成果がある。 - 「恩の裏に“依存・油断・奢り”が潜む」
他者の好意や支援に頼りきると、いざという時に脆さが露呈する。
感謝と自立は常にセットで持つべき姿勢。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「好調の中に落とし穴、苦境の中に突破口──心を引き締め、手を離すな」
この章句は、「陰陽転化」の思想にも通じ、変化する状況に応じて心をどう整えるかという教訓に満ちています。
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