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師を裏切るな。真の学びは忠と信から生まれる

師が亡くなったからといって、思想や信義を捨ててはならない

孟子は怒りを込めて、こう言う。

「私は、文化の高い中国が未開の異民族を感化し、変えたという話は聞いたことがある。
だが、中国が夷(い:異民族)から感化されたなどという話は、聞いたことがない」

これは、思想や文明の正統性は長い歴史の中で育まれた中原(中国)にこそあるという自負である。

孟子は、陳良という人物についても称える。

  • 陳良は楚の出身(南方、やや文化的に遅れたとされた地域)
  • だが、周公や孔子の教えを喜び、北の中国(中原)に学んだ
  • その学識と志は、北方の学者すら凌ぐほどだった
  • 彼はまさに**「豪傑の士」**――才知と徳に優れた者である

そんな師に、あなたたち兄弟(陳相と陳辛)は数十年も学んできたにもかかわらず――

「師が亡くなった途端に、教えを捨て去り、異端の説(許行)に走った」
それはまさに、「倍(そむ)く」――裏切りである


本章の主題

孟子がここで訴えるのは、単なる儒家思想の優越ではない。
**「学びとは、時間と人格の中で築かれる関係性であり、信と忠が根底にあるべきだ」**という倫理的主張である。

  • 師の教えを受け継ぐとは、「形」を守ることではない
  • 亡くなった後もその精神に忠実であろうとする姿勢こそ、本当の弟子であり、学び人の礼である

それを簡単に捨ててしまった陳相たちに対し、孟子は知識人としての誠実さの欠如を深く憂いている。


引用(ふりがな付き)

吾(われ)夏(か)を用(も)って夷(い)を変(か)ずる者(もの)を聞(き)く。未(いま)だ夷(い)に変(か)ぜらるる者(もの)を聞(き)かざるなり。

子(し)の兄弟(けいてい)、之(これ)に事(つか)うること数十年(すうじゅうねん)、師(し)死(し)して遂(つい)に之(これ)に倍(そむ)く。


簡単な注釈

  • 夏(か):中原(中国本土)を表す古称。文明の中心という意味を持つ。
  • 夷(い):文化的に遅れているとされた異民族地域。ここでは思想的・制度的な未熟さの象徴でもある。
  • 豪傑の士(ごうけつのし):徳・才・志のすべてに優れた人物。孟子の理想的人材像。
  • 倍く(そむく):約束や師弟関係を一方的に破棄する、裏切ること。

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この章は、孟子の思想における「忠」「信」「礼」――つまり人としての信義の根幹が凝縮された場面です。
同時に、「思想を変える自由」はあっても、それが信義を踏みにじる形で行われてはならないという、儒教的倫理の厳しさが読み取れます。

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