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正直さとは、融通のなさではなく、まごころの表れである

目次

本当に正しい人は、他人のために柔軟に動ける

あるとき孔子は、「微生高(びせいこう)はバカ正直な男だ」と評する声に対して、「誰がそんなことを言ったのか」と反論し、次のような逸話を紹介した。

ある人が酢(す)を借りに微生高のもとを訪ねたところ、彼の家にはちょうど在庫がなかった。
すると微生高は、自分の隣家に酢を借りに行き、それを来客に与えたという。

この行動から、孔子は、微生高がただ融通の利かない“正直者”ではなく、機転と柔軟さを持った、真に誠実な人物であることを示したのである。

ここに示されているのは、「形式にこだわること」が正直なのではなく、相手のために心を尽くす柔軟さこそが、本当の誠実さであるという孔子の深い人間観である。

まごころのある正直者は、かたくなでなく、しなやかに人に尽くす。

原文

子曰、
「孰謂微生高直、或乞醯焉、乞諸其鄰而與之。」

書き下し文

子(し)曰(い)わく、
「孰(たれ)か微生高(びせいこう)を直(なお)しと謂(い)うや。
或(ある)ひと醯(す)を乞(こ)いしに、諸(これ)を其(そ)の隣(となり)に乞うて、之(これ)に与(あた)えたり。」

現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

「子曰、孰謂微生高直」

→ 孔子は言った。「誰が微生高を“正直者”などと言ったのだろうか。」

「或乞醯焉、乞諸其鄰而與之」

→ 「ある人が彼に酢を乞うたところ、彼は自分で持っていなかったので、隣人から借りてそれを与えた。」

用語解説

  • 微生高(びせいこう):孔子と同時代の人物で、一部から「高直(こうちょく=まっすぐで正直)」と評されたが、孔子はその実態に疑問を呈した。
  • 直(なおし):正直、公平、誠実という意味。
  • 醯(す):酢。調味料として古代中国で用いられた発酵食品。
  • 諸(これ)を其の鄰に乞うて:隣人に頼んで手に入れた。
  • 与之(これにあたう):乞うた人に与えた。

全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう言った:
「誰が微生高のことを“正直な人物”などと呼ぶのだろうか?
ある人が彼に酢を求めたとき、自分のものを与えるのではなく、隣人から借りてそれを与えたのだ。」

解釈と現代的意義

この章句では、**「正直(直)」という評価が、本当に誠実な人格を意味するのか?**という問題提起がなされています。

  • 微生高は、他人に頼まれたとき、自分の持ち物ではなく、隣から借りたものを渡した
  • 表面上は“人助け”に見えるが、実際には「自分の犠牲を払わず、人に恩を売っている」状態。
  • 孔子はこのような“表面的善行”を「真の正直さ・誠実さ」とは認めなかった。

ここでは、“自己犠牲や誠意のない便宜提供”は、真の徳ではないという厳しい倫理観が表れています。

ビジネスにおける解釈と適用

「“見せかけの善意”は、信頼を損なう」

自分では何の負担もしていないのに、「やってあげた」と恩に着せる行為は、短期的には得をしても、長期的な信頼は得られない

→ “与えるなら、自分の責任と誠意で与えよ”。

「組織の中で“本質を伴わない善行”に注意せよ」

例えば、他人のアイデアや資源を借りて自分の評価を上げようとするような行為は、“貢献しているふり”であり、真の誠実ではない

→ 「本物の信頼」は、自己の負担と責任に基づいた行動からしか生まれない。

まとめ

「“借りた善意”では信頼されない──誠実は自己から始まる」

この章句は、「行為の外形」ではなく、「行為の根底にある動機と責任性」を重視する孔子の倫理観をよく表しています。
ビジネスにおいても、“本当に信頼される人間”とは、自己の資源と覚悟をもって行動できる人であることを、この短い一文が端的に教えてくれます。

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