家庭の中には、一人ひとりの真心によって生まれる“本物の仏”が存在し、
日常の生活には、真実の道が息づいている。
それは、父母や兄弟との関係において、誠意と和気を持ち、
穏やかな顔つきと優しい言葉で接し、
家族全体が心身共に調和した一体感を持って生きることによって実現される。
このような家庭の在り方は、難解な道教の呼吸法や仏教の坐禅修行にまさる、
何万倍もの価値ある修行なのである。
「家庭(かてい)に個(いっこ)の真仏(しんぶつ)有(あ)り、
日用(にちよう)に種(しゅ)の真道(しんどう)有り。
人(ひと)能(よ)く誠心和気(せいしんわき)、愉色婉言(ゆしょくえんげん)もて、
父母兄弟(ふぼけいてい)の間(あいだ)をして、形骸(けいがい)両(ふた)つながら釈(と)け、
意気(いき)交(まじ)ごも流(なが)れしめば、調息観心(ちょうそくかんしん)に勝(まさ)ること万倍(まんばい)なり。」
注釈:
- 真仏(しんぶつ)…形式ではなく、心の内に生まれる本物の仏。家庭の中での真実の存在。
- 真道(しんどう)…真理の道。毎日の暮らしの中にこそ、真の修行があるという教え。
- 誠心和気(せいしんわき)…真心と穏やかさ。誠実で調和した人間関係を築く基本。
- 愉色婉言(ゆしょくえんげん)…にこやかな表情と優しい言葉づかい。
- 形骸両つながら釈け(けいがいふたつながらとけけ)…身体と精神がともに溶け合い、一体化して調和している状態。
- 調息観心(ちょうそくかんしん)…呼吸を整えて気を養う道教の修行法と、心を観じて真理を求める仏教の瞑想法。
1. 原文:
家庭有個眞佛、日用有種眞道。
人能以誠心和氣、愉色婉言、使父母兄弟閒、形骸兩釋、意氣交流、勝於調息觀心萬倍矣。
2. 書き下し文:
家庭に個の真仏(しんぶつ)有り、日用に種の真道(しんどう)有り。
人、誠心和気(せいしんわき)、愉色婉言(ゆしょくえんげん)をもって、父母兄弟の間に形骸(けいがい)両(ふた)つながら釈け、意気交流(いきこうりゅう)せしめば、調息観心(ちょうそくかんしん)に勝ること万倍なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「家庭に個の真仏有り、日用に種の真道有り」
→ 家庭の中には一体の真の仏があり、日常生活の中には真理の種がある。 - 「人、誠心和気、愉色婉言をもって」
→ 人が、誠意ある心と和やかな雰囲気、そして穏やかで優しい表情とことばをもって接するならば、 - 「父母兄弟の間に、形骸両つながら釈け、意気交流せしめば」
→ 家族の間で、表面的な体裁やしがらみを解き放ち、心と心が通い合うようになれば、 - 「調息観心に勝ること万倍なり」
→ それは、呼吸を整え、内面を見つめるような修行よりも、はるかに価値がある。
4. 用語解説:
- 真仏(しんぶつ):本当の仏、ここでは家庭における慈しみや和の象徴としての“悟り”の存在。
- 真道(しんどう):真理の道。仏教的な道理、または人の在るべき生き方。
- 誠心和気(せいしんわき):誠実な心と穏やかな態度。
- 愉色婉言(ゆしょくえんげん):にこやかな表情と柔らかで優しい言葉。
- 形骸両釈(けいがいりょうしゃく):形式的な態度や外面的な関係を捨てて、本質でつながること。
- 意気交流(いきこうりゅう):感情や気持ちが通じ合うこと。
- 調息観心(ちょうそくかんしん):呼吸を整え、心を静めて自己を観察する仏教的な修行法。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
家庭という身近な場所にこそ、真実の仏があり、
日常のふるまいの中にこそ、真の道理がある。
人が誠実な心と和やかな雰囲気、穏やかな表情と優しい言葉で家族と接し、
形式や体裁を捨てて心を通わせることができれば、
それは静かな修行や瞑想よりも何倍も価値のある、尊い修養になる。
6. 解釈と現代的意義:
この章句は、**「家庭生活こそ最高の修行の場である」**という、非常に実践的かつ深い人間観を示しています。
家庭内での和やかさ、誠意ある関係づくり、言葉と態度による調和こそが、
宗教的な修行や理想的な道徳教育よりも深く、人間を磨く道となるという教えです。
心の修養は“座禅”や“山にこもる”ことではなく、
日常の対人関係の中でこそ試され、練られていくという、現実的かつ道徳的な思想です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「日常の中に“信頼と徳”を育てる場がある」
家庭も職場も、信頼や誠意をもって接することで、形式を超えた深い関係が築かれる。
それが最も根本的な人間修養である。 - 「笑顔と穏やかな言葉が、組織の空気を変える」
堅苦しい会議よりも、日々の柔らかな声かけや態度が、長期的な信頼と安心感をもたらす。 - 「家族との関係が、自身の人格と判断力を養う」
経営やリーダーシップを担う者にとって、家庭の在り方はそのまま“人間力”の根幹となる。
私生活の調和が、仕事にも如実に影響を与える。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「家庭に仏あり、日常に道あり──誠意と和気が人間力を鍛える」
この章句は、「内面の修行とは日常の行いである」と強く語りかけてきます。
日々の人間関係こそが、最大の修行であることを忘れないようにしたいものです。
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