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独自の信念を持ちながらも、偏らず公を見据える

自分の考えが少数派であったとしても、
それが正しいと信じるものであれば、他人に合わせて曲げてはならない。
しかし、だからといって他人の意見を無視して、自分の考えに固執するのもまた誤りである。

また、目先の小さな利益や感情的な損得にとらわれて
大きな流れや本質(=大局)を見失ってはならない。

さらに、公の世論を利用して私的な怒りや鬱憤を晴らすようなことも慎むべきである。

この四つの戒めはすべて、
信念を持ちつつも、それが「偏見」や「私欲」によって汚れないようにするための知恵である。


原文(ふりがな付き)

群疑(ぐんぎ)に因(よ)りて独見(どっけん)を阻(はば)むこと毋(なか)れ。己(おのれ)が意(い)に任(まか)せて人(ひと)の言(げん)を廃(はい)すること毋れ。小恵(しょうけい)を私(わたくし)して大体(だいたい)を傷(そこな)うこと毋れ。公論(こうろん)を借(か)りて以(もっ)て私(し)の情(じょう)を快(こころよ)くすること毋れ。


注釈

  • 群疑に因りて独見を阻むこと毋れ:多数派に囲まれても、正しいと信じる意見(独見)を引っ込めてはならない。ただし、【111条】のように「公正な意見には私情で反対してはならない」点とのバランスが重要。
  • 己が意に任せて人の言を廃すること毋れ:自分の意見にこだわるあまり、他人の意見を頭ごなしに否定してはならない。
  • 小恵を私して大体を傷ること毋れ:目先の得や好都合を追い、大局(大義、公の利益)を損なう行為への戒め。
  • 公論を借りて以て私の情を快くすること毋れ:世論や多数意見を盾にして、自分の怒りや欲求を正当化しようとしてはならない。

パーマリンク(英語スラッグ)

  • hold-your-truth-with-humility(信念を保ちつつ謙虚であれ)
  • balance-principle-and-perspective(信念と全体観のバランス)
  • never-abuse-public-opinion(公論を私利に使うな)

この条文は、現代の社会や組織においても極めて重要な**「意見の持ち方と出し方」**の原則を教えています。

  • 信念を失わない強さ
  • 他者の声に耳を傾ける柔らかさ
  • 大局観をもつ広い視野
  • 正しさを私情にすり替えない誠実さ

これらすべてを兼ね備えたとき、人は信頼される発言者・判断者となります。

目次

1. 原文

毋因群疑而阻獨見。
毋任己意而廢人言。
毋私小惠而傷大體。
毋借公論以快私情。


2. 書き下し文

群疑に因りて独見を阻むことなかれ。
己が意に任せて人の言を廃することなかれ。
小恵を私して大体を傷つけることなかれ。
公論を借りて、私情を快くすることなかれ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 多数の疑念によって、一人の優れた見解を否定してはならない。
     → 大勢が疑っているからといって、少数の貴重な意見を潰してはならない。
  • 自分の考えにこだわって、他人の意見を無視してはならない。
     → 独断に走って他者の助言や考えを排除すべきではない。
  • 些細な私的な恩恵のために、大局を損なってはならない。
     → 小さな親切や配慮が、組織全体の正義や秩序を崩すことがあってはならない。
  • 公的な意見を利用して、自分の感情を満足させてはならない。
     → 公平さを装いながら、実は私怨や好き嫌いを晴らすのは卑劣である。

4. 用語解説

  • 群疑(ぐんぎ):多数の人が抱く疑い。集団的な懐疑心。
  • 独見(どくけん):他に流されず、自分の独自の視点で見抜いた意見や真理。
  • 任己意(じこいにまかす):自己中心的な考えに固執すること。
  • 小恵(しょうけい):小さな恩恵・親切。主に私的なものを指す。
  • 大体(たいたい):全体の秩序・道理・公正な原則。
  • 借公論(しゃくこうろん):世間の正義や第三者の声を口実にすること。
  • 快私情(かいしじょう):自分の感情(怒り・好悪)を満たすこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

世間や集団の疑念によって、一人の優れた意見を退けてはならない。
また、自分の考えだけに固執して、他人の意見を排除するのもいけない。
小さな親切や私情で、全体の秩序や正義を傷つけてはならず、
公の意見を盾にして、私情を晴らすようなことも慎まねばならない。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、判断力・公平性・公私の分別という、組織や社会におけるリーダーの根本姿勢を教えています。

  • 少数派の声を潰さない柔軟性
     → 多数決=正義ではなく、「独見」こそ革新や洞察の源。
  • 独断専行を戒め、他者の意見を受け入れる謙虚さ
     → リーダーには「決断力」と同時に「耳を傾ける力」が求められる。
  • 私的な感情や人間関係で全体の秩序を壊さない
     → “身内びいき”や“忖度”が組織の健全性を損なう。
  • 正義やルールを“言い訳”に使わない
     → 公平の名のもとに、私怨を晴らすのは本末転倒である。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「少数意見を押し潰すな」

  • 新規事業の提案や改善案が、「皆が反対している」だけで退けられてはいけない。
    → “独見”を尊重することで、イノベーションが生まれる。

● 「独断で突っ走らず、意見を聴くリーダーに」

  • 成果主義の名のもとに、自分の判断だけを信じて突き進むと、視野狭窄と孤立を招く。
    → 組織においては、「聴く力」が統率力に直結する。

● 「“小さな親切”が“大きな不公正”にならぬように」

  • 知人を特別扱いしたり、感情に流されて判断を下すと、組織の信頼性を損なう
    → ルールと公正さは、組織運営の基盤。

● 「正義の仮面を被った私怨は、最も醜い」

  • “みんなも言ってる”や“これは全体のため”と言いつつ、実際には私憤や嫉妬をぶつける。
    → そうした行為は、信頼・権威・倫理を一度に失う行動である。

8. ビジネス用の心得タイトル

「正しさを装うな、公平に徹せ──独見を尊び、私情を抑える胆力を」


この章句は、組織のリーダーや管理職が持つべき判断と倫理の要を、鋭く説いています。
「公」と「私」、「多数」と「真実」、「感情」と「規律」──
これらを見誤らずに行動することこそが、信頼される人物・組織の礎となるのです。

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